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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
29/30

連治は誕生日を祝う

久美の握ったしゃけ入りおにぎりにかじりつく。


姉がわざとらしく大きな音を立てて新聞をめくる。明らかに読んでいないだろう。


チラチラとこちらを観察しながら、姉が本日すでに3度していた発言を再び繰り返した。


「あら今日は8月22日なのね」


「何かあるのですか?」


久美が不思議そうに尋ねたので姉の代わりにチンチン電車の日だと答えてあげる。



「東京で初めて路面電車運行を開始した日らしいよ」


姉の持つ新聞に載っていた情報だ。


すると、なぜか姉が"連ちゃんなんて大嫌い"と叫んで、鞄をつかんで仕事に出かけて行った。




「どうしたのでしょうか?」


久美が心配そうにこちらを見てくるので、仕方なく理由を教えることにする。


「今日は姉ちゃんの誕生日だからね」


「そうだったんですか…」


「とりあえず昼までバイトがあるから、そのあと馬鹿姉の誕生会の準備をしようか」


そう提案すると、はいと澄んだ声で返答が返ってきた。




++++++++++++++++++++++++++++++




バイトが終わって久美の作ってくれた昼食を食べ、二人でプレゼントと誕生会の食材を買いに行くことにして、駅前のデパートに向かった。


「折角足こぎのペダルがついているので自分で車いすをこぎたいのですが…」


デパート前の横断歩道で久美がそう提案してきたので、押すのをやめることにした。


横に並ぶと、久美が手を握ってくる。少し驚いたがそのまま買い物することにした。




まずはプレゼントかな?


そう思って、アクセサリー店を見てまわる。


先月は久美の浴衣、今月は姉の誕生日でバイト代の大半が飛ぶな…。


リールを買うのがまた一カ月遅れそうだ…。


そんなことを心の中でひとしきり嘆いた後、久美と二人でプレゼントは何がいいだろうかと選ぶことにした。




無難に誕生石でいいかな?


ほんと四月じゃなくて良かったな…。さすがにダイヤモンドは…。


さすがに8月の誕生石までは知らなかったので、店員に聞くことにする。


サードオニキスとペリドットだと答えられたので、その中から探すことにした。




「サードオニキスは愛情を高める効果がありますよ」


店員が聞いてもいないのにそんなことを言ってきた。


愛情を高める…。

これ以上愛情表現が過剰になったらたまらないな…。


「という訳で、ペリドットにしよう」


それに、サードオニキスは民芸品っぽいのと数珠っぽいのしか見当たらないし…。






「ペリドットは不安になった時に明るい気持ちにしてくれる効果がありますよ」


姉が不安になることは果たしてあるのだろうか?


店員の説明を聞きながらそんなことを思っていると、久美がサードオニキスのブローチを薦めてきた。


"姉にはいつまでも明るくいて欲しいんだよ"と適当なことを言って、とりあえずペリドットを買うことを久美には納得してもらう。




結局、今年はやりだというデザインのペリドットのネックレスにすることになり、渡された誕生カードに久美とメッセージを書き入れていく。


久美と手が離れたのを少し残念に思いながら…。




最後に包装紙を選んでいると、店員が何度も同じことを言ってくる。


「金とペリドットは相性がいいですよ。

ネックレスのチェーンを純金に変えると効果倍増ですよ」


しつこいなー。


姉の彼氏にその最高の組み合わせとやらは任せることにしたんだけど…。


丁重に断りを入れながら、姉の好きな黄色の包装紙にすることにした。







プレゼント購入後、食品売り場の1階へ移動することにする。


再度久美が右手を握ってきたので、左手で買い物籠をずっと持つことになってしまった。


手がしびれるのをできるだけ表情に出さないように、自分で自分を励まし食材売り場を回る。


手がだるい…。筋トレしなきゃな…。



こんな理由で筋トレ決意するのは俺くらいかもなと考えて、その日の買い物を終えることにした。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





家に帰ってきてからは、久美が料理を作る様子と釣り雑誌を交互にぼんやり眺めることで時間をつぶした。


「驚かそうか?」


料理が完成したころ、ちょうど姉の帰る時間になったので、そう提案して電気を消して待つことにする。




窓から街灯や近所の家の明かりがさしこむ中、久美と並んで座っていると、久美が再び手をつないできた。


「手を握るの癖なんだね」


「家族だから…」


「家族?」


思わず呟いてしまうと、部屋に飾ってある連治と姉と妹の写真の中の3人が手をつないでいると返答があった。


知識や経験がかなり偏っているな…。



「変ですか?」


かなり変だが…。そんなこと言えないし…。


「変じゃないよ」


そう慌てて答えて、手を強く握り返すことにする。






その時、突然玄関でチャイムが鳴った。


おそらく姉が帰ってきたのだろう。


無視していると、玄関の扉のカギを開ける音がした。




「ただいまー、連ちゃーん、久美ちゃーん、い・と・し・の姉さんが帰ってきたわよー」



さらに無視していると、二人の名前を玄関で呼ぶ姉の声がどんどん涙声になっていく。


少しかわいそうになって予定を変更して玄関まで迎えに行くことにした。




「私は信じてたわ」


そんな意味不明なことを言い二人に抱きついてくる姉に少し辟易して引き剥がす。


姉を料理の載ったテーブルまで案内することにした。




「久美ちゃんありがと」


そう言って久美に頬ずりしているとき、こちらに潤んだ目で非難の眼差しを向けてきた。


「それに比べて連ちゃんは最近意地悪ばかりしてくるんだから」


そんなことを言ってくるので、とりあえず、デパートで買ったばかりのネックレスは久美にあげることにした。




したのだが…。


「ごめんなさい。連ちゃんのことも信じてたわ」


そう言って頬ずりしてくる姉に離れてもらうため、交換条件としてネックレスを渡さざるを得なかった。




その日は姉が満足するまで話につきあってしまい、夏休みの宿題は明日からすることにして、ベットに入って眠ることにした。


そろそろ始めようと思っていたのだが…。


というより、忙しすぎてすっかり忘れていたのだが…。





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