3色目
ロボットと刺し違えて、灰色の髪をした男の子がバタリと倒れる。
私たちを守ってくれたのだろうか?
「ほ、ほあえ〜?」
突然いろいろな事が起こると、ヒナはこうして惚けてしまう。
これがまた、かわいい。
ついつい、ぽうっとヒナを見つめてしまう。
……幸せ。
私まで、惚けている場合じゃない。
男の子の口に手を当ててみると、空気の流れを感じた。
よかった、気絶していただけのようだ。
男の子を抱きかかえてみた。
男の子は思った以上に細くて軽くて、まるで風にでものって、ふわりと何処かへ飛んで行ってしまいそうな、そんな印象を受けた。
「ヒナ、起きて。
先生のところに行こう」
「はう……うん」
電気のことや、さっきのロボットが何故私達を追いかけてきたのか、そもそもこの男の子はなんなのか。
気になることは山積みだけど、この子を放っておくわけにもいかない。
とりあえず、先生のところに置かせてもらおう。
私達はロボットがやってきた壁と壁の間をくぐり抜けた。
「ヒナ、そろそろ、交、た、い」
私はぜぇぜぇと肩で息をしているようだ。
疲れ過ぎると、まるで自分が自分でなくなるかのような感覚を受ける。
「だ、大丈夫、ユリちゃん!?
すごい汗だよ!」
ヒナが私の背中の彼を受け取る。
大分楽になった。
「ユリちゃん。
どこかで休んでこう?」
「うん」
こういう時には、素直に首を縦に振らせてもらった方がいい。
ここに来てから学んだことだ。
駄菓子屋。
私が前に居た世界では、そう呼ばれていた。
今私達の前にあるそれは、そこでのそれとは少し違っていて、店の外側には車輪が付いていて、店の中にはそこだけ新品の、なんともチグハグなソファーが置かれている。
それでも、古くからあるもの独特の、暗い色合いの木材や、チリンと涼しげな音を鳴らして、風に揺れる風鈴が、私の記憶の中のそれと被って見えた。
始めてこれを発見した時は、二人で押して家まで運ぼうとしたっけな。
あまりにも重すぎて、ピクリとも動いてはくれなかった。
「ユリちゃん」
冷えたビンが頬に当たる。
「つべたっ」
にひひとヒナが笑う。
「飲ませてあげる」
大きなソファーに、仰向けに寝転がったまま、私は口を開ける。
トクン、トクン。
少しずつ、ラムネの味が、感触が、水分が、体に染み渡っていく。
おいしい。
「ねえ、ユリちゃん」
自分の分と私の分の、殻のビンをカウンターの端に置きながら、ヒナが口を動かした。
もう十七本目か……。
目を動かして、青と緑と紫を混ぜたような色の、ビンの本数を数えながら、ヒナの言葉の続きを待つ。
「この子、どういう子だと思う?」
この子とは、私の隣で寝ているこの男の子のことだろう。
横向きに体を倒して、男の子と向き合ってみる。
背は私よりも高そうだけれど、顔のパーツの一つ一つが幼さを主張していた。
「ヒナはどう思う?」
「私は……。
この子は私達を助けてくれたけど、白馬の王子様とか、そういう感じの子じゃないと思う。
なんとなく、だけどね」
なんともヒナらしい回答だ。
水色の地面を歩いていく。
「この男の子は、きっと、私達と同じなんだと思う」
「その心は?」
ヒナがおどけた調子で聞き返してくる。
ヒナが昔居た世界の文化には、謎掛けというものがあるらしい。
「きっとこの子も、もともと住んでいた世界から、突然ここにやって来た。
そういう状況的な意味での同じもあるけれど、あのロボットに向かって走って行く時のこの子の表情は、外に出て、不思議探しをしている時の、私達に良く似ている……気がした」
全く同じかどうかは、少し自身が無い。
いや、自身があっては困る。
普段から、あのような危ない表情をしているとは思いたくない。
ヒナは私の言葉を受けて、歩きながらううんと考え込む。
「…………男の子、かぁ」
「うん?」
「本当に、男の子なのかなぁ、なんて思ったりして」
「えっ?」
「…そうだったら…いいのになあ」
一体、どうしたのだろう?
ヒナが暗い顔をすることなんて、あってはならない。
けれど、一体それがどういうことなのか、ヒナに聞く勇気もなくて、結局臆病で鈍感な私は、口を塞いで歩いて行く。