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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
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連治は兄さんになる

「ふっふっふっ」


朝から奇妙な笑い声をあげている姉を無視して、レタスにドレッシングをかけていると、久美にプレゼントがあると姉が宣言した。




まあ、あからさまに怪しげなプレゼント包装された大きな箱がテレビの横に在ったので、不気味な微笑みの理由もわかっていたのだが、姉が久美に気付いて欲しいのかチラチラ久美の方を伺っていたので、なんか触れてはいけないような気がして放置していたところ、とうとう耐えきれなくなって、自分から言い出したようだ。



まあ、プレゼント置く位置が悪かったな。

久美の位置からはテレビに隠れて見えないだろうし。

久美も姉の視線を感じて、不思議そうにしてたのだが、久美が聞こうとするたびに不自然に話題を変えていたしな。


「で、今度はどんな車いすなの?」


と、大きさから3台目の車いすだろうと推測して姉に質問する。


この短期間で車いすを二台も買うとは、よほど久美が気に入ったのだろう。

そう思いながら姉の方に向き直すと、なぜあける前からわかるのと涙目になってこちらをじっと見てくる姉の姿を捕らえた。

これは失敗したなと思い、久美に開けてみたらと話を振る。




涙目の姉をオロオロして見ている久美を可愛いなと思いつつ、大きな箱を引きずって食事の机の隣まで待ってくると、再び元気になった姉が、早く早くと久美をせかしていた。


久美がリボンをほどいた後に包装紙を丁寧に開くと、予想通り車いすがプリントされた箱が目に入ってきた。


「で、どんな車いすなの?」


さっきと同じ質問をすると機嫌は完全に直ったらしく、少しの力で動く足こぎ用の車いすで疲れにくく遠出も可能だと、まるで自分が設計でもしたかのように自慢げに話してきた。


「足こぎ?」


義足で大丈夫かと思ったが、片手と片足で大丈夫らしい。

しかも、ステンレス製で錆びにくく海にも行けるそうだ。さすがに海に入ることはできないらしいが。




「明日、釣りに行こうと思ってたんだけど、一緒に行く?」


と久美に尋ねたはずが、


「最初の遠出は三人の思い出作りのために絶対三人でって決めたじゃない」


と姉になぜかした覚えもない約束を持ちだされ反論された。


遠出ではなく近場に海釣りに行くつもりだ、しかも三人の思い出作りの遠出のためにも練習として車いすのならし運転しないといけないし、と何とか説得に成功する。




久美も釣りに興味があったのか了承してくれたので、麦わら帽子を久美に貸してあげるように姉に頼んだ。


その後、車いすで釣りをしていた人を思い出し、車いすでの釣りの注意点を電話で聞いてみたり、二人分の釣り道具を準備したりするのに時間を費やした。

釣りの最中に車いすが動かないようなストッパーは必要だったりと、普段持っていかないものもあったため準備にいつも以上に時間がかかったが、二人でする準備はいつも以上にワクワクしていた。



まあ準備に時間がかかったのは、二人で話していると拗ねて絡んでくる人物がいたのが最大の原因ではあるのだが。




++++++++++++++++++++++




本当は早朝や夕方の方が釣れるのだが、足元が見えないと危険なのと、初めての釣りということで何が起こるか分からないので昼から行くことにした。


「ありがとう。に・にいさん」


どうも今日から久美は、兄さんと呼べるように練習するらしい。


最初に出会った日にそう呼ぶように二人で決めたはずなのだが、それ以降呼んでくれたのは今日が初めてだ。


姉には姉さんと呼んでいたが、あれはそう呼ばないと拗ねて言うこと聞いてくれなくなるから仕方がないって面もある。


少し気恥ずかしい気もするがいずれ慣れてくるだろうと思い、特に気にしていないふりをして、低い段差を越えるために車いすを後ろから押しあげる。




普段通い慣れた道も車いすで通れない場所もあり、目的の堤防まで来るのに思った以上に時間がかかってしまった。


土曜日だったためか予想外に人が多く、車いすでも危なくなさそうなところは全て占拠されていた。

ただ、場所を譲ってくれるおじさんがいたのでいい場所をとることができた。

おそらく久美がいたせいだろう。




餌をつけた釣竿を久美に渡し、最初は一緒に釣竿を手を重ねてもって投げ方を練習していた。

練習中は耳元で感じる久美の息遣いにドキドキしていたが、最初の一匹は二人で釣ることにした。


車いすの脇に中腰でたち、久美の背中から両手を回して一緒に釣竿を握っているのは、姿勢的には疲れるはずなのだが、全然気にならなかった。




最初に二人で釣ったのはサバだった。

浮きがピクリと反応した瞬間の手ごたえから結構大物だと判断し、ゆっくり弱らせてから釣ることにした。

糸を伸ばして、あえて泳がせ、糸をひいたり出したりする。魚が弱って海面に顔を出したところを隣の釣り人に網ですくってもらった。


「ありがとうございます」


久美がそう言った後、おうと照れて座りなおした隣の釣り人に連治もお礼を言う。

それから釣れたサバの口から針をぬいて、サバについてどんな料理ができるかと久美と話した。




そんな感じで、日が暮れる前まで、ゆったりと釣りをしながら、偶に近くの釣り人とも話しつつ、まったりと話をして一日を過ごした。



日が暮れ出して片づけが終わったころには、一日で10人近く携帯アドレスが増えてしまった。やはり女の子がいると声をかけてくる人が増えるらしい。


さすがに久美にアドレスを聞いてきたやつは、俺が丁重にお断りを申し上げておいたが。

油断も隙もないな。


ちなみにそいつからシスコンの愛称を頂いた。




クーラーボックスを持ち上げて帰ることにすると、


「今日はありがとう。兄さん」


と、本日何度目かのお礼を頂いた。最初と違って言い淀むことはなかったが、相変わらず照れくさいのか下を向いていた。


顔が赤いのが、本当に照れているのか、それとも日に焼けただけなのか分からないことだが、照れているということにした方が個人的に嬉しいので勝手に結論を出すことにした。


頭をなでようかと思ったが、よく考えたら魚臭いので、手を伸ばしかけてやめておいた。

さすがに生臭いのは、香水と言うには違和感がありまくるからな。

過去に撫でて気まずくなったことを思い出したのも一因ではあるが。


ほんのり赤くなっている久美と片づけをしている間、どんどん笑顔を見せてくれるようになってきたよなと何度か心の中で呟いた。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++




その日の夕食は大変だった。

何がかというとサバ2匹とアジ5匹だったからだ。


サバは二匹しか釣れなかったため、サバの煮つけだけでなくアジの煮つけも久美が作ってくれたのだが、最初に釣った魚は久美が食べるべきとしてサバを久美の皿に盛りつけておいたのだが、俺が今日一人で最初に釣った魚もサバだったため、久美が俺の皿にもう一匹のサバをよそってしまったのだ。


そうなると必然的に姉の皿には、アジがのることになり、


「ずるい」


と、拗ねてしまったわけだ。




久美がお皿を変えましょうかと提案したのだが、それじゃあ久美ちゃんとおそろいじゃなくなると断られ、そんならと俺のサバと変えようかと提案したのだが、それじゃあ連ちゃんとおそろいじゃなくなると断られた。


「そうだわ」


と、まるですごい名案を思い付いたかのように声を上げ台所に向かった姉に多少の不安を覚えて待っていると、姉がアジの煮つけの入った鍋を持ってきて、俺と久美の皿にアジの煮つけを加えていった。


「これで3人おそろいだわ」


と、満足げにうなずく姿を見てため息をして、俺は大丈夫だけど久美は体小さいのにサバとアジの二匹をいけるかなと久美に視線を移すと、嬉しそうに微笑んでいたのでまあいいかと諦めた。




その後も姉の独演会は続き、


「連ちゃん。女の子をいきなり海へ連れて行くのなら、日焼け止めクリームを用意してあげないといけないわよ」


「連ちゃん。女の子にとって肌はとっても大事なのよ」


などといろいろ言われた後、最後に、


「やっぱり、今度からは私がいるときに行かないといけないわね」


と、予想通りの締めくくりで話を終えていた。


とりあえず姉の独演会を聞いて得られた教訓は、久美を連れて遠出するときは姉には黙っていなければならないこと、そして、魚が人数分ないときはおやじギャグのように魚屋で数をそろえなければならないことという二つだった。




2011年 08月 03日―投稿

2011年 08月 04日―改定―迷惑かけます



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