表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

春香は後輩をこき使う

今日はここまで連続投稿。

冷房が利きまくったカフェで、轟春香はふーと息を吐いてセミショートの髪を掻きあげる。


黄色のブラウスの裾をまくりあげ、弟の可愛さについて語り切ったことに満足していると、眼前でなぜかうつろな表情の後輩―三条四郎が目に入り、そろそろ食事を開始することにした。




春香がスプーンにフォークをあてがいゆっくりと冷製パスタを巻いて食べ始めると、蒸し暑い季節がさらに熱くなるような黒のストライプのスーツをきっちり着込んだ後輩が慌てた様子で早く食べ終えるようにせかしてきた。


黙っていればかっこいい部類に入るだろう短髪の後輩は、現在誰が見ても何事かと心配になるくらいに3枚目俳優のごとく取り乱している。


「先輩、速く食べてください」


急にどうしたのかしら?


急かされて何事かと思いながらも、すでに空っぽの青年のお皿とほとんど手をつけていない自分の皿を見比べる。


「確かに、かわいい弟について少しだけしゃべりすぎたわね」


そう呟いて、食事を少しだけ急ぐことにした。




「轟先輩は会議が1時からあるんですよ」


会議?そういえばそうだよね。

三条君は会議に出る必要ないのにどうしてこんなに慌ててるんだろう?


「運動靴に履き替えてきたから走ればまだ大丈夫よ」


そう答えつつ、もしかして自分の食べているパスタを奪おうとしているのかしらという考えが過り、取られてはなるまいと慌ててトマトを口に運んでいく。




「今回は、先輩の企画した新しいデザインのショーツについての会議なんですから。

早くいってプレゼンの練習しないと」


ああ、それで急かしてたのか。


言われてみれば確かにそうかなと考えながら、三条君疑ってごめんなさいと心の中で謝る。

とりあえず海老だけでも食べてしまおうと、春香は残りの海老を三つフォークで突き刺すことにした。




「ふー。おなかいっぱい。

三条君、じゃあ行きましょうか」


春香は食べ終わったことを宣言した後に、今日おごってくれたことにお礼を言う。


「いいですよ。

このタダ券どうせ今日まででしたから」


このチケット、スタンプ集めないといけないものなのね…。


意外とマメなのかなと思った春香は再度お礼を言って、クールビス完全無視のカフェから後輩の三条四郎とともに熱気の強い外に出た。




背後で店員のまたお越しくださいを聞きながら、とりあえず心配性な後輩を安心させるために元女子陸上部の本気を見せることにする。


「さて、走りましょう。三条君」


何か気合が入る目標ないかな…。よし…。


後輩より先に着けたら今夜帰った時にキュートな弟の連治に二回頬ずりできると自分ルールを設定し、深呼吸して後輩を見る。


すると、さっきまで急かしていたはず後輩の目が向かいの店で止まったことに疑問に思い振りかえる。




「珍しいですね。向かいの蕎麦屋貸し切りなんですね。

えーと。黒田孤児院設立記念会?」


さっきまであんなに慌ててたのに…。確かに珍しいけど…。


確かに蕎麦屋の貸し切りは珍しいなと後輩の言葉にほんの少しだけ同意して、蕎麦屋の窓に視線を移すと、窓際に座っている車いすの少女に目がとまり、目が離せなくなってしまった。




「どうしました?先輩?」


「あの子」


「え?」


「あの車いすの子」


「彼女がどうかしました?」


「妹に似てる」


「妹?アレ先輩、弟だけしかいないんじゃなかったでしたっけ?」


「その連ちゃんの双子で、もう死んじゃったんだけど」




少し昔を思い出して感傷に浸りそうになるが、会議のことを思い出して後輩にお願いすることにする。


「三条君、今日外回りだったわよね。

孤児院の院長に彼女についてちょっと聞いておいてくれない?

引き取れるかどうかについても。

私会議に行ってくるから」


困惑して返事を返せないのか、声にならずに口を開けたり閉じたりするだけの後輩が目に入る。


三条君、そんなに驚かなくても…。

不測の事態だと思考停止するのかしら…。

これが目を見開くって現象なのかな? 




もしかしたらさらに高条件を出せば頼みを聞いてくれるかしらと考え、ここは人生最大の一大事の場面ねと判断を下して、春香は言葉をたたみかれるように続けた。


「あなたがさっきめんどくさがってた例の怒りっぽい取引会社の部長への謝罪の件、私がやっておくわ」


「でも、男の僕が急に彼女のことを知りたいと言っても、断られるんじゃ…」


もっともな意見ね…。でもここは譲れそうにないかな…。




慌てて断ろうとする後輩にさらに強引に言葉を続ける。


「あなたに私のかわいい妹の写真をメールで送っておくわ。

それ使って、生き別れの妹の話をすれば大丈夫よ。

じゃあ、頼んだわよ」


「それじゃあ不審者度が上がってるだけじゃないですか」




後輩が何か言っているようではあるが大したことではないだろうと判断して、とりあえず会議に出席するために春香は走りだした。


「ちょ、ちょっと待って下さい、先輩」



後方で春香を呼ぶ後輩の声を聞きながら、春香は今日は忙しい一日になることを確信した。





2011年 07月 24日―投稿

2011年 08月 04日―改定


【コメント】

会話が思いつかない!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ