久美はヒーローを救出すべく嫌われ者になる
沈黙の中二人で海から返ってきたあとにシードに報告しようかと思ったが、夜が遅いので明日にしようとと考えて、お風呂に入ることにした。
お風呂から出て、部屋に戻る。
よく考えればシードに睡眠は必要ないのでは?
そう思い直して、通信機を取り出しダイヤルすることにする。
「こちら、ムーンです。今、お時間よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「彼の信頼を失ってしまいました。すいません」
何があったと聞き返してきたシードに経緯を説明することにした。
「そうか。
どうやら、以前に使用していた魅了電波が効きすぎて、恋愛感情に発展してしまっていたようだ」
利きすぎて恋愛感情に?
恋愛感情はそんなに強いものなのだろうか?
もしかすると、家族感情より上なのかも?
シードの返答を疑問に思い聞き返す。
「人間が夫婦になるための前段階に感じる感情だからどちらかといえば下と言えるかな」
夫婦の前段階…。家族の前段階…。
確かにそう考えると、大切な存在であるのは確かかもしれない。
恋愛感情は、そんなに強いものだったのか…。
しかし、それでも家族感情より下のはず…。
「家族より下の存在なのになぜ彼は唯の家族と発言したのでしょうか?」
未だに彼の言葉が電脳中枢から離れず思わず質問する。
「人間の感情は複雑で恋人と家族の優劣はつけれるものではないようだ」
優劣はつけれない? ますます人間の感情が分からない。
「その上、恋は盲目という言葉があるように周りのことが何も見えなくなってしまうことがあるらしいからな。
以前話した精神の狂乱現象は、恋愛感情を異常に高めてしまうようだ」
精神の狂乱現象?
あの魅了電波と認識阻害電波改の干渉で引き起こされる…。
もしかしたら…。
「もしかしたら、私が過去に使用した魅了電波の後遺症で、大切な家族のことを唯の家族と…」
思わず呟いた久美の言葉が聞こえたのか、シードは久美に返事を返した。
「これだけの情報では、魅了電波の影響があるかどうかはまだ分からない。
人間は感情が高ぶると思ってもみないことを口走ることがある。
家族のことを愛していないわけではなく、唯の家族と表現することで、ムーンへの好意の大きさを示したかっただけなのかもしれない」
好意の大きさを示したかっただけ…。
本当にそうだろうか?
それだけで、大切な家族のことを…。
そう告げた後シードはさらに言葉を続けた。
「とはいえ今が山場なのは確かだ。
ムーンの報告から判断すると、まだ嫌われたようではなく少し気まずく思っているだけだと思うが、人間は昨日好きだったものが今日嫌いになることが多々あるからな。
特に、恋愛感情はその変動が激しいから、信頼関係を築くには暫く注意が必要だ」
まだ嫌われていない…。
まだ嫌われていないだろうというシードの発言に喜びを感じた。
しかし、恋愛感情は変動が激しいという言葉をとらえた後、久美の機体が振動がおこり、以前に感じた不安感と同じ現象が発生したことを感知した。
通信機越しのシードは当然それに気付かずさらに話を続けた。
「恋人として付き合うか、妹として付き合うかは、ムーンが決めればいい。
恋人だろうが、兄弟だろうが、認識阻害電波の検証には問題がないからな」
恋人…。兄妹…。
恋愛関係は家族の前段階…。確かにそう言えないこともないかもしれない。
それなら兄の申し出を受けていてもかまわなかったかな…。
そう感じかけていると、恋愛感情は変動しやすいというシードの言葉が何度も電脳中枢を駆け巡る。
今、決断するのは危険な気がする。
現在生じてきたの兄への感情がどちらか分かるまでは、兄妹の関係を維持した方がいいのでは。
との結論が導き出されていた。
そしてそれ以上に、兄が久美の使用した魅了電波のために精神が混乱した可能性が出てきたことに不安を感じ、治療電波を発生させた方がいいのではないかと考え始めていた。
近くにいるものに嫌悪感を抱かせてしまう治療電波を…。
兄に嫌われてしまう治療電波を…。