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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
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連治はロボットな少女と出会う

テーブルの上に釣りの道具を広げて手入れをしていると、姉―轟春香―が突然振り向いてニヤけた顔をこちらに向けながら声をかけてきた。




「今日、新しい家族が増えるからね」


相変わらず唐突な姉である。

いつも以上に上機嫌で鼻歌を歌いながら晩飯の用意をしている姉に確かに訝しさを感じていた。

いたのだが、そうくるとは思わなかった。

日曜日だからだろうかと勝手に納得していたのだが。

また猫でも拾ってきたのだろうか。




「4時ごろ来るって言っていたから、もうすぐよ」


4時に来るということは宅配だろうか。

姉貴にしては珍しくペットショップで買ったらしい。


最近姉の仕事が忙しそうだったし癒し系は必要だよなと、今考えると完全に的外れとも言い切れない予測が頭に浮かんでいると、玄関から到着のベルが鳴った。




「あら来たわね。

ちょっと私、揚げ物中で手が離せないから、連ちゃん出てて」


「ああ、分かった」


少しみしみし音のする廊下を歩きながら、今日は好きなかぼちゃの天ぷらみたいだなと考えているうちに玄関までたどり着いた。




スリッパを突っ掛け、年季の入ったドアノブを回し、木目の目立つ扉をあけようとしたとき、途中でガツンと何かに当たった音がして、最後まであけることができなかった。


「すいません」


少女の声がして、キュッキュッと台車か何かの後退する音がした。


「いえ、こちらこそ」




ゆっくり扉を開けながら謝ると、車いすに乗った凛音の姿をした少女が眼に入ってきた。


長くて黒い髪。陶器のような白い肌。くりっとした目に。整った鼻。

完全に兄である連治の贔屓目ではあるが、学校一かわいかった凛音とそっくりだった。

ただし、同時に奇妙な違和感を持っていて、人間だとは思えない、そう人形と表現するのがしっくりくるそんな少女が瞬きもせず車いすに座っていた。


少女の頭がピクリと揺れる。連治はやっと人間だと確信できる。


だが、似ている。あまりにも似ている。

少し背が高く少し大人びてはいるが、3年前に死んでしまった双子の妹の凛音に。

そして同時に感じる違和感の正体は、そこから来るのだろうか?


かける言葉を失っていると、いつの間に来たのか、後ろから聞きなれた姉の声がして現実に引き戻された。




「ようこそ、久美ちゃん。これから、よろしくね」


「はい、よろしくお願いします」


「ほら連ちゃんも」


姉に促され、少し落ち着きを取り戻した俺は、よろしくと黒髪の少女にあいさつする。

その後、すぐに姉に説明を求めると、今日から家族になることを告げられた。




「びっくりしたでしょ。

連ちゃんの驚く顔が見たくて、黙ってたの。

ふふふ。作戦第1弾成功だわ」


第一弾?

これ以上何をするつもりなんだ?


姉の不気味な更なるいたずら宣言を聞きいて思わずため息をついてしまった。




姉に聞こえるようにあえて大きめにしたから当然なのだが、どうもため息が少女にも聞こえていたみたいで、出会っていきなり不安にさせてしまったらしく、彼女はか細い声で呟きながら無表情にうつむいた。、


「やはり、御迷惑ですか」


あっ、そういう訳では…。


慌てて否定しようとすると、姉がはだしで玄関を駆け抜け、いきなり少女に頬ずりを始めた。

しかも、悲しむ久美ちゃんもかわいいーとか何とかわけのわからないことを叫びながら。




とりあえず少し頭痛を感じながら、あのため息はこの馬鹿姉に対してのものだと誤解を解いて、改めてよろしくと返事をした。


「久美ちゃんの荷物は、夕方届くのね?

この家古くて、バリアフリーじゃないから、不満があったらいつでも言ってね。

すぐ直すから」


廊下は車いす通れるかな?




とりあえず、玄関にスロープを付けないと車いすでは入れないなと考えながら、頬ずりをつずける姉を引き剥がして、車いすごと持ち上げようとすると、


「大丈夫です。歩けます。車いすだけお願いできますか?」


と言われ、彼女が立ち上がるのをクララを応援するハイジの気持になって見守っていると、彼女が右足に体重をかけていることに気づく。



どうも左は、義足らしい。


思ったよりスムーズに歩く彼女にほっとしてから、車いすをたたみ、左手に抱えて車いすを運びこむことにする。


横を見ると、眼を潤ませて少女を見ている姉がいた。顔の前で祈るように両手の指を組んで。


再びため息をつきながら、天ぷらは大丈夫なのかと姉に尋ねると、あっと声を上げて走って行った。




*************************************




テーブルの上に広げていた手入れ中の釣り道具をかたずけ、姉の作った料理を並べて、所在なさげにちょこんと椅子に座った少女を含めた3人で初めての食事が開始する。




「家の中用の車いすは買っておいたから、それも夕方届くわよ。

他に必要なものは、とりあえず日曜日に買いに行くわよ」


という姉の発言に、じゃあ車いす玄関に置いておけばよかったのではと心の中で突っ込み、カボチャの天ぷらを食べながら、久美とお互いの趣味について話をすることにした。


趣味の釣りの話で熱くなったために途中から連治しか話していないことに気付いたが、徐々に打ち解けてきたのか、さっきは人形のようだと感じた顔に表情の微妙な変化があるのが分かるようになった。




突然のことでただ驚いていたが家族になるのだし仲よくしていければとご飯を掻き込みながら考えていると、思い出したように姉が声をかけてきた。


「久美ちゃんの部屋は、連ちゃんの部屋の隣よ。

連ちゃん後で案内してあげて。

それから部屋も片付けお願い」


隣?凛音の部屋のことか?




「えっ、ちょっと待てよ。

あそこは、凛音の部屋だぞ」


姉の言葉に思わず反応してしまう。

あの部屋は凛音が死んでから、誰も使っていなかった。

定期的に掃除はしているが、今も4年前のままだ。




「他に使っていない部屋がないのだから、いいじゃない」


そうだけど…。


確かに姉の言う通りではある。

そうではあるのだが、何か釈然とせず、再び御飯を食べ始めたものの食事が終わるまで何を言えばいいか言葉が見つからなかった。








2011年 07月 25日―投稿

2011年 08月 04日―改定―迷惑かけます


【コメント】

やっぱ会話が難しい。

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