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二話

鳥の囀りはいつだって心地良い。

チチッと鳴く鳥の声で静琉は目が覚めた。


「……ん……」


未だはっきりしない頭に、目を擦りながら何度か瞬かせると、窓際に人が立っているのに気付いた。

日の光で陰っているその人物は、久しく静琉の前に顔を出すことはなかった。


「……父さん」

「起きたかい?」


久しぶりに見たその顔は、変わらず人好きのする笑みを浮かべていた。

どれほど会っていなかったのか、静琉はそれでも来てくれた父に笑みを浮かべた。


「どうしてここに?」

「先生に呼ばれてね。ついでにお前の顔も見て帰ろうかと思って」


先生――それは静琉の担当医師である。

父が呼ばれたということは大事なことではないだろうか、不安げな表情を浮かべる静琉に父――孝昌(たかまさ)は笑った。


「そんな顔をすることないだろうに、静琉」

「……だって……」

「大したことじゃないから安心しなさい」


そう孝昌に言われても静琉の心は落ち着かなかった。


「本当に?」

「本当だよ。父の言葉が信じられないかい?」


悲しそうに眉を下げる孝昌に、静琉は慌てて首を横に振った。

孝昌の悲しそうな顔はどうも苦手だ。

静琉は孝昌に似た顔で、苦笑した。


「先生の話は何だったの?」

「最近調子が言いそうだね?」

「うん、まあ」

「安心したよ」


そう言って孝昌は窓際から離れて静琉の側に立ち、頭を撫でた。

どこか不器用なその手付きに懐かしさが湧いてきた。


「先生があと一週間、今の状態を維持していれば仮退院してもいいそうだ」

「っ!? 本当!!」


孝昌の言葉に、勢いよく顔を上げると驚いたように目を丸くする孝昌の姿があった。


「本当だよ」

「あと一週間」


壁に掛けてあるカレンダーを見ながら、静琉は呟いた。


――やっとこの部屋から解放されるんだ。


静琉の胸には、その思いが一番強くあった。


「絶対退院するよ、その日に」

「じゃあ体には気を付けないとね」


「分かってる」と頷くそん顔には、喜びが浮かんでいた。

一週間短いようで長いその先が待ち遠しくて仕方なかった。

孝昌は体一杯で嬉しさを表す静琉に微笑んだ。





一日、二日。

一週間などあっという間だと思っていた静琉は、あと数日待つのも億劫になっていた。

暁もここ数日は顔を出しに来ていない。

静琉は暇で仕方なかった。

自分が持っている小説はすでに全部読破していた。


「――暇だ」


ポツリと呟いて、枕に顔を押し付けた。

一眠りしようかと思っても、睡眠の取り過ぎで眠気など一切襲ってこない。


「暇そうだね?」

「あー、鳥居(とりい)先生」


静琉の担当医が入口に立っていた。


「定期健診に来たよ」


聴診器をブラブラ揺らしながら静琉の前まで来た鳥居は笑った。


「調子はどう?」

「結構いいですよ?」

「じゃあ楽しみかい? 仮退院」


聴診器を胸に当てながら聞いてくる鳥居に、静琉は力いっぱい頷いた。


「もちろん!」


あと数日で仮退院、そしてそのまま本退院になればと静琉は思った。

他から見れば小さなことだろうが、二年もこの病院に缶詰にされていた静琉にとって仮退院・本退院は大きなことなのだ。


「……本退院は無理そうだけど」


小さく呟いたつもりの声を鳥居は拾い、「本退院かあ」と言った。


「本退院はちょっと無理かな」


眉を下げて言う鳥居に静琉は唇を尖らせた。

本退院が無理なのは静琉も百も承知なのだ。

少しぐらい夢を見たっていいじゃないか、と鳥居を睨めは困ったように笑った。


「じゃあ本退院したいんだったら早く治さないとね」


胸を指差しながら言う鳥居に、静琉も力なく頷いた。

部屋を出て行った鳥居を見送り、静琉は視線を下げた。

ギュッと胸元を握り締め、唇を血が出るのではないかというぐらい強く噛んだ。


「……どうしてなんだろう」


力なく呟かれたその言葉は、静琉しかいない部屋に静かに木霊した。




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