二時限目
…何故だろう。
こっちの方が書いていて面白く感じる。というか執筆が進んで仕方ない。
そして今の内に……
『外史の外史ですから(キリッ)』
「………はぁ……」
彼−社会科教諭:桂木和樹は現在、頭を悩ませていた。
場所は職員室の彼の机である。
あまりの事に煙草−火は点けていないそれを銜えつつ机上に広げた書面とにらめっこしていた。
一体全体、何が悪かったのか…、と彼は思案する。
それは彼の担当教科−政治経済の小テストだ。
氏名欄には、北郷一刀。
元々、彼は頭が悪い訳ではない……が決して良い訳でもないが、ここ最近は点数が落ちて来ている。
「…ふぅ…」
溜め息をひとつ零し、彼はカップに淹れたコーヒーを啜ると席を立った。
幸いな事に現時刻は昼休み。
職員室の窓からは校庭で思い思いに芝生の上で昼食を摂る生徒達の姿が見える。
彼は職員室の入口付近にある放送装置に近付くと、スイッチを入れ、放送範囲を全校に設定してマイクを握る。
「2年B組:北郷一刀。繰り返す2年B組の北郷一刀。直ちに職員室、社会科:桂木まで出頭しなさい」
放送を終え、和樹は装置のスイッチを切ると自分の席に戻る。
「…なぁ相棒」
「何だ?…それと学校では“桂木先生”と呼べ馬鹿野郎」
「へいへい、桂木先生」
和樹の右隣の机は相方−化学教諭の加藤将司だ。
彼は購買で買ったのだろうホットドッグを咀嚼し、それをコーヒーで流し込んでから口を開く。
「流石に“出頭”って言葉はどうかと思うぞ?」
「別に良いだろ。どっちにしろ、来るのは同じだろうしな」
「…響きが違うだろうが」
「−しっ失礼します!!」
「噂をすれば、だな」
職員室に入る際の口上を早めて、件の生徒−北郷一刀が和樹の席へ足早に近付いてくる。
「たっただいま参りました!!」
「早かったな。…三分も掛かってないぞ」
全校生徒の暗黙の了解には、和樹の出頭要請が掛かったら、三分以内に行かなければならない、というのがある。
当の本人はそんな事を気にしていない為、赴任以来、短時間で来る生徒達を疑問に思っていたりする。
「…で、だ。この前の小テストの結果がまた悪くなったぞ」
「あ〜……」
「このまま行くと放課後の補習も考えないとならないんだが…。どうかしたのか?…まぁ、新学期が始まって、まだ一ヶ月も経ってないから改善の余地はあるが…。お前も二年生だ。そろそろ卒業後の進路も考えないとならんぞ?何か…学校生活か私生活で困ってる事でもあるのか?なんだったら相談に乗るぞ?」
一気に捲し立てるが、出来るだけ優しい声音で和樹は喋った。
採点済みの小テストを受け取った一刀は、怖ず怖ずと口を開く。
「…あの…実は…」
「なんだ?」
「…その…女子との…」
「女子がどうした?」
「彼女達との付き合い方に−−」
二の句を続けようとする一刀の声を遮るように突然、職員室の扉が轟音と共に吹き飛んだ。
『ッ!!?』
「ぶるぁぁぁ!!!見ぃぃぃ付けたわぁぁぁ!!かぁぁずきちゅわぁぁん、しょうぅぅじちゅわぁぁんぬ!!!」
声を張り上げて職員室に乱入してきたのは“歩く猥褻物陳列罪”−もとい、当学園の学園長:貂蝉だ。
もはや存在その物が、異常と言って過言ではない人物は奇声を上げ、目当ての二人を探している。
「ってあらぁ!?和樹ちゃんに将司ちゃんは何処なのぉん!!?」
先程まで二人が居た筈の席は蛻の殻となっている。
この世の物とは思えない−否、思いたくない彼女(?)の姿が網膜へ焼き付いてしまった一刀は込み上げる吐き気を押さえ込みつつ、学園のトップへ話し掛けるという偉業に打って出る。
「あっあのぅ……」
「ウホッ良い男−じゃないわん、ご主人様ぁ−もとい北郷君じゃなぁい!!」
「ウップ…」
もはや彼のダムは決壊寸前だが、それをなんとか押さえ込み、尻を振って近付いてくる人物を直視しないよう僅かに視線をずらした。
「えっと…桂木先生と加藤先生なら、さっきまで自分と話してたんですけど…」
「なんですってぇぇ!!?ハンサムな男が三人で話していたぁ!?正に夢の花園じゃないのぉ!!それで二人は何処なのぉん!!?」
「あっ…二人なら…そこから飛び下りて、外に…」
「って此処は二階よぉん!!?」
その事実に彼女(?)はムンクのポーズを取る。
職員室は校舎の二階にあり、地表との差は5mほどだろうか。
実を言えば、件の二人は貂蝉が入室する瞬間−ただならぬ気配を感じた瞬間に、間髪入れず窓の鍵を解除し、開け放つと一気にベランダと転落防止用の柵を越えて飛び下りたのだ。
その時間、僅か1.5秒。
もはや人間技ではない。
「キィィィ!!また逃げられたわぁぁぁ!!…でもぉ…ジュル…」
「ヒイッ!!?」
野獣の如き視線が一刀に突き刺さる。
「フフッ…さぁ…ご主人様−もとい北郷君、アタシの部屋で未知なる快楽を−−」
「しっ失礼しましたぁぁぁ!!」
そう叫ぶと同時に彼は和樹達と同じく、窓枠に足を掛けると満身の力を込めて空中へ飛び出した。
…人間、危険に曝されれば何でも出来るモノだ。
「逃げちゃったわん。…そんな事されたら…アタシ…アタシ…」
流石の彼女(?)も傷付いたのだろうか。
貂蝉は両手で顔を覆い、フルフルと首を振り−−
「燃えちゃうわぁぁぁん!!待ってぇぇぇ!!!」
三人と同様に外へと飛び出した。
職員室にいた教師達は何が起きたのか判らないのか呆然としている。
…この学園には変人・奇人しかいないのだろうか。
「……ハァハァ……」
「……ハァ…此処までくれば…大丈夫か」
黒いスーツを着用する和樹、そして紺色のスーツの上に白衣を着た将司は体育館裏まで全力疾走で逃亡していた。
一息付けようと彼等はポケットから煙草を取り出して口に銜えるとジッポで火を点ける。
「…この学園に来てから“襲撃”されたの…何回目だ?」
「今回で101回目だ」
「…とうとう100オーバーかよ」
律儀に数えている和樹も大概だと思うが、相方は気にも留めず、紫煙を虚空へ吐き出した。
「…“本社”も変な決定をしやがったモンだ」
「文句なら“クソ兄貴”に言ってくれ。アイツが社長だ」
この会話に疑問が出来ただろう。
何故、教諭−公務員である二人が“本社”という単語を放ったのか。
そして和樹のいう“クソ兄貴”とは誰なのか。
時期尚早だが……告白しよう。
実を言えば…この二人、大学を卒業していないどころか、正規の教員免許すら持っていない。
正体は傭兵−正確には民間軍事会社(PMC)所属の人間だ。
“Hound Security”
これが二人の所属する会社の社名である。
直接戦闘参加型の民間軍事会社であり、戦闘、要人警護、軍事訓練、軍事アドバイザー等が業務となっている。
そんな人間が何故、学校で教師をやっているかと言えば……
【回想】
「社長、お電話です」
「あん?誰からだ?」
「匿名で、社長ご本人と商談がしたいと。国際電話のようです」
「…まぁ良い、繋いでくれ」
ヨーロッパ某国にある民間軍事会社“Hound Security”の本社は、なんの変哲もないビルだ。
その社長室の主−桂木和樹に良く似た人物は秘書の女性へ匿名で掛かってきたという電話を机上にあるそれへ繋げと命じ、彼は受話器を取った。
「Hello?」
<−あらん、凄く良い声♪惚れちゃいそうだわん♪>
「………」
野太く、気味の悪い声に社長は硬直してしまう。
<あらん?もしも〜し、Hello hello!?>
「…大変、失礼しました。聞こえております。私、弊社“Hound Security”の社長を務めているローランドと申します。そちらのお名前を伺っても?」
久し振りに聞く日本語に彼は思考をそれへ切り替えると、先方の名前を尋ねた。
<ゴメンなさいねぇ、アタシとした事が。貂蝉と呼んでちょうだい♪>
「失礼だが、MsとMr、どちらでお呼びすれば?」
<Msよぉん>
「…ではMs.貂蝉。どのような依頼で弊社にお電話を?」
何の用件もないのならPMCへ直々に、しかも国際電話を使ってまで通話する馬鹿はいない。
彼は愛煙の煙草に火を点けると、商談を促す。
<ネットで拝見したんだけどぉん、手広く業務を展開してるみたいねぇん?>
「えぇ。“適切な報酬で、適切な社員を派遣、そして適切かつ完璧な仕事を”。どの業務でも一貫したモットーとなっています」
<素晴らしいわぁん。それで…長期に渡る人材派遣っていうのは出来るのかしらん?>
「報酬額と期間、そして派遣する国あるいは地域の情勢にもよりますが可能です」
必要な事柄をメモに走り書きしつつ、彼は商談を続ける。
<なるほどねん。…派遣先は日本、それも学校なんだけどぉん大丈夫かしらん?>
「学校…。警備でしょうか?」
<正確には警備員兼教師って感じねぇん>
「…………」
数多の依頼を受けてきた彼だが、有り得ない単語に絶句してしまう。
百戦錬磨の傭兵を警備員にするというのは理解できるが…傭兵を教師にするというのは理解に苦しむ。
「…Ms.貂蝉、御自分が何を仰っているか理解しておりますか?」
<勿論、本気よ。ついでに言えば正気でもあるわん>
「では何故、傭兵を教師などに?失礼ながら理解に苦しみます」
<う〜ん…。Mr.ローランド、端的に言っちゃうとね…ウチの学園は“普通”の教師だとやっていけないのよん>
「…やっていけない?」
<そうよん。ちゃんとした大学卒業で、教員免許を持った“一般的”な教師では駄目なの。赴任して一ヶ月も持たないわん>
「…どういう事でしょうか?」
<ウチの生徒達は一癖も二癖もある子達…あぁ良い意味でよん?そんな子達ばっかりだから、心労とか肉体疲労で倒れちゃうのん>
「…なるほど」
随分と物騒でエキサイティングな学校だ、と想像しつつ彼は溜まった灰を灰皿に叩いて落とす。
「それで…精神的に“異常”な傭兵を教師にしようと?」
<That's right♪戦場で培った強靭な精神力に肉体…。これほど、ウチの学園に相応しい人材はないわん!!>
「…ならば、弊社以外の会社でも良かったのでは?」
<Mr.ローランド。貴方の会社が一番、相応しいのよ。噂だと…凄く優秀な人材ばっかりだそうじゃない?>
「…少数精鋭もモットーのひとつですので」
<謙遜しなくても良いわん♪…報酬は日本円で毎月30万を派遣された方に、そして会社へは同額を毎月お出しするわ。勿論、依頼を受けて頂いたら、相応しい経歴も用意できる。…どうかしらん?>
悪くない報酬に、偽装経歴までもが用意される。
至れり尽くせりの事だ。
「…申し訳ないが即答は出来かねます。ですが…前向きに検討させて頂きましょう」
<そう…。まぁ当然ねん。じゃあ快い返事を待ってるわん。連絡先だけど−−>
受話器の向こうから学園の住所と電話番号が伝えられ、それを彼は一言一句、聞き漏らす事なくメモしていく。
「…了解しました。遅くとも一両日中には結論を出して連絡させて頂きます」
<待ってるわん♪>
「では、これで失礼させて頂きます」
受話器を置くと彼は疲れたように溜め息を吐き出し、短くなった−ほとんど吸う事の無かった煙草を灰皿に押し潰す。
それが終わると彼は秘書を呼び、メモした事の詳細を調べるよう伝えた。
そして机上のパソコンを起ち上げると、データベースを漁り、適当な人物を探し始める。
「−オイッ〜す。よぉ相棒、仕事だって?」
「あぁ。…朝帰りとは良い御身分だな」
「…え…なんで判った?」
「首筋」
「は?………あ〜…セリーヌの奴…」
社長室に入って来た新たな人物−金髪を短く纏めた副社長は壁掛けの鏡に映る自分の身体に残った恋人との情事の名残を発見してしまう。
「…で、仕事は?」
「日本だ。…適当なのは…やっぱり極東支部の管区か」
「極東管区の連中って、現在は中央アジアじゃなかったか?」
「あぁ。…まぁ…大丈夫だろ」
「ヘヘッ。お前の“弟”だからか?」
「…俺が依怙贔屓すると思うのか?」
「いんや全然」
ヘラヘラと笑う副社長に彼は苦虫を噛み潰したような表情をしてしまう。
「んで…派遣先は?」
「学校」
「学校ねぇ…学校……ハッ?」
「…やっぱりコイツらで良いか…」
思考がフリーズする相方を気にも留めず、社長はデータベースにヒットした人物の名前をクリックして、キーボードを叩き、項目の内容を書き足していく。
【Staff No.0223:極東支部部長 桂木和樹】
【派遣先異動。中央アジアから日本へ(予定)】
【Staff No.0224:極東支部副部長 加藤将司】
【派遣先異動。中央アジアから日本へ(予定)】
エンターキーを叩くと、彼は机上から煙草を取って火を点けた。
「学校?…えっマジで学校に…?」
「社長、失礼いたしま−−副社長、どうかしたんですか!?」
「あ〜気にするな。それよりも…」
「あっ、はい、調査結果はこちらになります!」
秘書がいまだ混乱の渦中にある副社長を発見して慌てるが、社長は報告書の提出を促す。
手渡されたそれを捲って見れば…そこには聖フランチェスカ学園に関する調査結果と学園長である貂蝉の詳細な経歴が写真入りで書かれていた。
「………Monster?」
率直な感想が物語るのは−−流石の社長も真っ当な人間であったという事だろう。
この一連の回想は、約二年前の出来事である。
【回想終了】
「−とまぁ、こんな感じだな」
「いや、何が!?」
何がなにやら、と将司が相方へツッコミを入れた。
「…良く判らんが…こう言わないと駄目な気がしてな」
「なんだそりゃ?」
体育館の外壁に背中を預け、座り込んでいる二人は揃って首を傾げている。
「…なぁなぁ相棒。忘れてたんだけど…北郷の奴、大丈夫か?」
「さぁな。これに関しては俺の知った事じゃない」
とても教師が吐く台詞ではないが、関わり合いになりたくないのは理解できるだろう。
捕まれば彼女(?)が言う所の“未知なる快楽”を覚えてしまう可能性が高い。
「…どんなモノにも犠牲は付き物、か」
「…そういう事だ」
しみじみと語らないで欲しい。
仮にも、一応は、教師なのだから教え子の心配をしても良いと思う。
煙草を吸い合っていると突然、和樹のスラックスの中で振動が起こる。
携帯電話のバイブだ。
それを取って開き、着信相手を確認した彼は…携帯を閉じてスラックスへ仕舞う。
「…出ないのか?」
「…あぁ」
閉じた瞬間にバイブは収まるが、再び携帯が振るえ始める。
「オイ、また来たぞ。本社からじゃないのか?」
「…違う」
しばらくすると、またバイブが収まり、またまた振るえ始めた。
「………チッ」
舌打ち一発をかまし、和樹はやっと携帯を開く。
画面には不在着信二件、そしてメール着信一件が表示されている。
メールを開くと…途端に彼の表情が曇る。
【発信者:桂木和也】
【件名:なし】
【本文:居留守を使うな】
「…………」
「誰からだ?」
「……親父。どうせ下らない用件だろ」
仕方なく和樹は携帯のボタンを押しから、それを耳に当てる。
コール音が響き、しばらくして回線が繋がる音が鳴る。
<−遅ぉぉぉい!!>
通話相手の剣幕に和樹は携帯を僅かながら耳から離してしまう。
<プロなら一回で出るモンだろうが!!そしてワンコールで出る!!常識だろう!!?>
「…親父は3コールで出ただろう」
<ナスターシャ共々、もう傭兵は引退したんだ。関係ない>
「…………」
和樹の通話相手は…何を隠そう、彼自身の実父である桂木和也だ。
元航空自衛隊の戦闘機パイロットであり、一時期は創設されたばかりの“飛行教導隊”(アグレッサー部隊)に所属していた経歴を持っている。
自衛隊退官後、彼は戦闘機パイロットを専門とする傭兵になり、紛争地で現在の愛妻と“敵”として空中で出会った。
結果は…愛機を撃墜され、敵地にベイルアウト。
生身の愛妻と出会ったのは捕虜収容所だとか。
そして…色々と端折るが、双子を儲けた後に結婚した訳である。
つまりはデキ婚だ。
「…で、何の用だ?」
<あぁ!!ナスターシャと話してたんだが、早く孫の顔を見せてくれ!!この際、手順なんか踏まないで良いから!!>
「アンタら夫婦と同じ轍は踏まねぇよ!!」
<おまッ!?親に向かってアンタはないだろう!!?>
父親とは思えない発言に珍しく和樹の地が出てしまう。
和也のいうナスターシャとは、和樹達の母親である桂木アナスタシアの事だ。
こちらの経歴も素晴らしく、ロシアが、まだソヴィエト連邦と名乗っていた頃、女性にも関わらず連邦空軍の戦闘機パイロットとして活躍したのだ。
ちなみにアフガニスタン紛争にも参戦している。
和也との出会いは前述の通りで、彼曰く『操縦技術は俺より優秀。だが、ベッドの上では俺の方が優秀』とのこと。
要は…和也はベッド上での“ドッグファイト”が得意という事だ。
…現在はどうか判らないが。
これらを考えると…和樹達は日本とロシアのハーフという事になる。
<まったく…翔もカタブツだが、お前も大概だな。…ったく誰に似たんだ?>
「親父でない事は確かだな」
<カタブツである事は認めるのか?>
「あぁ。隣の野郎と副社長みたいな軟派よりは遥かにマシだ」
「……酷ェ」
地べたに直接、腰掛けている将司が苦笑する。
彼に言わせれば、カタブツよりは軟派がマシ、なのだろう。
<と・に・か・く。早く孫の顔が見たいんだ!!…俺達だって何時、ポックリ逝くか判らんのだぞ?>
「…まだ、56だろうが」
<肺ガン予備軍ナメるなよ!?それに“もう”56だ!!>
「…歳はどうでも良いとして、その理屈だと俺も何時ポックリ逝くか判らないな」
<…………あ>
自分の失言に気付いた和也が携帯の向こうで小さな声をあげると……長い沈黙が。
「あん?…もしも〜し、聞こえてるか〜?」
<とっとにかく頼んだぞ!!じゃあな!!>
「ちょっ……切りやがった」
通話が切れた事を示す電子音が鳴り響き、和樹は携帯をスラックスへ仕舞う。
「相変わらず、ハイテンションな親父さんだな?」
「…お袋の話だと、昔は俺達みたいだったらしいんだが…」
ニヤニヤと笑う将司に彼は母親から聞かされた昔の父親の事を掻い摘まんで話す。
「へぇ…。んじゃ、相棒と社長が歳食ったら…現在の親父さんみたいになるのか…へぇ…」
「断言しても良い。兄貴共々、絶対にならん」
まるで決意表明の如く、言い切る和樹の姿に将司は苦笑してしまう。
すると今度は学園全域に予鈴が鳴り響く。
二人が腕時計へ視線を落とすと、昼休み時間が終わってしまう時刻になっていた。
「…さて、と。午後も頑張りますか」
「そうだな…」
二人は揃って、スラックスのポケットから携帯灰皿を取り出すと吸い殻を放り込み、授業へと向かう事となった。
−余談だが、和樹の午後一番の授業は2年B組で始まり…教室には真っ白となった一刀が机に突っ伏していたそうな…。
はい。
貂蝉を始め、種馬−もとい北郷一刀、そして和樹の家族が登場しました。
これは“外史の外史”なので…。