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起動したてのアンドロイド  作者: 葉藻阪 松園
第一章:家族になったアンドロイド
12/30

久美は綿あめの甘さとイカ焼きの匂いを知る


ピピピと鳴り響く時計から発する電子音を検知し、その日も久美は起動を開始する。


久美は夕方からターゲットと夏祭りの約束をしていた。

夏休みの宿題や洗濯。

そういった普段していることは、いつもよりすべて3時間早めて行った。

そして、夕方になるにつれて心臓の拍動が少しずつほんの僅かではあるもののなぜか速度が速まっていることを検知した。




時間が空いて、明日する予定だったことも終わらせる。

それでも、約束の時間の1時間前にすることがなくなって、なぜこんなに急いでしまったのか疑問に感じた。

その答えが見つからずにリビングから外を眺めていると、ターゲットに浴衣をそろそろ着るように言われ、部屋に戻ることにした。


久美が浴衣に着替えて戻ってきたところ、すでに彼も着替え終わっていた。

テレビの天気予報をチェックしていたようで、雨は大丈夫だと久美に伝えられる。




そろそろ時間らしいので、玄関に向かうため彼の横を通り過ぎようとしたときに、ターゲットに帯のゆがみを指摘された。



久美は帯をほどいて松葉づえで立つように指示さる。

どうも昨日彼はカンザシを姉に贈った時に帯の結び方も指導されたらしい。


あまりターゲットに近づきすぎるとアンドロイドとばれるのではないか?

そう考えたものの断る理由が思い浮かばず、彼に言われるがまま行動をすることにした。


器用に浴衣の帯を結び、車いすに座っても苦しくないか確認された後、二人で夏祭りの行われている神社にやっと向かうことになった。




***************************




久美たちが着いたときにはすでに多くの人たちで込みあっていて、ターゲットが周囲の人間に声をかけ、車いすが通れるような間隔を空けてもらって進んでいった。


「まずはイカ焼きだな」


そういって止まったイカの絵の描かれた屋台の前で久美にちょっと待つように伝えた後、すでに並んでいた3人の後ろに並びに行った。




ターゲットがイカ焼きを持ってきてくれる間に、少し鼻に違和感を感じたため、鼻から息を強めに吸い込んでみた。

どうも匂いが検出可能になったらしい。


ナノマシーン細胞も順調に進歩・適合しているのかも…。

そんなことを考えていると、いつの間にかターゲットが戻ってきていたらしく、一本を久美に突き出していた。


お礼を言った後に、それを受け取り、ソースが垂れるのに気を付けて口に含む。

するとソースの味が検知され、味覚も働きだしていることが分かる。


どんどん人間に近づいているらしい。




ふと周りの人たちが町で見かれるよりも大声で話していることに気づく。

もしかしたら夏祭りでは人間が興奮する薬剤を散布しているのではないのか?

そう考えたが、そういった情報は電脳中枢には記載されていなかった。


人間らしく振舞うために声の周波数と強度を上げた方がいいのかな?

そんなことを考えていると、ターゲットが今度は綿あめを買ってきていたようで、それを一つ差し出してきた。

まだ左手にイカ焼きが残っているのだけれど…。


右手の綿あめを口に含み、これが甘いという感覚なのかと電脳中枢に記載する。


そうこうしているうちに、石段の前まで到着した。




ターゲットはどうも石段の上に行きたいらしく、暫く石段と久美を交互に見比べていた。

決断したのか、ターゲットは、焼きそばを売っている人間に車いすを見てもら言うように頼みこみ、久美を両手で抱え上げた。


首にしっかりつかまっているように指示される。

そもまま、彼に抱えられて階段を少しずつ上って行った。途中何回かの休息を挟みつつ。


ターゲットの息が次第に荒くなっていくのを耳元で聞きながら、自分の機体が人間と同じくらいの重量で作られていることに安堵する。


途中、彼に手の温度が冷たいねと言われたときに心拍数が跳ね上がったが、頂上に着くころには正常値に戻って行った。




「ついた―」


石段を登り切り、そう叫んで座りこんだ彼の足の上に乗ったまま、彼の上からのいた方がいいのかと考えていると、オシと呟いた後にもう一度久美を抱えて立ち上がり、ベンチが幾つか設置してある広場に着いた。


ここがターゲットの目的の場所だったらしく祭の様子が一望できる。


ベンチはふさがっていたが、ターゲットが頼み込み少しずれてもらって座る場所を確保してくれた。


ターゲットは汗を拭き、綺麗だろと同意を求めてきた。


疑われないように頷くことにしたけれど、なぜ綺麗と感じるのか理解はできていなかった。

祭りの光の波長を検出しているだけなのに…。




「俺たちの家は、あのへんだ」


そういって笑顔で指をさすターゲット。

まだまだ人間からは程遠いのかもしれない。

彼を観察しながら、アンドロイドであることを思い知らされたように感じていた。

先ほど味覚や嗅覚が成長し少し人間に近づいたと感じていたのだけれど…。




しばらく彼の横顔を眺めることにする。

すると、久美の機体の温度が少し上気していることが検知され、その瞬間に時がとまったように感じられた。


この現象は、なんなのだろうか?

ハート・プログラムの影響で、電脳中枢の電算処理が遅れたのかもしれない。

もしかすると、彼への好意の感情が生じたのかもしれない…。



このままだと、非常に危険な状態になってしまう…。

彼へ依存しすぎてしまう。

何とかしなければ、いけない気がする。



人間に近づくためにハート・プログラムを成長させるのはいい。

けれども、彼への好感度を上昇させすぎないようにしなければいけない。




どうすればいいのかなと考えていると、突然、シードの言葉が電脳中枢で再生され、電脳中枢の電算処理が完全に停止した。


「万が一ばれたとしても、ターゲットを抹消すれば大丈夫だ」


シードの言葉が電脳中枢で何度も再生され、ターゲットに声をかけられるまで、再生を停止させることができなかった。




2011年 07月 29日―投稿

2011年 08月 04日―改定―迷惑かけます

2011年 08月 07日―改定―迷惑かけます×2


【お知らせ】

あらすじが同じな”起動したてのアンドロイドver.2”を投稿はじめました。

そのため、この作品の名前を”起動したてのアンドロイドver.1”に変更しました。混乱したらすいません。


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