11.ヴァルラ横断修行の旅
前回、閑話を書くといったな。
あれは嘘だ。
……ごめんなさい。納得いくのが書けなかったし、けどいつまでも更新しないのはなぁとおもったので普通に次の話です。
※2012/7/13 タイトル少し変更
「とーちゃーく!!」
モンスターの生息する森の中で過ごすこと早四日。
俺とエルディアはオルクスから東方向に突き進んでようやく地図に示された村へと到着した。
入ったとたんみっともなく叫ぶので周囲からの視線が若干痛いが、それを踏まえても叫ぶほどの価値があったのだ。
〔やれやれ。たかだか四日でタウンシックになるとは情けのうて妾は涙が溢れるぞ〕
〔サバイバル経験皆無の現代っ子にはきつかったんジャ!〕
この四日はきつかった。特に初日以外がもう、ね。
今でこそ最初の一日が本当に加減してくれたのだと分かるほど、エルディアが俺に課す鍛練はきつかった。三日目の朝、現代時間から言うと五時ぐらいの時間帯に叩き起され――精神へのダイレクトアタック的な意味で――て、朝から晩まで移動しながらずっとエルディアの感覚に同調できるよう常に彼女の全てに意識を貼りつづけた。食事するときも歩くときも……特に、この体になってから意識的に避けてきた生理的現象のときもだ。
岩や石を相手に行う力のコントロールの鍛練はまだ耐えられた。最初こそ爆砕点穴よろしく、少し力を込めただけで破壊してしまっていたが、四日間の成果もあり集中すれば完璧とはいかなくとも完全破壊はしなくなった。もちろん、少しでも気を抜けばそれこそ木っ端微塵になってしまうが……。
食事にも慣れた。ミトワムというワームのステーキ焼きは本体さえ見なければ見た目も味も全然悪くないんだ。それにエルディアが自分のためを思ってくれてることも理解できるから、文句は言わない。
だが、生理的現象――つまり黄金sゲフンを排出する時まで感覚を同調させるのは辛かった。男の時とはまるで違う感覚だわ、あそこは柔らかそうなツルツルな丘を築いてるわで羞恥心で悶え死ぬかと思った。
エルディア曰く「女の体にも慣れんで妾の繊細な力のコントロールが身につくわけなかろう」とのこと。一理あるけどさ、元が男な上恋愛経験もなくアレな動画すら見ることの出来なかった俺には刺激が強いんだよ。自分自身の体に欲情しかけたなんて考えるだけでも恥ずかしい。もう太腿枕だけで十分なんで勘弁してください。
〔……早く宿を探してゆっくりしよう〕
〔待たんか。まずギルドで依頼の報酬を受け取るのが先じゃ〕
ようやく心の中だけで会話ができるようになった俺達だが、この四日の間オルクスで受けた依頼も順調にこなしていた。
狼系のウルフェンの集団に、雑な歌が五月蝿いシングバードの集団。街道に侵入できるランクの雑魚だが、ゴブリンほどでないにしろ繁殖力は高い。そのため定期的に減らすために討伐依頼があるのだが、練習とばかりにそれを受けていたのだ。
結論から言えば何の苦もなく倒せた。エルディアの技能も俺の魔法も全く使わなかった。
だが、ゲテモノ系とは違うその生々しい感触と死体は吐きたくなる程だった。最初に俺が殺してしまった野盗は半ば無意識的なのと死体の状態が凄惨ではなかったので罪悪感で済んだし、ゲテモノ系は切っても食べたものが広がるだけで気持ち悪さ程度だった。
しかし、これが実際に生の生き物を切り殺すときの何とも言えない感覚には本当に吐くかと思った。
もしこれが生身の人間だったら、と考えるとゾッとする。
〔え、と。ウルフェンの毛皮にシングバードの気管支だったか〕
〔うむ。しかしこのアイテムボックスとやらは本当に便利じゃのう。中に入れておけば劣化もせんし、ほぼ無限に入れることができる。しかも重さも体積も関係なしと来た。妾が過ごした時代にこれがあればもっと建国も楽であったろうに〕
〔建国に関係あるか?〕
〔ないがあれば楽という話じゃ。むぅ、いかんな。楽への思想があやつみたいになってしもうた〕
〔あやつって?〕
〔昔の知り合いじゃ。気にせんでもよい。どうせもう寿命で死んどるか、生きっておってもヨボヨボの爺じゃし、もう会うこともないじゃろう〕
そう言って遠い目をする。
俺は彼女であった時のことなど覚えてないし、彼女が昔のことを語ってもそこまでは感じない。しかし、違う世界でもう会うことのない人のことを考えると、彼女の気持ちも分からないでもない。
俺が頼れるのもエルディアだけ。エルディアが頼れるのも俺だけ。
孤独じゃない分、まだ幸せなのかもしれない。
会話もそこそこに、俺達は近くの人に道を尋ねてギルドへと向かう。
オルクスと同様の木材建築だが幾分小さく、村の景観に似合っていた。扉はどこかのウエスタンの酒場的な扉もあり、一層田舎っぽさが出てて味があった。
昔見た西部劇を思い出しながらそこに入る。
「すまヌが、依頼成功の確認と報酬の受け取りをしたいのジャガ」
「……では、ギルドカードをご提示ください」
入るとすぐに目的のカウンターへと向かい、受付の男性にギルドカードを提示する。
しかし、何と言うか愛想のない人だ。リルカさんが特別明るかっただけだったのかもしれないがこれはあんまりにも暗すぎだろう。
「……確認しました。ではこちらが報酬の銅貨です」
テッテレテテ~! 姫鬼は銅貨二十枚を手に入れた!
まあ、最初から沢山持ってるし端た金っちゃ端た金んだけどな。
「それでは、またのご利用をお待ちしています」
「う、うむ」
抑揚がなさすぎる声に反応に困る。
よくもあんな態度で接客が務まるよな。日本じゃ絶対雇ってもらえないぞ。
〔ふあ~……ふぅ。エルディア~、交替~〕
〔お主は子供か。まあ良い。この四日間は色々詰め込んだからのう。今日はゆっくり休むと良い〕
〔さんきゅ~にゃあ……おやふみゅ~〕
どうやら我慢の限界らしく、急激に睡魔が襲ってきた。
若干語尾がおかしくなりながらも後をエルディアに任せ、俺はいつも通り彼女の太腿を枕にして眠りにつくことにした。
きっと明日からまた鍛練とサバイバルの日々が始まるのだ。今のうちにたっぷりと寝ておきたい。
◇
〔くぅ……くぅ……〕
〔相も変わらず、よくもまあすぐに眠れるのう〕
この四日間、朝に弱い姫鬼を無理やりたたき起こして限界ギリギリまで鍛練付にしていたから肉体的には大丈夫でも精神的に疲れたのは仕方ないだろう。
半ば強引な鍛練の方法も功を奏したのか、思ったよりも早く感覚が掴めてきたようだし今はそっと眠らせておいてやるのが優しさというものじゃろうな。
さて、妾は宿でも取りにでも行くか。だが、その前に、
「――何か用か?」
「へっへっへ。そりゃあもう、たっぷりとあるぜ」
「げへへへ」
この愚か者共でも捻っておくかのう。
「では早う申せ。妾は忙しいのでな」
「お嬢ちゃん。見たところ冒険者のようだが、一人で大丈夫かい? なんだったら俺達が一緒に行ってやってもいいぜ」
「いらん。妾は一人で充分じゃ」
「そんなこと言わずに一緒に行こうぜ。ああ、お金はいらねぇぜ。その代わりオレらの遊び相手でもしてくれればいいからよ、げへへへ」
下卑た目的と笑みを隠すことなく、その視線を妾の胸や腿へと向けてくる。
姫鬼は気付かなかった様だが、このギルドに入ってから中で屯っている人間は全員妾たちへと視線を向けていた。
半分は興味、そして後の半分はこの愚か者共と同じように下卑た考えを含んだ視線。
ギルドから出てくるときにでも突っ掛って来るだろうとは思っていたが、あんまりにもまんまな連中で呆れを覚える。
確かこういうのをテンプレと言うんじゃったかのう?
「くどい。今すぐそこを退け」
「そんなに緊張しなくてもいいって。お兄さんたちが手取り足取り教えてあげるよ」
昔からこういった手合いはどうして減らないのか。全くもって嘆かわしい。
「それに、そんな格好してるってことは誘ってんだろ? 大丈夫大丈夫、気持ちよくさせてやるからよぉ」
当然そんな下卑た考えで着ているわけがない。
それに露出などひと昔に流行った女性冒険者専用の変なアーマーなどよりも断然マシである。
「はぁ……。もう一度だけ言う。退け」
「またまた~、そんなにへぶぅ!?」
再び同じ言葉を繰り返そうとした男の腹へ蹴りをいれ、建物の外へとぶっ飛ばす。
「て、てめぇ! 下手に出てりゃいい気になりやがどわぁ!!」
続いて仲間の男がそれを見て掴みかかってくるのに対し、裏拳でギルドないの何もない壁に向かってぶっ飛ばした。
蹴った男は外で腹を抱えて蹲り、壁に激突した男はそのまま壁にめり込み気絶したようだ。
全くもって弱い弱い。街道が楽に通れるようになった分、冒険者全体の質が落ちているのではないかと思うほどに弱い。千年前などやられ役でもそれなりに手応えはあったというのにのう。
「さて、先立って動いた者共はこうして仕置きを入れてやったが。……まだ妾にちょっかいを入れるつもりなら容赦はせんぞ。そこな愚者共」
キッ、と紅い双眸で邪な考えを抱いていた連中を睨みつける。
すると彼らは小さく悲鳴を漏らし、顔を青ざめてギルドからすぐに逃げ出してしまった。後に残った普通の連中はそれを見て笑うこともせず、見物は終わったという感じで各々会話を弾ませ始めた。
力は大したことないが、中々に冒険者としての風格があるではないか。
「……エルディア様」
と、残った連中の態度に感心していると先程の無表情の受付が話しかけてくる。
「なんじゃ?」
「……あまり室内を壊さぬようにお願い致します」
「それは悪いことをしたのう。いくらじゃ?」
「……いえ、今回の非は彼らにありますので彼らからきっちりと徴収させてもらいます。なのであなた様からは何もいりません。ただ、今後もこのようなことがあると建物が持ちませんのでやるなら外に向けて飛ばしてください」
「分かった」
「……では、これで」
エルディアの力の一端を見ても狼狽えもせず冷静に対処するところを見ると、ギルドの一員としてしっかり教育はされているらしい。姫鬼は無愛想で話しづらそうにしていたが、エルディアとしては特に何も聞かない分には好感が持てる。
まあ、リルカは逆に素直すぎて毒気を抜かれてしまうのだがのう。
「さて。取りあえず宿を取り、今後について計画を立てねばな」
いったいどういった鍛練を姫鬼に課すのか、どういった経路で進むのか。それらを考えながらエルディアはギルドから出ていくのであった。
姫鬼が寝てる際、必ずギルドで一騒動を起こすエルディア。大都市に着く頃には噂になってるかもしれませんね。
さて、前回は修行がどんなものかということの回だったわけで、今回から漸く旅が本格的に始まります。
といっても、途中で発生するイベント以外はほぼ飛ばします。ただただ修行しながら歩いているのを書くのもなんですしね。
閑話の方も一応書いているのですが、中々いいのができません。この物語にも結構関係してくる描写もあるので、本編よりも書きづらいです。でもこれ書かないと重要キャラがいつまで経っても本編に出れないんだよなぁ……orz