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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
22/30

久美はゆけむり温泉で疲れをとる

朝食をテーブルの上に並べていると、姉が兄の部屋に駆け込んでいるの光景が目に入った。


「連ちゃん、起きてー、今日から待ちに待った家族水入らずのぶらり温泉家族旅よ」




豆腐とねぎの入ったお味噌汁をつぎ、お箸を並べ終える。

そのとき、ちょうど二人が部屋から出てきて、3人そろっての久しぶりの朝食になった。



温泉にはミネラル分が非常に多く含まれており、美容効果があるらしい。

特に今日泊まる温泉は高いナトリウム塩化物強塩泉で効果も倍増だと姉が話すのを聞いているうちに、車いすでも大丈夫なのだろうかと不安に思い質問してみると、大丈夫だとの答えが返ってきた。


そういう宿をわざわざ探してきたらしい。

お礼を言うと、家族なんだから当たり前でしょうと言って食事を中断し頬ずりをしてきた。




この状況はどうすればいいのだろう…。

そんなことを考えていると、席を立った姉に兄が空になったお茶碗を差し出す。


「おかわりお願い」


そう兄が姉にと伝えると、姉は、すぐ拗ねるんだから連ちゃんはと言って、ご飯をつぎ始める。


兄にそれを手渡して、頬ずりくらいいつでもやってあげるのにと兄に頬ずりを始めた。




兄はため息をついて、姉に提案をする。


「とりあえず早くご飯食べた方が早く行けるのでは?」


「確かに少しでも家族旅行の時間を増やすべきね」


そう納得して、姉ややっと自分の席に戻って行った。



そうだわ3人とも浴衣で行きましょうと大声を出して、いつも以上にうれしそうにしている姉を見ているうちに、次第に久美の心臓の心拍音も軽やかに鳴りだしていることを感知した。




*****************************




ラジオから流れてくる歌とは全く関係のない鼻歌を歌う姉の運転する車に乗って、途中パーキングエリアでアイスを食べ、目的の温泉宿までたどり着いた。


しかし、速く着きすぎてチェックインできなかったので、とりあえず下駄に履き替え、土産物売り場を見た後、近くにある広場で沸いている足湯につかることにする。




「私たち3人が歩いていると3人組の修学旅行生に見えるかしら?」


「引率先生と生徒二人なら見えるんじゃないか」


姉の質問に兄が返答すると、


「連ちゃんは女心がまるでわかってないわ」


そう姉は呟いた後に、温泉卵売り場を見つけて急に駈け出して行った。




兄に押してもらって姉のところまで辿り着く。

すでに4個入りの卵を購入していたようで、卵を二人に渡してきた。


「久美ちゃん余った一個ははんぶんこしましょう。

いじわる言う連ちゃんは一個だけね」


「卵は高カロリーだからあまり食べると太るんじゃないか?」


兄の返答を聞いた姉は、やっぱり連ちゃん2個にしましょうと即座に意見を変えてきた。




しばらく歩いた後足湯を見つけ、足湯のあるベンチまで兄に抱えてもらい、下駄を脱いで3人で卵を食べしばらくつかっていた。


「やっぱり温泉は夏ではなく冬に来るべきだったかしら?」


そうといって浴衣のすそをパタパタする姉に、はしたないよと兄が注意する。


その後、兄は立ちあがり、向かいの売店で冷えて水滴が滴っているラムネとうちわを買ってきてくれた。





ラムネを飲みゆったりと過ごしていると、姉が突然立ち上がる。


「家族旅行といえば使い捨てカメラね。何か足りないと思っていたのよ!」


家族旅行?使い捨てカメラ?


そういうものなのかな?


そんなことを考えていると、下駄をつっかけて向かいの売店に駆け込んで行った姉が、カメラを持って戻って来る。




その後は、チェックインできる時間まで兄と一緒に姉の指示するポーズをとって過ごしていた。


温泉卵にかじりつくポーズが気に入ったらしく、何度も買って食べさせられた。



温泉卵の食べすぎで機体の許容量を超えてしまうのではないか?


途中、そう度々思ったけれど…。


はしゃぐ姉を見ているうちに、もう一つくらいはいけるかも…。


姉が満足するまで、何度もそう思ってしまった。




******************************




「3人とも同じ部屋なのか?」


目的の温泉宿に着いた後にロビーを見て回っていると、チェックインの手続きをしている姉に兄が質問しているのが検出された。


「家族3人居ないと川の字で寝れないじゃない」


家族…。川の字??


姉がそれに返答しているのが観測され、家族という言葉を聞いた瞬間に心臓の高鳴りを感じつつ、川の字とはどういう意味だろうと考えていた。




「まずは温泉ね」


畳の匂いが感知される部屋に着いた後にそういう姉に手を引っ張られ、慌てて車いすをこいで姉に車いすが当たらないように進んでく。


車いすを預け更衣室に着いたのち、姉が笑顔で語りかけてくる。


「二人きりでお風呂に入るのは初めてね」


二人きり?


周りに他の人間がいることは指摘してなならない気がして、そうですねと返答することにした。




視界を閉ざし姉に頭を洗浄してもらっていると、姉の鼻歌を耳で観測しされ、かゆいとこはないかと偶に語りかけてくる姉にすべてを任せていた。

そうこうしているうちにあっという間に時間が過ぎていくのを感じ、風呂を出ることにした。




温泉を出た後に車椅子を回収し売店に寄る。


イチゴ牛乳が最後の一個だったらしく、姉が少し不満そうにコーヒー牛乳とイチゴ牛乳を一つずつ購入することになった。


そんなにイチゴ牛乳は美味しいのだろうか?




「どちらがいい?」


そう聞いてくる姉にイチゴ牛乳を飲んでみたかったが、コーヒー牛乳だと答えることにした。

そう答えた後じっと見つめてくる姉の目を、なぜか見つずけることができず目をそらす。

すると、頬に冷たいイチゴ牛乳をあてられた。


「家族なんだから言いたいこと言ってもいいのよ」


家族…。


そう言われ、無理やりイチゴ牛乳を握らされた後、突然抱きしめらてた。




先ほど使ったシャンプーのにおいが感知され、温泉で上昇した姉の体温が機体を温めているのが観測された。


機体が少し動作不良を起こし心臓の拍動が不規則になる。


手から感じるイチゴ牛乳の温度と姉と接触している部位の温度に差があったからだろうか?


その後、ゆっくりと穏やかな拍動に変化していくのが検出される。




「はい」


そう答えると、その回答に満足したのか久美を開放し、よしと言ってコーヒー牛乳を飲み始めた。





その日は遅くまで二人に話しかける姉を観察していると、いつの間にか眠ってしまっていた。




******************************




翌朝、再度姉と温泉に入り二人でイチゴ牛乳を飲んだ後、チェックアウトの時間まで3人でトランプをして過ごした。


チェックアウトし温泉宿を出た時に姉が突然発言した。


「何かやり残している気がするわ」


「気のせいだろ」


兄が説得を試みたものの失敗に終わり、姉がこちらに話を振った。


「久美ちゃん何かしたいことない?」


したいこと?

家族旅行…。そういえば…。


「3人で写真を撮りませんか?」




「それだわ」


姉は納得の表情を浮かべる。


「よく考えたら、昨日二人しか撮ってなかったのよね」


そういって、通りすがりの人間に昨日購入した使い捨てカメラを渡して3人の写真を撮ってもらう。





久美を真ん中にして、姉の指示で手をつないで旅館を背景に写真を撮ってもらう。


突然喜びと安心感という感情が検出され、指令を下した覚えもないのに機体が勝手に二人の手を強く握りしめてしまっていた。




帰りの車の中は、ずっと旅行の記録について考えていた。


今日の記録も、任務後の記録の上書き時に消されるのだろう…。


シードにこの写真のデータだけは残して貰うように頼んでみようか?


この写真だけなら問題ないかも…。


そんなことを考えながら、兄の釣った魚の話を電脳中枢に記録していた。











2011年 08月 04日

2011年 08月 07日


【お知らせ】

いろいろ改訂しました。

あらすじは変わっていません。



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