4色目
ごん、ご、ご、ごん、ごん、……ごん、ごん。
先生の家のノッカーを、決められたリズムで叩く。
こうしないと、中に入れてくれないのだ。
「お〜う、入れぇ!」
扉の奥から、少しくぐもった声が響く。
「よい、しょ。
おっじゃましまぁす!」
一旦少年を受け取って、ヒナに扉を開けてもらう。
無駄に荘厳な扉は、私の力では開けられない。
必然的に、私が先生の家に行く時は、ヒナが先生の家に行く時だったりする。
「先生、どこにいるの?」
無駄に広く、且つ無駄に煌びやかな家の中を進む。
広さゆえに、充分に日光が行き届いておらず、薄暗さをシャンデリアのロウソクで、さらに薄めていた。
先生も、わざわざこんなに住みにくそうな家を選ぶなんて、変わっている。
「先生じゃねえよ。
セン・セイだ。
親しくセンと呼ぶか、他人行儀にセイ氏と呼ぶか、どちらか選べ」
丁度私達の真上から、声が降りてくる。
まさか。
その真上を見上げると、シャンデリアに足をコウモリのように引っ掛けて、黄緑髪の女性が私達を見下ろしていた。
「とうっ!」
鋭い掛け声と共に、先生がシャンデリアから足を外し、クルクルと前転しながら落下する。
シュタッ!
着地も綺麗に決まった。
「あたし、参上!」
先生が住んでいた世界には、ドヤ顔という種別の表情があるらしい。
成る程、今の先生は、まさしくドヤ顔だ。
パチパチパチ。
ヒナが歓声をあげ、手を叩く。
「ふふん。やっぱ、初登場はクールに決めないとな!」
「なんの話しですか?先生」
「大人には、いろいろあんだよ。初登場に影が薄いと、すぐに読者に忘れさられちまう…。
ってか、先生って呼ぶなっつったろ。
あたしゃ、そんな高尚な生きもんじゃねぇよ。
親しくセンと呼ぶか、他人行儀にセイ氏と呼ぶか、どちらか選びたまへ」
「じゃあ、間を取って先生で!」
「同意」
「どことどこの間だよ!
ってか、本当に間だったら『・』になっちゃうだろ!
なんて読むんだよこれ」
「中点又は中黒と読むらしい」
このあたりで先生が、私が何かを背負っていることに気がつく。
「ところで? 今日はなんか収穫あったん?」
そうだった、これが本題だった。
私は背中に背負っていた彼を、先生の前に差し出した。
「はえ!? ええぇええ?」
漫画のような表情で、先生が驚く。
「私達も、驚いた」
「うん。 まさか人を拾ってくることになるとは、思わなかったよね」
「……こいつと、何か、会話はしたのか?」
「……ちょっとだけ」
「………どうだった?」
「………やっぱり私達と同じく、他の場所からここに来たみたい」
「はあ。 なあんだ。
ここの先住民だったら、何か聞き出せないかと思ったんだが」
「それでも、私達と同じ人間を見つけただけ、大きな進歩だと思う。
それに、多分この子、男の子だ」
「あ、いや、そりゃ見りゃわかるよ」
先生が男の子を一瞥する。
「もしかしたら、見た目だけかもしれないかもかも?」
ヒナも男の子?を一瞥する。
なんだか悔しいので、私も一瞥してみた。
とはいっても、彼が崩れないように支えている都合上、どうしても後頭部しか見えないのだが。
………………。
全員黙ってしまった。
「……」
「…………」
「…ところで、よう」
こういう時は、必ず先生が真っ先に沈黙を破る。
大人の役割り、と、先生は言っていたが、毎回なんとも気まずそうな表情で何かを喋り出すので、ただこういった空気が苦手なだけなのかもしれない。
「ユーリがさっき言ってた、『それに、多分この子、男の子だ』って、どういう意味合いでの『それに』なんだ?」
「私達は、ここにいる人間を私達以外に知らなかった。
私達は全員女性。 これは間違いない。
これでは、私達の寿命がここで尽きてしまった場合、ここに人げ…」
「わ、わかったわかった! もういい。
大人しそうに見えて、案外そういうのに耐性あるよなお前」
先生が頬を染めて、手をぶんぶん振り回し、私の言葉を遮る。
ヒナがやると、きっととびきり可愛く見えるのだろうが、先生がやると、なんだか色っぽい。
私がやると、どうなるんだろう?
「あはは。 先生は耐性なさ過ぎだよう」
「ご、ごほん。 それは兎も角だ。
ユーリ、お前、そんなに長い時間ここにいるつもりなのかよ?
ここで、人生終わっちまっても、いいのか?」
私は、少しの間、自分の返答を待って、その答えを先生へと伝達した。
「ここにいたい」