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三時限目〜後編〜



ファーストコンタクトどすえ〜♪


これぞ夢の対面…!!


それと両親の説明には……突っ込み入れんといてや…。







「…クソ兄貴、ひとつ聞かせろ」


「……なんだ、和樹?」


「…なんで親父とお袋がいるんだ?…しかも…」


「はははっ、雪蓮ちゃんは面白いなぁ〜」


「もう和也ったら…。じゃあ、エルザさんは面白くないの?」


「いやいやそんな事は!!」


「あの…エルザさんというのは?」


「あぁ…翔…和樹の兄の恋人だね」


「えぇ!?“お義兄さん”恋人いるんですか!?」


「はっ?…えぇまぁ…というか雪蓮さん、今、なんだかイントネーションが変ではありませんでしたか?」


「気の所為ですよ、気の所為♪…それにしても、なんで和樹ったら、お義兄さんが居ること隠してたの?」


「いや…隠してた訳じゃ…」



現在の場所はファミレスの一画。


そこに座り、食事会を“楽しんで”いるのは、和樹と雪蓮を筆頭とした桂木ファミリー。


この家族が全員揃うのは何年振りの事やら…。


和樹と雪蓮は映画館を出た後、予定通りラーメン屋へ行こうとしていたのだが、運の悪い事に和也達に捕まってしまった。


然り気無く、偶然を装った演技は俳優として食っていけるだろう。



そして“家族の紹介をしたい”という和也の誘いでファミレスに来てしまった訳だ。


無論、家族紹介の中で何の仕事をしているか、という事も雪蓮から尋ねられた。


まかり間違っても“引退した傭兵と現役の傭兵です”などとは言えない。


和也とナスターシャは夫婦で貿易関係の仕事をショウへ譲り、現在は隠居生活を楽しんでいると説明。


一方のショウも両親と口裏を合わせる為、名刺入れから、会社の社名とそこの社長の肩書が載っている名刺を彼女に差し出して納得させたのだ。


もちろん名刺は偽造だが。


貰った名刺を眺める雪蓮は未だに関心している。


「凄いですよね…まだ若いのに社長だなんて」


「いやいや…両親から事業を引き継いだだけですので」


「やっぱり今は海外で暮らしてらっしゃるんですか?」


「えぇ。両親は現在でこそ日本で生活してますが、私の場合は生活拠点が海外なのでそちらに」


「もしかして色んな国の言葉、喋れるんですか!?」


「えぇまぁ…。正確には数えてませんが…10ヵ国語くらいは」


「スゴ〜い!!ねぇねぇ和樹は!!?」


「あん?…まぁ同じくらいか…?」


「うっそ〜!?社会科じゃなくて英語とか外国語の先生になれば良かったのに!!」


雪蓮の発言には、確かに、と納得せざるを得ない。


10ヵ国語、とは言うが、実際は日常会話程度しか話せない言語も合わせると、双方とも20ヵ国語以上にはなる。


そんなに喋れるなら外国語関係の教師になれば良かったと思う。


まぁ将司も同様だが…。


ところで、そんな彼はというと…店の外に居た。


将司は副社長のオルソンと共に自身の黒塗りの愛車−メルセデス・ベンツ W204の車内でショウに取り付けた盗聴器から送られてくる会話を聞きつつ、彼等を見守っていた。


「…にしても凄ェ、面子だよなぁ…」


「確かに…。空の“猟犬”と地上の“猟犬”、“死神”に“黒狼”。…ネットで流したら同業者連中が騒ぎ始めますよ」


「同感同感。…まぁ、あんな化物家族を襲おう、なんて考える奴は余程の馬鹿か命知らずぐらいだけどな」


将司の発言を実行した場合、“大変”な事になるのは明白であろう。


“空の猟犬”とは桂木和也。


現役傭兵時代は世界の紛争の空で戦い続けた人物。渾名の“猟犬”は左腕の上腕に彫られた猟犬のトライバルタトゥーが由来となっている。


最終撃墜数は50機を越えるとか。


ちなみに愛機はMiG-25。


そして、その愛妻である桂木アナスタシアの渾名は“死神”。


本人の容姿は死神どころか天使の如きそれなのだが、これは彼女の現役傭兵時代の、とある空戦での活躍が原因だ。


ミサイルが残り少なくなったので、彼女はそれらを温存する為にバルカン砲で戦い続けた。


だが、その弾数も多くはない。


その為、彼女がとった方法は敵機の弱点−−つまりコックピットを狙い撃ったのである。


一瞬のタイミングを逃さず、コックピットをピンポイントで撃ち抜き、返す刀で食い付いて来る敵機にも同様の攻撃を加え、見事に撃墜。


音速の戦闘で敵を容赦なく撃墜する姿から名付けられた渾名が“死神”というそれ。


実際、彼女も自身の愛機−MiG-25に鎌を持った死神を描いていたのが災いしたのだろう。


そして…“地上の猟犬”と“黒狼”とは、瓜二つの双子であるショウ&和樹だ。


“猟犬”の渾名を持つ、兄:ショウは現在でこそPMCを経営する社長の肩書だが、本職は狙撃兵。


大口径狙撃銃を使用しての狙撃における最大射程は約2000m−それも標的の頭を撃ち抜いている。

もはや人間業ではない。常軌を逸していると言っても過言ではない。


そして“黒狼”の渾名を持つ、弟:和樹は…突撃兵という表現がしっくりくるだろう。


自動小銃と手榴弾だけで一個小隊近い敵兵が籠もる塹壕に突入し、全員を駆逐したという噂がある。


実際は途中で殺害した敵兵の所持していた機銃などを使ったらしいが…それでも凄まじい。


そんな二人も父親同様、“猟犬”と“黒い狼”のトライバルタトゥーを左腕の上腕に彫っていた事が渾名のルーツとなっている。


オルソンの言葉を借りるが…“化物家族”の何物でもない。というか、それ以外の何がある。




「−ところで雪蓮ちゃん?」


「なんですか?」


ところ変わって、再び店内。


コーヒーカップをソーサーに置いた和也は真剣な眼差しで雪蓮を見詰める。


「単刀直入に聞くが…ウチの愚息をどう思うかね?」


「……愚息ときたか…」


「和樹、少し黙っていなさい。大事な話をしてるのよ」


キリマンジャロを啜る和樹が苦虫を何匹も噛み潰したような表情をしつつ呟くが、それを優雅にジャムをスプーンで掬って口へ運ぶと紅茶を啜る母親から注意されてしまった。


「…四捨五入すれば三十路も間近…良い相手もいない。翔…兄貴も最近になって、やっと結婚を決意して−−」


「親父、ちょっと待て」


「あん?翔、どうした?」


お涙頂戴の独演をしていた和也に待ったを掛けたのはショウだ。


「…何故“その事”を知っている?まだ教えてないぞ」


「フッ……蛇の道は蛇って言うだろ?」


「答えになってないぞ。というか何処を見てる。俺はこっちだ」


和也は店外に顔を向け、景色を眺めてショウの追及をはぐらかす。


「えっ!?お義兄さん、結婚されるんですか!?」


「はっ?えぇまぁ…というか、やっぱりイントネーションが−−」


「おめでとうございます!!あっ、やっぱり外国の方なんですか?そういえば…お義母さんも外国の…」


「えぇロシア生まれですわ」


「やっぱり!名前からしてそうかなぁ〜って思ってたんですよ!!それにしても…」


「なにかしら?」


「お綺麗です…」


「あらあら…。お婆ちゃんをからかうものじゃないわよ?貴女の方が綺麗じゃない」


「そんな!!?お義母さんには負けますって!!」


アナスタシアことナスターシャは今年で55歳を迎えるが、容姿は若々しく、40代−時には30代に見られる事がある。


彼女の夫である和也はひとつ年上だが、こちらも若々しい容姿をしている上、いまだに自然で綺麗な腹筋が刻まれているのだ。


とんだ熟年夫婦もいたモンである。


「お義兄さん。それで…どんな方なんですか?写メとかあります?」


「…まぁ一応は…」


「見せて頂けませんか!!?」



かなり興味津々の雪蓮がテーブルを挟んで両親と共に座っているショウへ詰め寄ると、あまりの勢いに彼は少しだけ尻込みしそうになった。


なんとか踏みとどまると、ショウは溜め息を吐き出し、スラックスから携帯電話を取り出してデータを漁り始める。


「…先程…名前が出たと思いますが…っと、これが彼女です」


ショウはそう告げると、携帯の画面に映った若い女性の姿を雪蓮に見せた。


腰まで届く長い銀髪に碧眼−−もはや神が造形したと言っても過言ではない女性とショウが映っている。


おそらくは何かのパーティーの最中にでも撮ったのだろう。


女性は青を基調にしたイブニングドレスで、一方の彼はタキシードを着ている。


「…うわぁ…凄く綺麗な人ですね…」


「…えぇまぁ」


曖昧な返事の後にショウは携帯を閉じてスラックスへ仕舞う。


「プロポーズはなんて!!?」


「俺も気になるなぁ〜」


「そうねぇ。翔、教えてもらえるかしら?」


「……………」


覚えてろクソ両親、と心中で毒突くショウは眼を伏せてしまうが、約三名の興味津々の視線が身体中に突き刺さり居心地が悪い事この上ない。


一時の恥だ、と彼は覚悟を決めた。


「『俺はキミに何を出来るか判らないし何も出来ないかも知れない。もしかするとキミの預り知らぬ何処かで息絶えるかも知れない。

だが、これだけは誓おう。キミだけに対して誓おう。


キミを愛しているという心と想いだけは誰にも負けない。譲る訳にはいかない。


改めて言わせてくれ。だが、一回だけしか言わない。良く聞いてくれ。


俺は心底…キミを愛している』」


『……………』


記憶しているプロポーズの台詞を一言一句、間違える事なく言い切った彼はソーサーに置いたカップを取ってコーヒーを啜る。


一方、この場にいた全員+車内組は、彼らしくないプロポーズを聞いて呆気に取られたままだ。


ちなみにショウの恋人は、このプロポーズを聞いて涙が止まらなくなったらしい。


「…その後、彼女の前に跪いて指輪を差し出した…あっ、お姉さん。済みませんがコーヒーのお代わりを」


「−あっはい。かしこまりました」


付近にいた店員に彼はコーヒーを頼むと、スラックスから愛煙の煙草を取り出してジッポで火を点け、吸い始める。


女性−それも雪蓮がいる為、気遣いからか紫煙が届かないよう彼女から煙草を遠ざけながらだが。


「…兄貴」


「あん、どうした?」


「それ…本当に言ったのか?」


「あぁ」


「冗談じゃなくてか?」


「あぁ。真面目に」


「…そうか…」


「あぁ」


にべもなく弟に返答した彼は肺一杯に吸い込んだ紫煙を天井へ向けて吐き出した。


「もう…翔ったら、何処でそんなプロポーズ覚えたの?」


「…さぁな」


「あらあら照れちゃって」


「照れてない」


「それに比べて、お父さんは………」


「なっなんだ?」


「…………ハァァァ」


「ちょっ!?なんなんだ一体!!?」


「自分の胸に手を当てて考えてみたら?」


「…………済みません」



身に覚えがあるのか和也は181cmある身体を縮めてしまう。


現在の愛妻のヴァージンを奪い、紛争の空を、もう一人の相棒とチームを組んで戦って、なんだかんだしている内に妊娠が発覚。


紛争地域の後方の病院で息子であるショウ&和樹の双子が誕生。


責任を取る形で和也がナスターシャに送ったプロポーズは−−−


“結婚するか”


−−である。


「んんっ!!…随分、話が脱線したが……とにかく雪蓮ちゃん」


「はい。和樹をどう思っているか、ですよね?」


「うん、そうそう。…で?」


「好きですよ」


「ブッ!!」


「汚っ!!あ〜もう……」


「わっ悪い…」


カップに口をつけてコーヒーを啜っていた和樹が堪らず吹き出してしまう。


文句を言いながらも雪蓮は紙製テーブルナプキンを数枚取って、テーブルに点々と飛散した液体を拭っている。


「ねぇ、あなた。予想はしてたけど、そういうのは野暮ってモノよ?」


「…だな。俺とした事が」


「……何を今更」


横に座る両親、和樹と雪蓮の周りに花が舞っているような幻覚が見えたショウは思わず呟いてしまうと、いつの間に注文したコーヒーが届いていたのか、それを啜った。










「……散々な一日だった…」


そう呟きつつも愛車のハンドルを握るのは和樹。


助手席のシートには当然のように雪蓮が座っている。


ファミレスで彼等と別れると雪蓮を自宅まで送る為、和樹が運転するクルマに乗せてもらう事となったのだ。


息子二人に会えた両親は満足顔で帰宅の途に就き、ショウ&オルソンは本社へ戻る為、空港に。


そして将司は……空港へ向かう二人の送迎兼護衛の為、自身の愛車を運転している最中だろう。


「そう?私は面白かったけどなぁ〜♪和樹のご両親とお義兄さんに会えたし♪」


「…俺の汚点ともいえる奴等だ」


「そんなこと言うモンじゃないわよ。凄く面白かったじゃない♪」


「…参考までに聞くが…どの辺りが?」


「う〜〜ん……」


和樹に尋ねられ彼女は指を顎に当て、思案する。


「まず…“お義父さん”と“お義母さん”は美男美女で、話のネタが尽きなかったし面白かった。そしてお義兄さんは…和樹“以上”にハンサムでナイスガイだった」


「……果てしなく疑問だ」


そう呟いた彼はウィンカーを上げて右折する。


彼女の自宅までもう少しだ。


「今度はいつ会えるかなぁ〜♪あっ、年末になったら住所、教えてね?」


「…年賀状でも送るつもりか?」


「うん♪あっ和樹にも送るから、ちゃんと私にも頂戴ね♪」


「…まぁ気が向いたらな」


「ハガキの絵柄、渋いのじゃないのにしてよね?」


「…善処しよう」


どうやら和樹が送る年賀状の絵柄はカジュアルではなく、かなり渋いらしい。


ちなみに自宅のパソコンとプリンターを使用して刷っているとか。



雪蓮の自宅には、誰かが帰宅しているのか窓から灯りが点いている。


「あっここで良いわ」


「そうか?」


和樹が助手席側のドアを解錠すると、雪蓮が外に出た。


そのまま彼女は運転席側に回り込んで和樹へ窓を開けるように促す。


窓を開けると雪蓮が車内を覗き込んできた。


「じゃあ…今日はここまでだね。楽しかったわ♪」


「忘れ物ないか?」


「えぇ。じゃあ……お休みなさい」


「あぁ。お休み」


それだけを告げ、和樹はゆっくりと愛車を発進させ、自宅であるマンションへ向かい走り出した。










一方、その頃……。


「なぁなぁ相棒」


「あん?」


「あの()、どうだった?」


「見ての通りだ。美人だし、性格も朗らか」


空港へ向かい、高速道路を走るクルマの車内には三人の男性がいた。


運転席は将司。後部座席にはショウとオルソンが座っている。


「…ハァ…。和樹と将司は実質的、女子校な学園で夢の生活。片や、俺達は権謀術数の世界で戦う、と。…社長、あまりにも待遇が違い過ぎやしねぇか?」


「ふん。知ったこっちゃない」


「あのぅ…こっちもそれなりにハードなんですが…」


将司が自分の上司に発言の訂正を暗に願うが……それは見事にスルーされてしまう。


それに僅かながら肩を落とすが、不意に助手席へ放り投げられた茶封筒が切っ掛けとなり緩んだ双眸が鋭くなる。


「…今回の来日の目的は…それが理由だ」


「…これまでの行動は全て…偽造と撹乱だった、と?」


「何処に当局の眼があるか判らねぇからな。…“仕事”だ」


“仕事”


この単語が意味するのは−−


「…ヤバい仕事ですか?」


「“そこそこ”な。何時もの事だが、名前は控える。霞ヶ関のとある野郎を始末して欲しいそうだ」


「…どのように?」


「それも何時も通りだ。事故にでも見せ掛けろ」


「…了解」


淡々と“仕事”の話をする彼等を乗せ、クルマは一路、空港を目指し走り続ける−−−






雪蓮がショウを“お義兄さん”呼ばわり!!そして両親は“お義父さん”と“お母さん”!!!


これぞ夢のコラボ…!!




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