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連治は妹を思い出し、主人公のごとく黄昏れる

初投稿です。

よろしく。


[姉ちゃん、タオル持ってきたよ」


それはやたらと蝉のうるさい小学生最後の夏休みだった。

双子の妹の凛音が風邪をひいたので、連治は体をふくためのタオルを持って彼女の部屋に入ると、布団にくるまって少し息の荒い凛音を姉の春香が心配そうに見つめていた。


ずいぶん、ましにはなってるのかな。


一時間前に病院でもらった薬を飲ませたためか、連治の目には凛音は少しづつ回復しているように見える。




連治の渡したタオルで姉は凛音の上半身を拭き、新しい寝間着を着せた後に凛音に話しかけた。


「凛ちゃん、大丈夫?」


「うん」


「じゃあ仕事に戻るから、二人とも留守番頼んだね。

連ちゃんは、凛ちゃんの面倒見ててね。

凛ちゃんがまた辛そうになったら、私に電話かけるか、病院に電話かけるかしてね。

2時間すれば帰ってくるから」


「うん、わかった」


呼び出して、仕事大丈夫だったのかな?


連治たちの両親はすでに1年前に亡くなっていたため、仕事中の姉を電話で呼び出し凛音を病院まで運んでもらったのだが、重要な会議の直前だったらしく姉は意を決したように走っていった。




「ごめんね。今年は、行けそうにないね」


何のことかな…?ああそういえば…。


ぽつりと凛音が呟いたのを聞いて、今日は年に一度の夏祭りだったことを思い出す。

毎年、姉に内緒でお小遣いをためて二人でこっそりお祭りに行っっているのだが、今年も二人で行こうと約束したので、それを謝っているのだろう。



「いいよ、来年もあるし」


ちょっと残念だけど…。


少し残念に感じていたのが凛音に伝わったのか、もう一度、ごめんねと呟く。




しばらく凛音の咳とセミの鳴き声しかしなかったが、突然凛音が俺が一人で祭にいけばいいと提案してきた。


「凛音と一緒じゃなきゃいかない」


と返事したのだが、一度言い出したら聞かないのは姉に似ていて、連治が夏祭りに行くまで言い続けることは予測できた。




「約束のイカ焼きと綿あめ買ってきて」


約束…?


そんな約束したかなと考えていると、もしかして忘れてるのかと尋ねてきた。


真っ赤な顔でじっと見てくる凛音から慌てて目をそらした場所に魚拓が飾ってあるのが目に入る。

去年のお正月に書き初めの宿題をしている最中に暇になってついでに作製したやつだ。

前日に連治と凛音が一緒に釣った魚の魚拓で、凛音がはじめて釣ったのを喜んでいたのを思い出し、知り合いのおじさんに教わった魚拓を試してみたものだ。


それを見た瞬間、そういえば去年は釣竿を買ってもらうために一年間お小遣いなしだったことを思い出す。




「もちろん。覚えてるよ。

去年は、凛音におごってもらったから、今年は僕が凛音におごる番だよね」


その言葉を聞いた瞬間満足げにうなづく凛音を見て、ため息が出そうなのを我慢した。


「じゃあ、すぐ帰ってくるから。無理しちゃだめだよ」


「うん」




急いで机の中をひっかきまわし、見つけた青色の貯金箱から全財産を財布の中に詰め直した後、全力でジンジン五月蝿いセミの声のする外に駆け出していく。




***************************




連治はハッと気づくと時計は夜の11時を示していた。


いつの間にか眠っていたらしい。


夏休みに入ってから毎日バイトを入れていて、疲れがたまったのだろうか。


今年高校生になったので始めた中華料理屋のバイトが先ほどまであり、一日中暑い厨房と冷えた客席を行ったり来たりしていたのだ。


姉が働いているのでそこまでバイトをする必要はないのだが、欲しい釣道具があるので店長に頼んで毎日仕事を入れてもらっていた。


暇になると昔のことを思い出してしまうので無意識に理由を作って忙しくしていただけかもしれない。

そんな考えがふと頭を過った。




今日みたいな蒸し暑くセミがうるさい夏の夜になると、4年前の凛音の最後の日の夢をよく見てしまう。


あの後、連治が帰ってきたときには、凛音が苦しそうに喘いでいた。


急いで救急車を呼んだのだが結局間に合わなかった。



姉とはあの日の話をすることはほとんどなく、1年後になぜ姉は責めないのかと理不尽にあたってしまったが、今ではこの夢を見てもイライラすることは少なくなった。


なぜあの時凛音が嫌がってもずっと傍にいなかったのかと何度後悔したか数えきれない。


ただ、少しずつ吹っ切れてきたのかなと最近では思えるようになっている。


散々迷惑掛けた姉にも感謝しなければならない。




「ただいまー、連ちゃーん、い・と・し・の姉さんが帰ってきたわよー」


姉の声が玄関から響いてきて、思考がそこで一瞬停止した。


とりあえず感謝の前に、今年で28になるはずの、い・い・と・し・の馬鹿姉にご近所迷惑と世間体という言葉を教えなければいけないらしい。







2011年 07月 24日―プロローグ投稿

2011年 07月 26日―プロローグ改変―迷惑掛けます

2011年 07月 29日―プロローグ改変―迷惑掛けます×2

2011年 08月 04日―プロローグ改変―迷惑掛けます×3

2011年 08月 06日―プロローグ改変―迷惑かけます×4




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