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一時限目



恋姫キャラの名前については…ツッコミ入れんといて下さい。






「−では先生方、今日も頑張りましょう」


恒例の朝の会議。


教頭の閉会の挨拶が終わると職員室にいる高等部の教師達がそれぞれの席に座り、担当クラスがある者はそのまま生徒の待つ教室へ向かう。


彼等が籍を置く聖フランチェスカ学園は男女共学で、歴史の古い由緒ある学園だ。


広い敷地に豊富な学科のカリキュラム。


進学校としても有名で遠方からも生徒が集まる学校になっている。


ちなみに男女共学であるが、その比率は9:1で女子が多い。


男子にとっては夢の学園生活!!……に思えるだろうが学園の教育方針“文武両道”が表す通り、一癖も二癖もある女子が集まっている。勿論、良い意味でだ。



社会科教諭の桂木和樹は自分の机に昨日の各学年で行った小テストを積み重ね、採点を始めた。


彼は担当クラスを持っておらず、授業があるまでは、こうして職員室の中で業務をこなしている。


それは“相方”である彼も同じなのだが…。


これに関しては全く不満は無いそうだが、ひとつだけ…不満があるらしい。


“職員室内全面禁煙”


一年前に始まったキャンペーンにより、それまで喫煙できた職員室は愛煙家にとって地獄の場所と化したのだ。


…というよりもそれまで喫煙できたのが凄いと思うが。


「…○…○…○…満点っと…」


そう呟きつつ彼は採点を終え、氏名の脇に100点と朱字で走り書きする。


氏名欄には“曹華琳”と書かれている。


彼女は二年生であるが、類い稀な才能を持っており、学内の学力テストはもとより全国の学力テストでも常に上位に食い込んでいる。


学力だけでなく運動能力も優秀で、特定の部活には入っていないが試合等の助っ人として参加する事があるが…その試合では必ず勝利をおさめている。


ひとつの“欠点”…というより個人的嗜好を除けば最高なのだが。


「…×…×…×…×…0点…“もっと頑張りましょう”っと」


そんな彼女の従姉妹にあたるのが、たった今、和樹の採点により奇跡の0点という栄冠を勝ち取った三年生の“夏侯春蘭”。


学力は……まぁ置いておくとして、運動能力は凄まじい。


剣道部主将を務め、毎年のインターハイで優勝している人物だ。


その双子の妹“夏侯秋蘭”も弓道部主将を務め、インターハイ優勝を飾っているが、姉との違いは学力の優秀さにあるだろう。


いったい、どうすれば此処まで違いが出るのか是非とも教えてもらいたいモノである。


採点を続けつつ、コーヒーを啜る和樹が新たな用紙を山から取った時だった。


「桂木先生!!」


「ん、どうかしましたか?」


教頭に呼ばれ、彼は赤ペンを机に置いて彼の座る席に向かう。


「…先生…“また”です…」


「…“また”ですか…」


「えぇ…“また”…」


疲れ果てた教頭の顔に和樹は何があったのか察しがついた。


頭痛がしてきたのか彼は自分の額に手をやり、ゆるゆると頭を振る。


「…ちょっと行ってきます」


「……お願いします」


そう言うと和樹はポケットに愛車のキーが入っているかを確かめ、職員室を出て、職員用駐車場へ向かった。










スピード違反ギリギリの速度で和樹は愛車のBMWの6シリーズE63を車道を走らせていた。


ちなみにボディカラーは黒、しかも左ハンドルだ。



苛立ち気に愛煙のLUCKY STRIKEを吹かしつつ、溜まった灰を灰皿へ捨てると、それを銜える。



しばらく走らせていると進行方向に警察署が見えてきた。


ウィンカーを左にあげると、待つ時間も惜しいのか一気にハンドルを切り、駐車場に滑り込む。


そして警察署の玄関に愛車を横付けすると、煙草を灰皿に捨て、シフトレバーをPの位置に、そしてパーキングブレーキを掛けてから車外に出る。


ドアを閉める際の音は、それが壊れるのではないかと思うほど激しいモノだったが。



警察署の自動ドアをくぐれば、そこは待合室。


彼の到着を待っていたかのように制服を着た警察官が近付いてくる。


「桂木先生、お待ちしてましたよ」


「大変、申し訳ありませんでした。またウチの馬鹿が…」


「いえいえ…まぁその…元気があってなによりです…」


大の大人二人が互いにペコペコと頭を下げ合う。


この警察署で、これは恒例になりつつある。


「巡査長さんや皆さんにも御迷惑をお掛けしまして……」


「いえいえ…これが仕事ですので、お気になさらず…」


「そう言ってもらえると助かります。…ところで…あの馬鹿は?」


「あちらの自販機の前に。今回も喧嘩による補導ですが、正当防衛の範疇ギリギリになります…」


「…大丈夫でしょうか?」


「おそらく。向こうはチンピラ三人組、しかも野郎ですので強くは言ってこれませんので御安心下さい。では、本官はこれで失礼を。学校での指導をお願いします」


「御迷惑をお掛けしました…」


頭の下げ合いが終わり、警察官がその場を去ると、和樹は溜め息を零す。


待合室の自販機に向かうと、その前に置かれた長椅子には缶コーヒーを啜る生徒が座っていた。


男子生徒用の制服なのだが、前ボタンを全て外し、胸にはサラシを巻いている。


しかもサラシは膨らみ、長い濃紫色の髪は後頭部で一纏めにされていた。


つまりは女子生徒。


「……帰るぞ」


「……………」


女子生徒−“張霞”にそう告げると、彼女は空になった缶をゴミ箱へ投げ捨て、ズボンのポケットに両手を突っ込んで歩き始める。


再び溜め息を零した彼は彼女の後に着いて行き、外へ出るとリモコンでドアロックを解除した。


運転席に座り、キーを差し込み、ブレーキを踏んでからエンジンを掛けると助手席に霞が滑り込んできた。


「シートベルトしろよ」


「…………」


またも無言で和樹の指示通りに行動する彼女を見届け、彼はゆっくりと愛車を発進させる。



「……勝ったか?」


「……うん」


安全運転で愛車を走らせる和樹は霞に問い掛けつつ、ウィンドウを開けると煙草を銜えてシガーライターで火を点ける。


一方の霞は車外の流れる風景を頬杖ついて眺めている。


「…俺も一応は生徒指導部の人間だから言っておくが…退学させられる可能性もあるぞ」


「…退学…か」


「あぁ。高等部一年で停学三回、二年では−」


「五回や」


「そうだ。…三年になって早々に、これで停学になったら俺も庇いきれん」


「…なんでいつもウチを庇っとるん?手につけられん生徒やって判ってるんやろ?ならさっさと退学にすれば良いやん」


前方の信号機が赤になり、和樹は停止線で愛車を停める。


溜まった灰を灰皿へ叩き落とすと、彼はそっぽを向いている霞へ僅かに視線を向けた。


「退学処分なんて、させるのは簡単だ。適当な理由を書類に書いて、そいつを提出して、学年の教諭や主任を集めた会議をやって、通過したら教頭、校長、学園長に書類を回して…めでたく退学。…簡単で欠伸が出る」


「………」


「でもな−−」


信号機の色が青に変わり、愛車を発進させると、彼は吸い込んだ煙草の紫煙を開けたウィンドウから車外へ吐き出す。


「でもな。そいつを簡単にやっちまうと、教師失格なんだ」


「…失格?なんで?桂木先生は良い先生やん。ウチが言うのもなんやけど」


「…そいつはどうも。話を戻すが“教師失格”っていうのは−まぁこの場合は退学処分を簡単に申請しちまう事だが、つまりは“指導辞退”を指すんだよ」


「指導辞退?」


「そう。簡単に言えば『この生徒は品行が悪く、とても私の手には負えません』ってな意味か」


「…先生やって人間や。手がつけられん生徒の指導やってたって時間の無駄やろ」


「それも正しい。だがな…生徒より少しばかりでも長く生きてるんなら、時間が掛かろうと何しようと、品行の悪い生徒を少しでも良くするのが教師の務めだ」


「……押し付けやな」


その言葉に和樹は苦笑した。


確かに生徒からみれば迷惑この上ない。


「まぁそう取ってもらって構わんよ。間違っちゃいない。ただ…お前はダブろうが何しようが必ず卒業させてやる、安心しろ」


「…ダブりたくはないなぁ…」


「出席日数はギリギリだが足りてるし、授業態度も悪くはない。…まぁ俺の授業だけかもしれんが。問題は内申点の人物評価と生活態度ぐらいだ。それを…雀の涙でも良いから改善すれば問題ない」


「それが問題やっちゅ−ねん」


「なら努力しろ馬鹿が」


片手でハンドルを操作しつつ空いた手で彼女の頭を軽く小突く。


「痛いやん!!PTAに訴えたる!!」


「オ−オ−、やってみろ。PTAと教育委員会が怖くて教師なんかやってられるか」


学園の正門に愛車を横付けすると和樹は助手席側のドアロックを解除し、霞を降ろす。


「…おおきに。いつもすんません」


「別に構わん。これが仕事だ。遅刻届を出しに職員室へ寄れよ」



「判った」


必要な事を告げて、和樹は愛車を発進させようとするが重要な事を言い忘れていた為、慌ててブレーキを踏む。


「どうしたん?」


「反省文、400字詰め原稿で10枚。昼休みまでに俺へ提出しろ」


「なぁっ!!?ちょっ先生、アンタ、気にせん言うとったやないか!!」


「じゃあな〜」


「ちょっ待ちやぁぁぁ!!!」









「なんで学年が違うのに三年生と二年生のテストが混じってるんだ?」


という疑問については、作中の説明以外に、学園の学科カリキュラムが選択制になっている為と理解して下さい。




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