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パステル。  作者: q69p
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6色目


「なあ、少年、お前もきっとそうなんだろう?」

「なっ、なんでバレて!?」

私の腕の中で灰色の男の子がもぞりと動く。

ああ、起きてたんだ。

私はその程度の感想しか持ちえなかったが、ヒナは違ったようだ。

「お、起きて、たの?」

「あ、あ、あ、ああ。

………起きて、た」

「そ、そそ、それじゃあ、ささ、さっきの話も全部!?」

「あ、ああ、そ、そうかな?」

ぷすん。

ヒナがオーバーヒートした。

多分、さっき私が口に出した人間の生殖についての話題に対して、顔を赤くしているのだろう。

そのくらいしか思い当たる要素が無い。

しかし、彼が寝ている前提で会話をしていた段階では、ヒナは先生をからかうほどの余裕があったのに、なぜ、少年が起きると、顔を赤くするのだろう?

よくわからない。

気になる。

「ヒナは、男の子がいると、顔が赤くなる?

なぜ?」

ついうっかり、頭の中の疑問を口に出してしまった。

「はわわわわわわわっ!?

へあぁ〜っ!」

髪の毛がどうかしたのだろうか?

ヒナは廊下の奥へと走っていってしまった。

「おいおい、そんなに虐めてやるなよ、ユーリ」

「私、ヒナを傷つけていた?」

「いんや、違うさ。

ってか、その反応ってことは違ったのか」

「何の話し?」

「こっちの話し」

よくわからない。

先生が唐突に背を屈める。

「おっと、悪いな坊や。

置いてけぼりにしちまって」

ふざけた調子で、先生が言う。

「その姿勢、その喋り方、俺に深刻な精神的損害をもたらすんで、やめていただきたいんだが」

「なんだ、坊やのくせに、随分むつかしい言葉を覚えてるなぁ。

よしよし、えらいえらい。

お姉さんが褒めて遣わそう」

先生が、さらさらと音をたてて、灰色の髪を撫でる。

少年の髪はとても触り心地が良さそうだ。

私も撫でたい。

「だから、坊やじゃねえっつってんだよ!!」

「ははーん。

成る程、そういうお年頃か。

だが、必死で大人ぶろうとするも、なかなかその腕から離れることができない。

おう、じーざす。

萌えるじゃないか」

「気色悪い目で見るなっ!あ、あと、その、そろそろ離してくれないか?」

そういえば、まだ彼を支えている体制のままだった。

腕を離す。

すると、暖かさも離れていった。

なんというか、まだ眠っていたいのに、お布団を取られてしまったような、そんな気持ちだ。

「ありゃ、なーんかあたしの扱いだけ酷くないかい?

ヒナと話してた時なんか、かみかみのしどろもどろだったくせに」

「あ、あれは、あいつのアレが移って。

それにしても、なんであいつはあんなに慌てていたんだ?」

「ふふ、坊やは気にしなくてもいいことだよ。

じきにわかるようになるさ」

「だから、坊やじゃねえっての。

俺はもう十八だ」

ほう、これには私も少し驚いた。

十八歳といえば、もう成人として扱う国もあったっけ?

「十八……って何が?」

先生が不思議そうな顔をしている。

そういえば、先生が元居た世界には、年齢どころか年という概念すら存在しないらしい。

大人と子供の区別は一応あるらしいので、それを使って説明する。

「へえー。

つまり、このショタっ子は、実はショタではなく、ショタジジイだと?

へえええぇぇぇぇぇ?」

時々先生はよくわからない単語を使う。

どうやら自動的に言語の調整が効いているらしいこの世界でも、全く聞きなれない言葉だ。

訝しげな視線を少年に向けているので、きっとあまりいい意味の言葉ではないのだろう。

「ぷっ。

俺でジジイだったら、お前は化け物ババアだな」

「あ、あたちぃ〜。まだ幼女だしぃ〜。

人は見た目通りの年齢じゃないし〜。

ってか、お前自身がそれ証明しちゃってるし〜。

って、その場合でも、あたしは見た目ババアってことなのかい!?

そういうことなのかい、おい!?」

先生が少年の肩を掴んで、ぶるんぶるんと揺らす。

一体あの行為にはどういった意味があるのだろう?

「ぐ、ぐふ、すんませんでした、お姉さま。

だか、ら、もう、止め、て、くだ、し」

散々揺らした後、先生はふう…と満足げにため息をついて、すっかり顔が青くなってしまった少年から手を離した。

「大丈夫?」

声を掛けて、肩をさすってみる。

「おぶっ」

しまった。

少し強くやりすぎてしまったかもしれない。

そのままばたりと、少年は倒れてしまった。

「先生……」

「ああ、あたしもちょっとやりすぎたよ。

頭の方持つから、寝室に運ぼうぜ」



もう随分と少年、いや、青少年の寝顔も見慣れてしまったような気がする。

時々耳がピクリと動くのを、ただひたすらぼうっと眺めていると、落ち着く。

ある時、耳と一緒にピクリと目蓋が動いて、青少年が目を覚ました。

キョトンとした灰色の瞳と目が合う。

暫くして、青少年が慌てたような素振りで、目を逸らした。

少し残念だ。

もう少し青少年の目を観察していたかった。

「さっきは、悪かった」

どこか、私がいるところ以外のどこかをぼうっと眺めて、少年がつぶやく。

「何の話し?」

「その、君たちの話し、盗み聞きしてたこと」

どうやら、先生に対してはお前と呼ぶのに、この青少年は私に対しては君を使うらしい。

なぜ、そこに違いが出るのだろう?

「……なあ」

「?」

「ここは、俺が元居た世界、お袋がいて、学校があって、くだらない日常があって、実験がある、あの世界じゃないんだよな?」

「どの世界?」

「あ、いや、君に聞いても、仕方がなかったか。

忘れてくれ。

…その返事でなんとなくわかった」

わかられてしまった。

なにか、置いてけぼりにされてしまったような気がして、私は彼が被っている布団の端を掴んでみる。

どこも見ていないような目で、彼はまた語り始める。

「俺さ…」

………………。

その後には、なかなか言葉が続かなかった。

「いや、なんでもない。

これも忘れてくれ」

結局言葉の続きはわからなかった。

彼だけがわかっていて、私にはわからない。

まだ、視界にすら入っていない段階なのかもしれないけれど、そこからまた更に、彼に距離を離されてしまったような気がした。

「あの」

せめて、歩きだそう。

なぜそうするのかは、わからないけれど。

「なんだ?」

「髪を……撫でさせて………………ください」



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