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パステル。  作者: q69p
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俺は一体何をしているんだろう?

手の平の上には通販で買った携帯型のスタンガンがある。

俺はなんのためにこんなものを?

ああ、あれだ。

そういう妄想をしてたんだった。

突然街中で暴漢に襲われる女の子。

いや、別に街中じゃなくてもいい。

学校をテロリストが占拠するってのもなかなかいい。

ただ、襲われるのが女の子だってところは変えちゃいけない。

もちろん、美少女ならその方がいい。

とにかく、その女の子をこのスタンガンを使って救うのだ。

それで………その後は……。

ああ……わからない。

なんでこんなものを買ったしまったのか。

「ご飯出来たよ〜。

早く降りてらっしゃい」

「…今行く」

そうだ、これだ。

これが俺の日常だ。

ごく普通に学校に通って、ごく普通に家に帰って、ごく普通に母親の作った飯を食う。

なんだよ、充分幸せじゃないか。

ごく普通すらどう頑張ったって手に入らないやつだっている。

そんな奴らに比べれば、俺は充分幸せな筈だ。

幸せな筈……。

時々俺は、今以上の身の丈に合わない幸せを求めて、馬鹿げた妄想をして、挙句の果てに中途半端なところまで実現してしまう癖がある。

その結果、このような無駄な浪費をして自己嫌悪に陥るのだ。

手元のスタンガンを見つめる。

きっと、これが役に立つようなことは起こらないだろう。

「はあ……」

高3にもなって、未だに心は中2か。

いや、微妙に実行に移してしまうあたり、あいつらよりも酷いかもしれない。

つい、ため息を吐いてしまう。

「何してるの〜?

早くしないと冷めちゃうわよ〜」

「おう」

腹減ったな。

いい加減もう行かないと、母親が拗ねてめんどくさくなる。

…手元のスタンガンをもう一度見つめ直す。

うん、やっぱりいらねぇ。

俺は躊躇いなく、ゴミ箱の方にスタンガンを放り投げた。

ガツッ!

ゴミ箱の淵にスタンガンがぶつかった音だ。

チッ、外したか。

それだけに留まらず、ゴミ箱の淵がバインッと妙なたわみ方をして、こっちにスタンガンを跳ね返してきた。

あ、そういやあれ、電池抜いてたっけ?

かわすどころか、声をあげる間もない。

スタンガンは、丁度電極部分をこちらに向けて、俺の額のあたりを目指して、真っ直ぐ飛んできたのだった。

もちろん、なぜかスイッチが入った状態で。


〜〜

〜〜〜


「ユリちゃん、大変だよぉ!

男の子が、男の子が、死んじゃってる!?」

うるせえ。

まだ死んじゃいねえよ。

あんな間抜けな死に方できるかって。

甲高い悲鳴が耳に突き刺さったことで、次第に意識がはっきりしてくる。

右手が暖かい何かに掴まれているのがわかる。

視界はまだはっきりしない。

知らない声が聞こえた。

どうやら二人いるらしい。

一人はさっきの甲高い声の女で、すぐ近くから聞こえる。

俺の手を掴んでいるのはこいつだろうか?

もう一人はなんだかよくわからない。

ただ、綺麗な声をしているなとだけ、曖昧な感想を持った。

しかし、なんで俺の部屋に知らないやつが二人も居るんだ?

俺がスタンガンで気絶している間に何があった?

…まだ、視界がはっきりしていない。

どころか、何も見えない。

まさか、スタンガンの電流で失明したのか!?

サーっと全身を冷たい汗が流れる。

いや、この感じは。

なんだ、目が閉じっぱなしになっていただけか。

まぶたを開くと、赤いような黄色いような、よくわからない色の髪をしたちんちくりんと目があった。

ちんちくりんの小動物のような目が、キョトンとわかりやすく動揺を伝えてくる。

「えっと、生きてる、の?」

間延びした声だ。

どこかで抱いていた警戒心が一気に薄れた。

「生きてるっての」

ピクンとちんちくりんが衝撃を受ける。

「しゃ、シャベッタアァ!」

それに合わせて、背中にあたっているグニッとした何かが微かに揺れる。

俺のベットの感触……じゃないな、明らかに。

とりあえず、起き上がる必要がある。

そのまま状態を起こすと、ちんちくりんに頭をぶつけてしまいそうだったので、横に軽く転がってから起き上がる。

目に飛び込んできた景色は…

「なんだこりゃ?」

見慣れないデザインの鉄製の壁。

床一面にぶちまけられた、異様に太いケーブルの束。

そして何より、どこを探しても出入り口どころか窓すら見つからないこの閉塞感。

どう考えても、俺の部屋では無かった。

「なんだこれ。

ここ、どこだよ?」

心からの声が口から漏れた。

「ヒナ、ちょっと」

もう一人の女が、ちんちくりんを呼んで何やら二人だけで会議を始めてしまった。

まだ来たばかり、だの、どうしよう、だの、そんな単語が漏れ聞こえてくる。

一体どうなってる?

あれか、夢か?

自分で自分の頬を抓ってみる。

じいんとした現実的な痛みが俺の頬に広がった。

やばいな、これは。

現実だよ、これ、わけわかんねぇよ。

目が覚めたら、女の子二人と謎の密室にいた。

しかも、ちんちくりんの方も綺麗な声の方も、方向性は違えどなかなかの美少女……。

そうだ、ここでこの謎の密室の主が突然現れ、罠にかかった獲物達を仕留めにくるのだ。

そこを俺が………。

ポケットのあたりに不自然な重みを感じる。

その中に手を入れると、思った通りスタンガンがはいっていた。

そこを俺が、このスタンガンで………

ヴイィィン。

電気的な音を立てて、突然壁の一面がパックリと割れた。

「ゆ、ユリちゃん、また来たよ!」

「……しつこいのは、好きじゃない」

その穴の向こうから、右手に大型のナイフを、左手に銃らしき何かを装備したある程度小ぶりのロボットがやって来た。

…………こいつだ。

ずっとこいつを待ってたんだ!

そう思った瞬間には、もう俺は走り出していた。

下手をすれば死ぬかも、とか、外側の装甲が絶縁体で出来ていて、電撃が効かなかったらどうしよう、とか、そんなことも考えたかもしれないが、そんなもの気にならなくなるぐらい、俺の頭の中は、危なっかしい色に染め上げられていた。

さあ、突きたてろ!

突きたてて、あいつを倒して、この窮地から俺が救わなければ。

そしたら、そしたら………


た!の!!し!!!い!!!!


間合いに入った。

ナイフが煌めく。

腕から血が出た。

手をのばす。

スタンガンを。

スタンガンを。

スイッチを入れた。

「アアアアァァァァッッッ!!!!」


最後の抵抗、だったのだろうか。

ロボットはショートして機能を停止する寸前に、俺をその硬質な腕で殴った。

当然俺の方にも電気が流れた。

最後に二人の女の子の声を聞いた気がする。





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