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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
20/30

久美にとって初めての…

連続投稿

久美は、駅前の喫茶店に呼び出されていた。


「いやいや、よく来てくれたね、ムーン。

実は君にプレゼントがあってね」


こちらに気付いたゴーハがひきつった笑いを見せる。

久美にそう声をかけ、読んでいた新聞を折りたたんで鞄にしまった。




「紅茶でいいかい?

そこの君、彼女に紅茶を。

それから、この椅子どけといてくれ。気が利かないな」


ゴーハが近くにいた店員に紅茶を注文してから、車いすが入れるように椅子をどけるように指示を出す。

彼の口調が慇懃だったためか、店員が少し怒ったように乱暴に椅子を片付けた。


「ありがとうございます」

 

椅子をかたずけてくれた店員にお礼を言った後、紅茶が運ばれるまで待つ。

その間、ゴーハは足を組み直し、紅茶の味にぶつぶつ文句を言って、彼の輝かしい経歴についての話がはじまる。




紅茶が運ばれてきたために彼の話がいったん中断したので、久美は今日呼ばれた理由について尋ねた。


「どういったご用件でしょうか」


「そんなに他人行儀にしなくていいよ。

僕と君の仲なんだからさ」


僕と君の仲?

まだ、3度しか会っていないのだけれど…?


ゴーハのまるで旧知の仲のような発言に違和感を覚える。




「いや、君を見たときに絶対君だと思ったんだよ。

君も僕に対して、何か特別な感情を感じなかった?」


どうもゴーハは人の話を聞かないタイプの人間らしく、久美が言葉を返す前に話を続ける。


「そういえば、シードに聞いたよ。ずいぶん感情が、表情に出るようになったみたいじゃないか?

僕としては、無表情な君もぞくぞくするんだけどね」


ゾクッと一瞬背筋の温度の低下を感知したが、ゴーハの話にそのまま耳をかたむける。





「そうそう。プレゼントというのは、治療電波を開発したんでインストールしてもらおうかなと思ってね」


治療電波?

何のことだろう?


「ほら、この間シードが魅了電波で精神の混乱が起こるって話をしていたはずだけど?」


精神の混乱?

でもあれは…。


「しかしあれは、もう魅了電波を切っているから関係ないのでは?」



「後遺症だよ。

完全に発症しないとは言い切れないからね。

もしターゲットが不自然な行動をとった場合に使用するとおそらく直ると思うよ。

アモールと唱えれば、発信する仕様にしておいたから」


精神の混乱を治す電波…。

ターゲットは今のところ大丈夫そうだけれど…。

念の為に使っておいた方がいいかもしれない。




「だけど、治療電波は、魅了電波とは逆の効果があるからね。

電波を受け取った人間は、近くにいるものに嫌悪の情を感じるから、使うときは慎重にしたほうがいいよ。」


嫌悪???近くにいるものを嫌う??


信頼関係に悪影響があると告げられ、電脳中枢の混乱が再び起こる。




今ターゲットは正常に見える…。


使う必要は今のところないはず…。


不審な行動を取ってからでも治療は間に合うはず…。


ターゲットに変化があるまでは使わないでいた方がいいはず…。


そう自分に何度も言い聞かせるように呟いて、なんとか電脳中枢の混乱を治めることに成功した。




その後、治療電波をインストールし頭痛が治まるまで待っていると、気にせずゴーハは話しかけてきた。



「それとね。今日は治療電波とは別に、君を心配して呼び出したんだよ。

あまりターゲットたちに感情依存しないように忠告したくてね。

その機体は、確かに老化現象も再現するらしいけど、君は死にはしないからね。

初期化をすれば、また、別も場所で新たな生活が始まるわけだ。

その点我々人間の命は短いからね。

どれだけ人間に好意を抱いても、いずれ別れなければならないんだよ」


いずれ別れなければならない…。


にやりとさらに顔をひきつらせ、ゴーハは一瞬話を止める。

久美がびくりと反応したのを満足げに見ると、話を続けた。




「それにもし君がアンドロイドだとばれれば、彼らを処分することになるだろうし、君と彼らが本当の家族として分かりあえることは一生ないだろうね。

それにばれれば、普通の人間は拒否反応を起こすだろうしね」


一生分かりあえない…。確かにそうかもしれない…。


心臓が締め付けられるような感覚を感じ、背中に一滴の滴が垂れるのを感知した。




ゴーハの視線が久美の体を頭からつま先まで舐めまわすようにを這っているのを感じるためか、体温が急激に下がっていくのを感知した。




「それじゃあ、また連絡するよ、ムーン。

僕の言ったことをよく考えることだね。

ああ、ここの代金は僕が払っておくよ」


ゴーハの発言で一口も紅茶を飲んでいないことに気づくが、飲む気も起らず、ゴーハが店を出るまで動くことができなかった。




++++++++++++++++++++




夕飯の買い出しをしなければいけないことを思い出し、久美は喫茶店を出ることにする。

スーパーで買い物をした後、河川敷に沿った道を上流に向かって移動していると、後ろで自転車か停止する音がして、突然声をかけられた。


「久美、買い出しの帰りか?」


自転車を降りて久美の横に並び笑顔をみせるターゲットに何をいえばいいかわからず、とりあえず頷いておく。


「言ってくれれば、買い出しに行くのに」


「いえ、料理は私の役目ですから」


「家族は役割分担するもんだ」


ターゲットはそう言って、買い物袋を久美の膝の上から奪い、自転車の籠に乗せる。


「ありがとう。今度からお願いします」




しばらく会話がなく二人が並行して歩いていると、川沿いということもあり、砂埃を含んだ突風が二人に叩きつけられた。

ざらついた砂が久美の眼に入り、手をとめ、眼をぬぐおうとすると、突然、眼から大量の滴があふれてきた。

それと同時に、彼らとは家族になれないというゴーハの発言が久美の電脳中枢の中で突然再生され、中枢での電算処理が混乱して停止してしまった。


止まって!!止まって!!


眼から流れ出る液体の流出を停止する方法を電脳中の中で検索したが回答は返ってこず、夏にも関わらず急激な体温の低下と機体の震えを彼女が感知した瞬間に、液体の流速がさらに高まった。




電算処理の停止のためか世界の時間の流れがスローモーションの再生のように感じられ、眼からの液体の流出のため視界が閉ざされた瞬間に、機体の手が何かに包まれたのを感じた。


温かい…。


近くで聞こえる息遣いからターゲットが手を握ってくれたことがわかり、機体の震えと体温の低下の速度が少し収まったのを検知した。





「何かあったのか?」


しばらく二人が動かずにいた後、彼が質問をしてきた。

彼の声を聞いた瞬間に再び震えが大きくなり、返事をしようと試みたが、電脳処理が混乱して嗚咽が漏れるだけで、結局ごめんなさいの言葉しか出てこなかった。




「言えないことなのかい?」


ごめんなさい…。


彼の二度目の質問にも答えることができずに震えながら頷くと、彼の手を握り締める力が強くなった後、片方の手を離して背中を撫でてくれ、もう大丈夫だよと耳元で何度も声をかけてきた。


「いつか言える時が来たら、いつでも聞くよ。

家族にも、いや、家族だからこそ言えないこともあるからね。

これだけは覚えておいて、例えどんなことがあっても俺たちは久美の味方だから」


家族…。私の味方…。




背中を撫でてくれているうちに機体の振動が少しずつ収まり、手から伝わる彼の体温のおかげか機体の温度が上昇していくと、電脳中枢の混乱も収まってきた。


「ごめんなさい…。

一人ぼっちになることが、不安になってしまって」


全てを言うことはできないが少しでも彼に対して自分の感じたことを言わないといけないような気がして、言えることのみを告げる。




そうかという彼の呟きを感知した後、久美は機体の背中を再び撫でながら彼の言葉の続きを聞くことのみに電算処理を集中した。


「大丈夫。俺たちは、家族なんだからずっとそばにいるよ」


ずっと傍に…。家族だから…。


彼のはっきりとした声を聞いた久美は、電脳中枢で彼の言葉を何度も再生させると、いつの間にか機体の全ての状態が正常に戻っていることに気付いた。




「ありがとう」


そう彼に告げると、どういたしましてと言って体を離していった。


「じゃあ、帰ろうか」


「はい」




倒れた自転車を立て直し籠から放り出された買い物袋を拾い上げる彼を見て、彼が慌てて手を握りしめてくれたことに気づく。

ごめんなさいと言おうとすると、別にいいよと先に彼から返事が返ってきた。


「困った時は、お互い様だろ。家族なんだから」


そう言って少し赤くなった兄の顔を見て、もう一度、ハイと久美は答えた。






2011年 08月 02日―投稿

2011年 08月 04日―改定―迷惑かけます

2011年 08月 07日―改定―迷惑かけます×2


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