とある社長と副社長の優雅な(?)一日
超久々の投稿がよりにもよって続きじゃないってのはどういう事だ!!
お怒りはごもっともです……超済みません!!!
一部キャラ崩壊がありますが……お付き合い下さいませ。
ヨーロッパ某国首都の街並みは内戦の傷跡がいまだ残り、復興には時間が掛かる。
中には家族を失った者もいるだろう。
しかし立ち止まっていてはならない。
この絶望から立ち上がる事こそ彼等に与えられた試練なのだから−−−−
「…………ハァァァァ………」
内戦で傷付いた国民達の試練が復興ならば−−この男の試練とはテーブルに積み重ねられた書類の山と分単位で世界中に点在する支部からメールで送られてくる報告書などを始末する事だろう。
「……死にたくなる……」
男−−PMC:Hound Security社の社長であるショウ・ローランドは溜息と共に冗談には思えない台詞を吐き出した。
「−−失礼します。ショウさ−−社長、追加の書類を持って参りました」
「…あぁ。ありがとう、ジャスミン。それと普段通りショウで構わん」
「でも、先輩から社長と呼ぶように言われてまして……」
社長室に追加の書類を持って来たのは白いレディーススーツを着用し、赤毛を背中まで伸ばした少女。
彼女は秘書の一人で名前はジャスミン・アウディーニ。
チャームポイントは、そばかすだとか。
「…まぁ良い。書類だな……ハァァァァ……」
「ショウさ−−じゃない社長。この世の終わりじゃないんですから…」
手渡された書類へ目を通していると彼の口から再び盛大な溜息が零れる。
それにジャスミンは苦言を呈すると、彼は目頭を揉んでから彼女を見る。
「いや、済まん。…なぁジャスミン」
「なんですか?」
「これ…どう思う?」
「えっと…“凄い量の書類が山脈を築いてます”」
「…俺の眼がイカれた訳じゃなかったか。…決めた。俺、あの日に帰るわ。そしてカラオケで熱唱してやる」
「“あの日'って何の事ですか…。お願いですから現実逃避しないで下さい。私達も手伝いますから……」
「ジャスミンは良い子だな…。お礼にボーナスは弾むもう」
「良いですってば!!ほら、早く終らせましょう」
「…そうだな……何時になれば終わるのか…」
「ですから考えないで下さいってば!!」
ショウのヤル気の無さにジャスミンは少し怒り気味だ。
だが察して欲しい。
“たった”三日程、日本へ行って帰って来たのに……社長室に入った瞬間、彼の視界に飛び込んで来たのは書類の山脈だったのだから。
決済の終わった書類を机上の片隅へ追いやった彼はカップを取って傾ける−−−が中身は空だった。
「あっ…今、淹れますね」
気が利く事で有名なジャスミンがカップを受け取り、部屋の片隅に置かれたコーヒーメーカーから新しくコーヒーを注いだ。
ちなみにそれは代替品で元々はサイフォンを使用していたのだが……酷使し過ぎて昨日、壊れたのだとか。
「砂糖入れますね」
「あぁ。…−−っ、ちょっと待て!!」
「はい?」
「あ………」
彼が制止する間もなくコーヒーが淹れられたカップへ社長室には無い筈のスティックシュガーから砂糖が注がれてしまった。
「…ついでにミルクも…」
「だから止めてくれ!!」
「えい♪」
「あ゛−−−!!?」
ポーションの封を切り、クリームをカップへ注ぐとジャスミンは“慈母の如き笑顔”を浮かべ、それを血の気が失せた表情のショウの眼前に差し出した。
「はい、コーヒーです♪」
「……ジャスミン……」
「はい?」
“嬉しくて”涙が零れそうなのかショウは目頭を押さえつつジャスミンに尋ねる。
「…君は…アレか?俺に何か怨みでもあるのかな?」
「そんな訳ないじゃないですか!!…私はただ…疲れた時には甘い物が良いかなぁって…それに頭を使うのに糖分は必要ですし…」
「…ヴッ…」
可愛い目尻にみるみる溜まる涙を見て、ショウは言葉に詰まってしまう。
「…まっまぁ…たまには…甘いコーヒーも…悪くはない…か?」
「…本当ですか?」
「あっ…あぁ…」
「じゃあ遠慮しないでどうぞ!!」
彼には“天使の如き笑顔”が“悪魔の微笑み”に見えて仕方無かったという……。
一方その頃………
「……んっ……?」
自宅−−2LDKのマンションの寝室で目覚めた男がいた。
ベッドから裸の身体を起こした彼は金髪の特徴的な髪型−−ジャーヘッドの頭頂部をボリボリと掻きつつ横目に隣を見遣る。
そこには−−彼の腕を掴みながら眠る女性の姿があった。
「…ハハハ…良く寝てら」
笑いを溢すと白いシーツに流れる少し長い金髪を優しく撫で、次いでサイドテーブルから煙草とジッポを取り火を点けた。
彼の名前はオルソン・ピアース。
元はアメリカ海兵隊武装偵察部隊に所属していたが、現在はHound Security社の副社長を務めている。
そして、その横で夢の世界にいる女性は−−
「そろそろ起きようぜ、お姫様?」
「…やらぁ……まら眠いのぉ……」
「…低血圧なのは判ってるけどよ…良い加減、起きようぜ」
「…何時ぃ…?」
実に眠たげな声で尋ねてくる恋人の質問に答える為、オルソンはサイドテーブルへ置いた腕時計を取って時刻を確認する。
「…0822だな。どうする?起きるか?それとも……“10回目”にチャレンジしてみる?」
「…無理ぃ…。…起きりゅ…」
「そりゃ残念…」
“提案”は少し寝起きの悪い恋人によって却下されてしまった。
それに彼が苦笑していると、物凄く鈍い動きで起き上がる女性。
上半身を起こした彼女は寝惚け眼の双眸をオルソンへ向ける。
「…オルソン…おはよ……ふあぁぁぁぁぁ…」
「Good morning,my princess♪」
「んっ……ん〜〜…」
「…だから起きろって」
朝の挨拶もそこそこに再びベッドへ横になる彼女をオルソンは揺するが、それに抵抗して恋人はシーツを被ってしまう。
「…やらぁ…まら眠いのぉ…」
「それ二度目だぞ。…お前、良く軍人やってんなぁ…」
「……………」
「マジ寝すんな!!ほら起きろ!!」
「……やっ!!」
「“やっ!!”じゃない!!セラ、おい起きろ!!」
彼女の名前はセリーヌ・シルヴァンス。国軍大尉であり、現在は近衛旅団に在籍する23歳だ。
「…むぅ…」
「…セラ…そんな顰めっ面して、どしたよ?」
「…まだ納得できん」
「……は?」
押し問答の後、ダイニングキッチンのテーブルに座り、有り合わせの食材で調理した食事を摂っていた二人だったが突然、オルソンの恋人であるセリーヌが不機嫌に近い声を発した。
現在の彼女の格好だが……実に艶めかしい。
オルソンのワイシャツを素肌の上に着ており、胸の辺りが窮屈なのかボタンを三つほど外し、当然ながらシャツの丈は短く、滑らかで見事な脚線美を描く素足が覗いている。
その格好が彼女を不機嫌にして−−−
「…何故、私が料理が下手で、お前の方が上手いのだ?…納得できん」
−−いる訳では無かった。
口を真一文字に結び、テーブルへ並べられた、オルソン謹製の少し遅めの朝食を睨む彼女を見て、彼はコーヒーを啜りつつ含み笑いをしてしまう。
「そりゃ…経験値が違うからな。…っていうか…俺、セラの作ったメシ食った事ないぜ?」
「…うっ…。…腕前に自信が無いのだ…」
「…流石に包丁の握り方ぐらいは判るだろ?」
挑発にも似たその言葉に彼女の柳眉が逆立った。
「愚弄するな!!いくら私でも、それぐらいは出来る!!」
「悪かったって、そう怒るな−−」
「所詮、刃物だ。剣の握り方と一緒だろう」
「−−いやいや、違う違う!!」
「えっ!?…ちっ違うのか…?」
「ったりめぇだろ!!それボケか!?ボケなんだろ、ツッコミ待ちの!!?頼むから、そう言ってくれ!!」
剣術に自信があるとはいえ、いくらなんでも流石にそれはない。
とんでもない事を口走ったお陰で恋人の料理の腕前とやらを予想した彼はこう思った。
−−絶対にキッチンへは立たせない−−と。
「…むぅ…違うのか…?」
「頼む…頼むから…一般常識ぐらいは知っていてくれよ。…これじゃ結婚しても、俺が料理するハメになっちまう」
「おぉっ、それは良い考えだ!!現在は男も料理ぐらい出来なければな」
「…どの口がそう言うんだよ」
「それはそうと」
「なに華麗にスルーしてんだ」
「ショウ殿とエルザ様が婚約したらしいな?」
「…よりにもよって、その話ですか…?」
「よりにも、とは聞き捨てならんな。一大事であろう」
「…………」
じゃあ俺達はどうなるんだ?、とオルソンはツッコミを入れたくなるが、それを喉の奥へ引っ込めてコーヒーを啜る。
恋人であるセリーヌは貴族の家系に生まれた人間だ。
王室との繋がりも深く、国王の信頼も厚い。
ウルフガング家とシルヴァンス家はこの国でも一位二位を争う名家。
その家の人間が−−傭兵と恋仲であり、しかも結婚を視野に入れて交際しているのだ。
「…ガルディアの野郎もジョゼット嬢と順調みてぇだな」
「ん?…あぁウルフガング中隊長か。彼も6月には挙式らしい」
「本人から聞いたぜ。…この前、喧嘩した後、改めてプロポーズしたって」
「…あぁ。だから、あんなに元気が無かったのか」
「野郎…まさか軍部でも負のオーラ撒き散らしてたのか?」
「うむ。まるで、これから絞首刑台へ向かう死刑囚のようだった」
ショウとオルソンの共通の友人であるウルフガング家の嫡男殿は約一ヶ月前、婚約者との“局地戦”勃発の折、同棲していた家を追い出されてしまいオルソンが住むマンションへ避難してきた経歴がある。
「…あん時は大変だったなぁ…」
「何がだ?」
「ガルディアが俺ン家に来た時。下戸のクセに、かっ食らいまくりやがってさ。…酔っ払って散々、グチられたぜ。アイツ、酔っ払うと絡んで来んだもん」
「良いではないか。タマには」
「付き合う俺の身にもなってくれ…。アレなら戦場の方が遥かにマシってモンだ」
「……その発言は、いささか感心できんぞ」
「…ん?………おぉっ!!」
「“おぉっ!!”ではない。…終戦から一年も経っていないんだ。発言には気を付けた方が良い」
「りょーかい、りょーかい」
終戦から、まだ半年しか経っておらず犠牲者の親族の心境等を考えると彼の発言は非常に危険なモノだ。
それを警告するようにセリーヌは言うが、彼はあまり意に介する事なくコーヒーを啜っている。
「…お前とショウ殿が何故、コンビを組んでいられるのか不思議でならん。世界の七不思議に数えても良いくらいだ」
「酷ぇな、オイ」
「片や常に冷静沈着の狙撃兵、片やハイテンションを絵に描いた様な突撃兵。…どうやってバランスを取っているのやら…」
「その答えは今、セラが言ったぜ♪」
空になったカップを机上へ置いたオルソンは頬杖をつき、にこやかな笑顔を反対側に座る恋人へ向ける。
「……どう考えても可笑しいと思うんだが……」
「まぁどうでも−−ん?」
オルソンが言葉を続けようとした瞬間、テーブルの上にある彼の携帯電話が振動し始めた。
「誰だ−−……うげ」
「どうした?」
「……相棒から」
そう小さく返答したオルソンが携帯の通話ボタンをプッシュし耳へ当て−−何を思ったのか自身の鼻を抓んだ。
「現在この電話は−−」
<使われておりません−−なんて言わせんぞ>
「…さーせん」
<…30分以内に出社しろ>
「はぁっ!!?ちょっと待て!!俺、今日は非番でデートが−−」
<テメェの都合なんぞ知ったこっちゃねェ。さっさと出社しろ。じゃあな>
「ちょっ−−−!!!」
オルソンが電話の向こうにいる相棒へ切らないよう懇願するが−−通話は虚しく切れてしまった。
「急な仕事でも入ったのか?」
「…知らねぇよ…。ってか、相棒の奴、超不機嫌みてぇだ」
「不機嫌?…珍しいな…」
「…悪ぃ、デート行けなくて…」
携帯を閉じ、項垂れるオルソンを見てセリーヌは彼らしくない行動に苦笑してしまう。
「フフッ…なに構わんよ。お前が帰って来るまで、読書でもして暇を潰そう」
「…マジごめん…」
「謝罪は良い。ほら、さっさと仕度しないか」