一話
静琉は真っ青に晴れ渡る空を、ベンチに腰を下ろして眺めていた。
いくつもの雲が流れていくのを黙って見ていた。
何分何秒そうしていたのだろうか。
全く動かない静琉に痺れを切らしたのは、親友で最従姉妹の暁だった。
「いつまでそうしてるの。風邪引くよ」
「もうちょっと」
「あんたのもうちょっとはもうちょっとじゃないの。早く病室戻るよ」
呆れたように言う暁に静琉は苦笑した。
「このまま体調がよかったら仮退院出来るんでしょ? 体調が悪化して出来ないなんてことは、バカのすることだよ」
「分かってるよ」
悪態を吐きながらも、その言葉の端々に優しさを感じた静琉は嬉しそうに笑った。
長い病院生活で、欠かさず会いに来てくれる暁に静琉は感謝した。
実の両親でさえ、今は滅多に会いに来ない。
忙しいというのは知っているが、それが少し寂しかった。
「分かってるんなら今すぐ病室に戻る!」
「だってあそこ、息が詰まりそうなんだ」
「あんたねぇ、それで付き合わされるこっちの身にもなってよね!」
「痛いよ、暁」
耳を引っ張りながら言う暁に、静琉は嬉しそうに笑った。
急かす暁に何も言わず、大人しく静琉は病室に戻った。
真っ白な四角い部屋。
壁を見ても白、天井を見ても一面白いその部屋を見た。
――いつからだろうか、この部屋を息苦しく感じるようになったのは。
天井を見上げながら、静琉は自分の思考に耽っていた。
「静琉、あたしそろそろ帰るね」
「うん」
「いい? 大人しく寝てなよ?」
念を押すように言う暁に、静琉は笑って頷いた。
安心したように溜め息を吐いた暁は、椅子に掛けていたバックを手に取った。
「バイバイ」
それだけ言って暁は帰っていった。
「バイバイ、か」
静琉は苦い思いになった。
バイバイ、その一言は静琉の嫌いな言葉だった。
見舞いに来る人間の大半が口にする言葉。
その言葉を聞くたびに自分には明日が来ないのでは、と恐怖に駆られる。
「バイバイなんて嫌いだ……」
抱えた膝に頭を埋めて静琉は呟いた。