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12.ヴァルラ横断修行の旅 姫と野盗と殺人と

 宣言通り、イベント以外はかなりキンクリしてます。

 ということなのでイベント発生。

 特にイベントも起こらなかった――と姫月は思っている――小さい町を出発して西方に向けて歩き続けること早七日。旅の目的の半分が自分の修行なので途中にある町や村にはそれほど通りかからないルートで進行し、日々を鍛錬に費やしている。最初の四日間もそうだが、サバイバル経験など無い癖に一週間もよくも森の中で過ごせたなと思うが、これは全てエルディアの生活能力のおかげである。ほんと、一体どんな修行時代を送っていたのやら。


 「きゅぅ~……」

 「……」

 〔……〕


 さて、ここまで何の問題もなくやって来たわけだが、実は今まさに問題というかイベントが発生している。

 栗色の髪を腰あたりで纏めている、見た目十代後半のそこそこな顔の少女。その少女が野営しているところに突然やって来たのだが、そのまま目を回して倒れてしまったのである。もちろん。ただ倒れただけなら俺もエルディアも普通に対処するのだが……。

 

 「んくっ、これはどこぞの百合ゲーのワンシーンか、あはぁ」

 〔真顔で一体何をほざいておる〕


 もみもみ、と胸に付いているお肉に揉まれる感触が走る。

 そう。この少女ただ倒れるのだけではなく俺たちの方に寄りかかるように倒れてきたのだが、気絶しているはずなのにその両手だけがまるで独立しているかのように胸を揉みしだいしているのである。それも、結構強く。

 この体になって胸を揉まれるという感覚は初めてだったので、突然の摩訶不思議感触に変な声を上げてしまう。


 〔で、この少、んっ、女はどうす、あぅ、るんジャ〕

 〔初めてだからといって感じるな馬鹿者。当然、今すぐ引き剥がしつつたたき起こせばよかろう〕

 〔え、でもこの光景は、へぅ、は中々に見応えが……スンマセンですた! すぐ引き剥がします!〕


 百合ものを見ているような感じで目の前の光景を堪能してたらものすごい目で睨まれました。くそ、ゲーム内であったスクショがあれば脳内フォルダに永久保存できたものを。

 まあ、このままにしてエルディアからお仕置きされるのは嫌なので叩き起すことにする。

 胸を掴んでいる両手の手首を掴み、剥がして持ちつつ焚き火の真上、火が燃え移らないぐらいの高さに固定する。

 酷いかって? 王様のご命令なので仕方ないんだ。


 「う……ん? なんか、とてつもなく暑いようなそうでないようなって私火炙りにされてます~!?」


 案外早くめさましたようで、自分の置かれている状況に仰天した。

 起こすことが目的でやっていたことなので、直ぐにそこらの地面の上におろしてあげた。


 「ふうぅ、危うく炙りセリカが出来上がるところですよ~」

 「それは残念だったノウ」

 「およ? どちら様でございますでしょうか?」

 「それは俺、もといワラワのセリフジャ」

 「ワラワ、さんですか? 変な名前ですね~」

 「んなわけあるかっ!」


 なかなかにボケが得意そうな少女である。


 「あ、私の名前はセリカ・ラ・ヴァルラリスと申します。どうぞよろしくお願いします。ワラワさん」

 「だから違うつってんだろうが! 俺の名前はエルディア・デモンナイト! そんなののワさんみたいな名前じゃない!」

 「そうなんですか~」


 ボケ続けるのでつい元の口調でツッコミ名乗りをしてしまったが、俺は悪くないと思う。うん、このボケボケ少女が悪いのである。


 「じゃあ、エルディアさん。改めましてよろしくお願いします」

 「何がよろしくかは知らんが、まあよろしく」


 急に出された手に少し戸惑いながらも握手を返す。

 それにしてもこの少女。すごく扱いづらい。


 「で、そのセリカ・ラ・ヴァルラリスさんはどうしてこんなところにいるんジャ?」

 「ああ、そうでした。私、結構な家柄の娘なのですが」


 まあ、名前からして貴族っぽいしな。


 「いままでロクに城……ではなく家から出たことがないのです。ですからお忍びで旅行していたのですが」


 いま城とか言わなかったか?

 ああ、名前にもヴァルラって入ってるし、なんだか嫌な予感が……。

 その予感は的中したのか、周りに複数の人の気配が。森の中をかき分けこちらに向かってきた。


 「お。やっと見つけたぜ」

 「全く、箱入嬢ちゃんかと思えば逃げ足が早くて困ったぜ」

 「おい、見てみろ。もうひとり誰かいるぞ?」

 「これまた中々に小奇麗な、いい値段で売れそうだ」


 姿を現したのは五人の野盗。姿を見せると同時に、獲物を見つけたハイエナのように喜び口々に喋りだす野盗ども。しかも俺たちまでターゲットにされてないか?


 「とまあ、このように護衛の者をやられてしまい追われていたのですよ」

 「見りゃあわかるよそんなもん」


 とどのつまり巻き込まれた。そういうことです。

 嫌だな、もう。


 〔どうするよ?〕

 〔どうするも何も、妾たちとて狙われているのじゃから駆逐するのが当然であろう。お主が人殺しに慣れる訓練にもなる〕

 〔んなもん慣れたかないよ〕


 とはいえ、いつか人をこの手と意思で殺さないといけなくなるのははっきりしている。だからここで殺しに慣れるのがいいのは当然だ。

 まあ、相手は野盗だ。もしこれがスウェン相手なら少しは躊躇いもあるだろうが、そこまで気負う必要もない。ない、と思う。思いたい。


 「仕方ないノウ」


 どうせ、このまま何もしなかったら慰み物にされて奴隷商人にでも売られるのだ。溜め息を吐きながらも、(アイテムボックス)から何の変哲もない一対の鉄扇を取り出す。撲殺してよし、裂き殺してよし、投擲してよし、盾にしてよしのリーチ以外は割と応用の利く武器だ。本当はもっと上位の武器もあるのだが、嫌な話しだが感触に慣れるためにも今回は普通の物をチョイスした。

 あと力加減についてだが、これは硬度が十五以上ある武器ならなんとか力を入れてもすぐに壊れるという事態にはならなくなった。

 ま、すぐに壊れないだけで掴んでいる間もゴリゴリ耐久力が減っていって十分もすれば壊れるんだけどな。


 「お、なんだあ? もしかして俺たちに抵抗するつもりか?」

 「当然」

 「がははは。聞いたかおまえ等? たった一人でこの人数相手に勝つ気みたいだぞ」

 「おいおい、そんな棒二つでなにができるってんだよ?」

 「あれじゃね? あれを使ってイカせてくださいっていう意思表示じゃね」

 「へっ、あんなものより俺のが気持ちいぜ。ガハハハ」

 「……」


 この姿になってああいう性的な目で見られたのは初めてだが、うん、背筋がゾッとするほど気持が悪いね。世の女性は皆こんな気持ちでいたのか。今度から綺麗な子を見て妄想するのはやめておこう。


 「無駄口叩く暇があったらさっさとかかってきたらどうジャ」

 「おお、そんじゃおじさんが軽く揉んでやるぜ」


 何を揉む気だ、と突っ込みたくなるがここはこらえて両手の鉄扇を構える。

 野盗集団の中から出てきた大柄でハゲ坊主な男は、その手にシミターに似た剣を持っていて、刃を舌で舐めながらゆっくりと歩いてくる。

 どうでもいいが、実際に刃を舐めるやつなんているんだな。下手したら自分の舌が切れるのに。


 「そらっ」


 ゆっくり近づいてきた男はシミターの刃が付いていない方でこちらに切りかかってきた。しかもかなりトロイ。こんなものはそこらの少女でもよけられる。

 完全に舐められているようだが、俺の方はそれに付き合ってやるつもりは毛頭ない。

 普通に右手に持った鉄扇で思い切りシミターを弾き、そのまま左の鉄扇を閉じたまま鳩尾あたりに突き出した。

 バコッ、というおよそ人体に当てた音には思えない音と共に男に風穴が空き、突き出した方向に合わせて肉片と血飛沫が噴水のように飛んでいった。男は自分に何が起こったのかも理解していなかったようで、にやけた笑みのまま絶命していた。

 そこまで強くやったつもりはなかったが、どうやらまた力加減を間違ってしまったようだ。


 「「「「なぁ!?」」」」


 野盗たちは大柄な男を少女が一撃で葬り去ったことで驚きの声を上げた。

 しかし、一方で分かっていたことだが俺は気持ち悪さと吐き気でいっぱいになってしまった。


 〔うげ、気持ち悪……おえぇぇぇぇ〕

 〔ば、馬鹿者! 吐くな、吐くでな……ぬわぁ!?〕


 というか思いっきり吐いてしまった。

 エルディアの悲鳴を聞きながら、先ほど夕食に食べたミとワムステーキ二枚分とオニオンスープが混じりあった汚物が口からどぼどぼと流れ出してきた。ついでに胃液も少し流れてきたため喉がヒリヒリと痛い。あと、飛び散らせる様に吐いてしまったので【闇巫女の服】にも汚物が付着してしまった。

 それが数十秒続きようやく治まって顔を上げると、セリカも含めた周りからも微妙な視線を向けられていた。

 穴があったら入りたい。


 〔あ、ああ、妾の服が……〕


 俺の心配より服の心配かい。


 〔げふっ、ごほっ……ふ、服はアイテムボックスに入れれば元に戻るじゃんか〕


 実際、服などの装備アイテムで耐久力以外ならアイテムボックス内に入れておけば自然に修復されたりしている。

 最初に胸元に穴があいたからと入れておいた【エルディアの服】もしっかり直っていた。ステータス的に見ればこっちのほうが巫女服の方よりも何倍も性能がいい服なのだが、吸血鬼の王としての戦い以外で着る気はないとエルディアは断言した。


 〔そういう問題ではないわ! 罰として懇切丁寧に手洗いするがよい!〕

 〔り、理不尽だ……こちとら初めて自分の意思で人殺してローテンションになってるってのに〕

 〔ふんっ。それくらい言葉を返せれば十分であろう。本当はもっと落ち込むかと思うておったのだがな〕

 〔む、確かに言われてみれば。エルディアの感覚に合わせ続けたせいで気持ちもエルディアの方に傾いてんのかな?〕


 このままいったら姫鬼という人格そのものも同化しちまうんじゃないかな、と少し不安になってしまう。言葉遣いも表では男言葉禁止してるしな。


 「……はっ!? て、てめえらこいつはバケモンだ! 一斉にかかれ!」

 「「「お、おお!」」」


 突然吐いたもんだから野盗たちも呆けていたようだが、頭目らしく男が正気に戻ると俺たちを化け物認定して一斉に襲い掛かってきた。

 ああ、そのまま回れ右して帰ってくれればいいのになんで野盗って無駄に勇敢に攻めてかかってくるかな。


 〔ほれ、しゃきっとせい〕

 〔はぁ……。まあ、もう吐くものもないし、こういうのは下手に長引かせない方がいいしな〕


 追い返したいのは山々だが、力加減ができない俺じゃ気絶させるだとかいった芸当は無理だし、四肢の骨だけ折るなんてこともできない。

 仕方がないので、俺は覚悟を決めることにした。

 あと、エルディアに膝枕してもらうことも。


 「おりゃっ!」


 まず、突出してきた一人が一メートルくらいの斧を上段から思い切り振り下ろしてきた。普通なら俺の持つ鉄扇ごと両断出来るほどの重さが乗った一撃、しかしそれは展開された鉄扇によって軽く受け流され地面を少し抉ったところで動きが止まる。その隙を逃さず、薄い刃を並ばせた鉄扇で斧男の首を半ばまで裂き殺害。

 次いで、斧男の影から不意をつくように迫ってきた短剣男の首狩りをかわしつつ回し蹴り――この時点で短剣男は絶命――を加えて、死角から飛来してきた矢にぶつける。自分の射った矢が当たらなかった男は慌てて第二射を放とうとするが、そうはさせないと左手の鉄扇をブーメランのように投擲。そしてすぐさま背後から迫っていた頭目らしき男の一撃を鉄扇で防ぐ。それと同時に背後から醜い断末魔が聞こえたから投げた鉄扇は無事当たったらしい。もしエルディアがするなら投擲スキルの技でちゃんとしたブーメラン投げができて手元に戻ってくるのだが、魔法専門の俺には使うことができないので投げっぱなしである。


 「くそっ!」

 「やっぱり野盗は野盗か。大して強くない、ノウ」

 「舐めるなぁ!」


 俺の挑発に憤怒した頭目は、両手で持った剣を振り回してきた。しかしながらちゃんとした訓練を積んできた者ならいざ知らず、ただの野盗の頭目ではそれはただがむしゃらに振るっているだけに過ぎず、体のスペックが高い俺にそれをいなすのは至極簡単なことであった。

 数度の打ち合いの末、隙をついて肩口から体を引き裂き殺した。


 〔ふぅ、やっと終わった……〕

 〔吐くでないぞ?〕

 〔もう吐くもんがねぇよ〕


 周りの状態はかなり凄惨である。

 最初の胸に風穴を開けて絶命しているニタ顔の男、首を半ばまで裂いた斧男は倒れた衝撃かポロってしまっている。回し蹴りを食らわせ矢の盾とした短剣男はどういう力の伝わり方をしたのか、服は破れていないのに体は真ん中からボッキリ逝ってしまったようで上半身と下半身が逆向きになっている。頭目は肩口から斜めに裂いたため、斜めに半分に分かれている。鉄扇を投げつけた弓男は脳天に直撃したらしく、鉄扇がモヒカンのように突き刺さっていた。

 かなりスプラッタな光景であった。そしてそれを作り出したのが自分だとは、人生わからないものである。

 もし、まだ胃になにか残ってたらまた吐いていただろう。まあ、これだけやって吐くだけってのも十分アレだが。魂がこの世界、というよりエルディアの身体に馴染んできたのかもしれない。

 

 〔やっぱり、その内俺って消えんのかね?〕

 〔そんなわけがなかろう。このど阿呆!〕

 〔な、なに急に怒ってんだよ?〕

 〔ふんっ、己の胸に聞け。そんなことより、先の小娘はどうした?〕

 〔え、あ、忘れてた〕


 エルディアが突然怒った理由はわからないが、そういえばこの野盗たちを連れてきたセリカは大丈夫だろうか。いきなりあんなグロさ満点のシーンを見せられたのだ。もしかしたら気絶してるかもしれない。

 そう思って、先程まで彼女がいた焚き火の近くを見ると、そこには俺の予想のはるか斜め上の表情をしているセリカがいた。

 ……なんでそんなに満面の笑みなんすか?


 「……です」

 「は、はい?」

 「すごいです、お強いです、最高です、素敵です~!!」


 なんか、ものすごい賛辞の雨を浴びてしまった。

 いや、マジで何よ? 

 読んでくださりありがとうございます。


 姫鬼が殺しに対して酷く狼狽えたり動揺したりしていないのは作中でもある通りだんだんとエルディアに近づいてきているからで、修行で感覚が身に付きやすいのもそれが理由です。

 まあ、感覚や口調が近づいても姫鬼が消えることは滅多なことでは起こりません。滅多なことでは。


 さて、新キャラです。もう完全に解りやすいですが某国のお姫様です。ボケが多い天然さんです。

 ただの旅のお供として付いてくるのか、はたまた国事情に巻き込まれるのか。

 どっちの方が面白いかな?

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