prologue
現在時刻:0626
場所:学園内武道館
空手、柔道、合気道、薙刀、剣道部が使用する武道館内は朝の静寂に包まれている。
部員が集まり朝練が始まるには少し早い。
−その静寂を打ち破る衝突音。
それは剣道場の中心から響いている。
「−ふっ!!」
「−ちっ!!」
そこには木刀を構えた二人の男性が対峙し、相手が間合いに入った瞬間、一太刀浴びせようと木刀を振るう。
袴姿で上半身は裸なのは同じだが、携えている木刀の数は違った。
片方は一本、もう片方は二本。
身長も若干ながら、一本携えた男性が高いが、互いに長身である事は変わりない。
−試合は一本勝負。
実戦において三本勝負は有り得ない、と言わんばかりだ。
互いに放つ殺気も実戦さながら。
油断するならば、腕の一本、骨の二、三本は覚悟しろ、と殺気が語っている。
「−よぉ相棒ッ!!?」
「−ッ、あん!!?」
「少し鈍ったんじゃねぇ…かッ!!?」
「−フッ!!寝惚けたこと抜かす前に、一本決めてみろ!!」
「−クッ!!?痛ェな畜生、腕が痺れたじゃねぇ…か!!」
軽口を叩き合いながらも太刀筋の鋭さは変わらない。
一合、二合、三合と激しく打ち合い、二人の肌にはうっすらと汗が滲む。
「−フッ!!」
「−グッ!!?」
一瞬の隙を突き、一本の木刀を振るっている男性が相手の片手から木刀を弾き飛ばした。
それは空中で何回転もし、剣道場の隅に乾いた音を立てて落ちる。
さして動揺する様子もなく木刀一本を失った彼は残ったそれを正眼に構え直し、切っ先を相手へ向ける。
反撃を回避するため距離を取っていた彼もニヒルな微笑を引っ込め、肩に預けた木刀を上段に構えた。
隙を伺い、ゆっくりと互いに近付くと……どちらかの顎から一滴の汗が滴り落ちた。
「「ッ!!!」」
それを合図に降り下ろされる木刀と、胸へ突き出される木刀が、ほぼ中間で交差する。
「「………チッ」」
舌打ちと共に、二本の木刀が床へ叩き落された。
それを見届けた二人は距離を取ると一礼し、互いの得物の回収へ向かう。
“平日恒例”となった早朝の試合を終えた二人は、更衣室でいそいそと着替え始めていた。
「相棒。そっちの日程、どうなってる?」
「今日は二時限目と四時限目…それと六時限目が担当だな」
「こっちは午前中だけだ。…はぁやれやれ…疲れるねぇ」
「俺もだ…。“戦場”より疲れる」
片方の男性がワイシャツへ袖を通す瞬間、彼の左腕にはトライバルタトゥーが彫られているのが見えた。
しかしそれを相方は気にも止めず、紺色のスラックスを履いてベルトを締める。
「…そういや“あのコ”とはどうなったんだ?」
「…まぁそこそこ。それよりも早く再就職してもらいたい」
「……なんだっけ?近所の人間からつけられた渾名?」
「“自宅の小覇王”」
「あ〜それそれ。…ニート街道まっしぐらじゃねぇか…」
「…一度は就職できたんだがなぁ…」
「…なんで辞めたんだ?」
「言ってなかったか?」
「あぁ」
ネクタイを締め、それを贈り物のネクタイピンで止めてスーツの上着を着込んだ彼は、相方の疑問に答えるべく口を開く。
「…上司のセクハラが原因でな」
「…へぇ。それが嫌になって?」
「いや。その上司を殴り飛ばした後、辞表を叩き付けたらしい」
「………ワオ」
凄まじい辞め方に、彼は素直な感想を漏らす。
「…あれ…その会社って…一部上場してなかったか?」
「あぁ」
「…んで…去年の6月だかにインサイダー取引が切っ掛けで潰れたよ…な?」
「応」
「………まさか、お前…」
自分の予想が正しければ…と彼は相方に視線を向けるが、その人物は木刀の入った竹刀袋と風呂敷をロッカーへ放り込み、更衣室から出て行こうとしていた。
「…はぁ…まったく…」
仕方ない奴だ、と言わんばかりに彼は溜め息を零す。
「…まっ、今日も頑張りますか!!」
ロッカーに荷物を放り込み、扉を閉めて彼は更衣室を出た。
向かうは職員室……の前に喫煙所(という名の体育館裏)である。
この物語における“一応”の主人公は−−
桂木和樹 25歳 独身 担当教科:社会
加藤将司 25歳 独身 担当教科:化学
これは、誰かの願いにより創られた“ひとつの外史”の物語…
はい…作っちゃいました…。
超・不定期更新になりますが……まぁ気長にお付き合いを。




