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久美はあからさまに胡散臭い男と話す

【ご注意】この第2話はシリアスです。過度な描写はありませんが、少女が過去に母親に虐待されていたことに言及するシーンがあります。そういったものを全く受け付けない方は、バックをお願いいたします。


中学最後の夏休みのある日。

ゼミ達がガヤガヤ騒ぐ中。

黒田久美は近くにあるスーパーの買い物袋を膝に乗せて公園を車いすで横切っていた。



久美が砂場の近くを通り過ぎようとした時、彼女の前にサッカーボールが転がってくる。

それを精密機械のように器用によけると、彼女の左足が義足であることに気付いた4人の小学生がロボットだと騒ぎ始めた。




ロボットと言う単語を聞いた瞬間、なぜか久美の頭に過去に母親に虐待されたシーンが突然よみがえってくる。


またこの記憶。

なぜいつも思い出されるのだろう?

特に悲しいとも、辛いとも感じないのに。

ただなぜその記憶がよみがえるのか不思議に感じるだけなのに。




未だに騒ぐ小学生の横を通り過ぎ、久美は公園から出ることにする。

公園からでて道路を横切り、その向かいにある孤児院の扉に手をかけた。

ドアノブを回し中に入ろうかというところで、後ろから声をかけられる。


「御嬢さんこんばんは」


御嬢さん?私のことかな?誰だろう?


久美が振りかえると、夏にも拘わらず黒ずくめのスーツを着た怪しい風貌の男が怪しい笑みを浮かべて立っていた。




「あなたは、自分がアンドロイドではないかと疑問に思ったことはありませんか?」


この人はなぜそのことを知ってるのかな?


それは、御嬢さん―黒田久美―が確かにいつも疑問に思っていたことだった。

久美の声はロボットのように無機質であり、動作も不自然で、何より味も匂いも感じることができない。

しかも、感情に乏しく、喜びも悲しみもまったく感じた記憶がない。


長髪の黒髪で真っ白な肌の久美はよくお人形さんのようだと言われるが、それは容姿をほめたというより無表情で作り物のような顔に皮肉をいっていることの方が多い。

顔の部品一つ一つは整っているにもかかわらず表情に変化のないためか、久美の顔はかわいいというよりも奇妙と言う方がしっくりくるらしい。


そのような理由から、自分はロボットなのかもしれないと考えることが度々あった。




「最初はみんなあなたを異常に感じるでしょうが、いつの間にかその違和感を不自然に忘れてしまっている。違いますか?」


なぜこの人はそこまで知ってるのだろう?


男の言うとおりだった。

初対面の人たちは久美に対して疑問に感じるようであるが、しばらくするとその違和感がさも当然のことかのように接するようになる。




「しかし、そんな精巧なアンドロイドが存在するはずはない。」


この人は私のことをどこまでしってるの??


それも、その通りだった。

一度、孤児院の院長に自分はロボットではないかと相談したら、現代にそんな技術はないと苦笑いされてしまった。




「それらの疑問にお答えいたしましょう。

もし、続きを知りたいのであれば、この通信機をお受け取りください。

ボスが直接あなたにお話がしたいそうです」


怪しい…。怪しいのは確かだけれど…。


名もない劇団の大根役者のような大げさでゆったりとした動きで男がポケットから取り出した通信機を久美に向かって差し出してきた。

余りに胡散臭いため最初は躊躇したのだが、なぜか受け取ってしまっていた。




「では、しばらくしたら、ボスから連絡が行くと思いますので」


受け取ってしまった…。大丈夫かな…。


男の不気味な笑みに受け取ったことを少し後悔しかけたが、自分の演技に満足したかのように大股で去っていく男の姿が見えなくなるまで見送ることする。

男が角を曲がって見えなくなった時に夕食の準備があるのを思い出し、久美は慌てて孤児院に戻ることにした。




**********************************




久美は夕食の後に通信機が振動しているのに気付き、急いでトイレに駆け込み通話を開始した。


「始めましての方がいいかな。

製造番号:DQ1987126よ。

私は、シードと呼ばれているアンドロイドだ」


アンドロイド? 確かに人間とは思えない声。抑揚がなく奇妙な声。


その言葉からはじまったシードの声は40代の男の声に聞こえるが無機質で全く人間味を感じることができなかった。

あまりに不気味な声に信用できるかどうか迷ったが、久美はとりあえず話を聞くことにした。




シードの話によれば、どうもこの世界は、未来からタイムトラベルしてきたアンドロイドが人間達に気づかれずに支配しているらしい。


しかも人間に気づかれるたびに何度もタイムトラベルを繰り返し、人間達が同じような歴史歩むように密かにコントロールしていることを伝えられた。




「人間にばれたとき人間とタイムトラベルを使った争いが起きなかったんですか?」


疑問に思ったので質問する。すぐに答えが帰ったきた。


「タイムトラベルは生命を運ぶことができないので人間と争いが起こっても負けることはない」


なるほど。それでは人間はアンドロイドに絶対勝てない。




「では、私もタイムトラベルできるのですか?」


それができれば本当に自分はアンドロイドなのだろう。


その考えは、すぐ否定される。


タイムトラベルの装置を積んだアンドロイドは現在シードだけらしい。

タイムトラベル時は、すべてのアンドロイドからシードに記憶を集める。実質的には、アンドロイドはすべて生き残る。というのがシードの主張だった。

壊れてもバックアップ可能。だから久美も不死との結論らしい。


しかし、完全に人間がいなくなるとアンドロイドが発展しないために影から支配してアンドロイドを研究させているようで、シードによるとアンドロイドは既製品の改良はできるが革新的発明はできないとのことだった。




今までの話に矛盾はないように感じる。


しかし、もし本当に自分がアンドロイドだとすると当然一つの疑問が出てくる。


「私は、何の目的のために今回作られたのでしょうか?」


「あまり慌てるな。順を追って話していこう」


そう告げて、しばらくの静寂が空間を支配したのち、通話機越しに紅茶を啜る音とカチャリというカップを置く音が聞こえてきた。




「そうだな。まず現在の一般的なアンドロイドについて説明しようか。

アンドロイドは、電脳中枢と呼ばれる領域で情報を処理している。その処理を電算処理という」


電脳中枢?電算処理?聞き慣れない言葉が並ぶ。


人間で言うところの脳と思考という意味なのかなと考える。




「そして、アンドロイドは、ナノマシーン細胞と呼ばれる人間の感覚器官を模したもので表面がおおわれていて、この細胞が外界からの情報を取得している。

アンドロイドの機体の中では、電脳中枢とナノマシーン細胞を結び付けられていて、使い込むうちに味覚・嗅覚・触覚・視覚などが模倣できるようになる。

今のところお前は、視覚と聴覚は問題ないようだな」


周りの人間と感覚が違ったのはそのためだったのかもしれない。

味と匂いが感じないのは、私の機体が模倣がまだ完ぺきでないから?

そうなら今まで不可解だったことの説明ができるかも…。


「はい、触覚も問題ありません。しかし味覚と嗅覚はまだ…」


「心配無用だ。少しずつ改善するだろう」




次に、アンドロイドではないと院長に言われたときに提示された一番大きな理由を聞いてみる。


「私はなぜ成長するのでしょうか?」


シードは笑って答えてくれた。


「骨格の自動縮尺変更が装備されているため、成長や老化現象も再現できるようになっている」


人間の中に入り込むアンドロイドにとっては、当たり前の機能らしい。




シードは説明を続ける。


「しかし人間に似てくるというだけで完璧ではなく、当然不自然に感じる人間も出てくる。

それを解消するのが、常にアンドロイドの機体が発信している認識阻害電波だ。

その電波には、人間の脳に直接働きかけ、不自然なことを受け入れてしまう催眠効果のあり、それによって、アンドロイドであることを人間に気づかれずに今までは近づけていたのだが」


認識阻害電波?

それがらるから、私への違和感を皆は不自然に忘れてしまっているのかもしれない。

それがあったから不自然な私を受け入れてくれたのかもしれない。


久美はそう理解した。それなら確かに納得できると。




ただ、今まではという言葉が気になり久美は質問した。


「そう。今までは。

今回が15回目の2010年だと話したな。

前回の14回目の失敗は、認識阻害電波の効かない改造人間が大量に生み出されたことが原因だ。

認識阻害電波は、人間の脳にある視交叉に働きかけるのだが、遺伝的にその形状が通常と異なる人間が存在し、どうも彼らには認識阻害電波が効かなかったらしい。

それだけならともかく、反アンドロイド組織を立ちあげ、視交叉を改造した認識阻害電波の効かない軍隊を秘密裏に作り上げていたのだ」


シードは一息置いた後、話を続けた。


「今回は、反アンドロイド組織が発足しないように慎重に事を進めているのだが、実は4年前にその状況に進展があってね。

人間の協力者の研究により視交叉の形状に変化があっても認識阻害が効く電波が開発されたのだよ」


新しい認識阻害電波も気になったが、協力してくれる人間がいることに少し疑問に思う。

思ったが、報酬さえ貰えば何でもする人間がいてもおかしくないかなと考えを改める。




ただし、人間を信用できるのかと質問した。



「危険ではないのですか?」


「もちろん、家族にも秘密は漏らせない状況にしてはいるがね。

さっきこの通信機を渡したゴーハも人間の協力者の一人だ」


ゴーハ? また、変わった名前。彼は本当に人間だったのかな?


先ほど会った怪しい男も人間だったと知らされる。

その割には動きがおかしかったかもと疑問に思っていると、シードは、そのまま話を続けた。




「少々、話がそれたな。

今回の話の本題なのだが、最新版の認識阻害電波、我々は認識阻害電波改と呼んでいるが、その実験のために認識阻害電波改を組み込んだお前を作製したのだ。

実験と言っても、特定の人間と話をして、認識阻害電波改がうまく働くかどうか観察するだけだがな。

やってはくれんかね?」


今までただ動いていただけの久美にとって、受けても断ってもどちらでもよかった。

ただ、特に迷惑になる頼みでもない気がしたので、了承することにした。




そして何よりもっと気になることを早く質問したかった。


「先ほど、認識阻害電波改が4年前に開発せれたと…」


「その通りだ。おそらく疑問に思っているのは、お前の制作された年とそれが一致しないというところか?」


そう、それが気になった。

久美には4年以上前の記憶が存在している。

あまり人間的には喜ばしい記憶でなないのだけれど。確かに存在はする。

それでは、4年前に開発された認識阻害電波改のために久美が作製されたということとつじつまが合わなくなってしまう。




久美が黙っていると、シードはその疑問に答えを返してくれた。


「お前は、私が3年前に作製したのだよ」


「3年前?」


「そう、お前が孤児院に入る直前だ。

それ以前の情報は、私が植えつけたものだ」


「親に関する情報もでしょうか?」


「当然そうなるな」




久美の孤児院以前の記憶では、父親がおらず母親と二人でアパートに住んでいたことになっていた。

その時の記憶には、学校にも行かせてもらえず、母親に殴りつけられる光景しか残っていなかった。

何度も何度も理不尽に殴られ、何度も何度も理由も分からず暴言を吐かれる光景だった。

今でも、その映像が電脳中枢で時々再生される。


なぜ何も悲しくないのか疑問だったが、それが解けた気がした。


植えつけられた記憶だったから…。


ただそれだけの理由。


アンドロイドだったから…。


たったそれだけの理由。


今までの問題が一気に解決した気がした。


普段なら怪しすぎて絶対信用しない話だろう。

しかし久美にはその話が真実だと感じてしまった。

シードの話が真実であると納得してしまった。


なぜだか久美にもわからなかったが、電脳中枢が信用できると判断を下していた。





ただ新たな疑問が沸き起った。

シードは、なぜそのような情報を植えつけたのか。

シードの答えはあっさりしていた。


「その方が好都合だったったのだよ。

いきなり11歳の子供が発生するのは不自然だから、周りとできるだけ接点のない家庭環境だったということにしておいたんだ。

希望するなら、今回の実験がうまくいったら消してやろう。

ただし、できるだけ人間に違和感を覚えさせたくないので、実験が終わるまでは我慢しておけ。

その代わり、実験後には、お前のためにアンドロイドの家族も作製し、幸せな家族の情報を上書きしておいてやる」


幸せな記憶。仲の良い家族。

アンドロイドでもそれらがあれば感情を得ることができるのか。

疑問に思ったけれど、とりあえずありがとうございますと答えておいた。




まだまだ、シードの話は進んでいく。




「まあ、ようやく準備がある程度整ったので、これからターゲットに接触してもらおうと思う」


「ターゲットですか?」


「ああ、反アンドロイド組織のリーダーの祖先だ。

名前は、轟連治。15歳の男で、戸籍上はお前より一歳上になる。

調査したところすでに通常の認識阻害電波は効きにくい体質らしい」




「どうやって接触すればいいのでしょうか?」


「その点は心配するな。

すでにゴーハがターゲットの姉の轟春香と交流を持っている。

ゴーハが、ターゲットの姉とお前が出会えるようにセッティングするだけで、向こうから接触したがるようになるだろう。

そのためにお前の容姿を4年前に死んだターゲットの双子の妹と瓜二つに作製したのだからな」


「そうですか」


そんなにうまくいくのかな?


そう思いながらシードの話を最後まで聞いた。




「伝え忘れていたが、ゴーハは、現在、三条四郎という名前で生活しているから、普段呼ぶときはそう呼ぶように。

そう言えば、お前のコードネームを決めてなかったな。

よし、ムーンにしておこう。

いつまでもお前では、呼びにくいからな」


ムーン? 月? 女型アンドロイドだからかな?


久美にも変な名前をつけられる。

ただ名前はころころ変わるらしいので、コードネームというものを持つのは仕方がないのかもしれない。




「では、進展があったり、疑問に思ったことがあったら、通信機で連絡するように。

私とゴーハのアドレスは、入っているはずだ」


そう言ってシードは通信を終わらした。


しかし、正直ゴーハには余り会いたくない。

人間にも拘わらず不自然な動きをしているゴーハ。

彼を見ていると自分がアンドロイドであることを嫌でも思い知らされるためかもしれない。


緊急時以外は、シードに報告しようと心に決め、久美は了解しましたと返答した。




通信を切った後、久美はすでに自分はアンドロイドであると確信していた。

電脳中枢でそれが真実であると導き出されていた。



2011年 07月 24日―投稿

2011年 08月 04日―改定―迷惑かけます

2011年 08月 06日―改定―迷惑かけます×2

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