PIECE MAKER 戦記~パズルの欠片~
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
街道。本来は商人などが国と国とを渡り歩く為に作られたその道だが今は商人ではなく、血に染まった三人の人間が走っていた。その服は鎧で武装していて所々がどす黒い血で汚れている。その三人は必死な顔で街道を歩いていたが不意にその内の一人が倒れた。その背中には矢が刺さっている。
「いたぞ!?こっちだっ!」
「っつ!?エンペラーマインド!」
後ろから声が聞こえると兵士の一人はその方向に向かって問答無用で最上級魔術を放った。後ろの声が爆音と共にかき消される。魔術を放った兵士は倒れた兵士に駆け寄った。
「大丈夫!?」
「ぐあっ…隊長…すみません…私を置いてどうか先へ…」
「ふざけるなっ。引きずってでもつれていくぞ!」
「隊長っ!?っつ!!」
三人目の兵士が隊長の前に立ちふさがったかと思うとすぐにその体は崩れた。胸には数本の矢が刺さり、隊長が駆け寄った時にはすでに兵士の命はこと切れていた。そして周りを武装した兵士十数人…いや数十人に囲まれた。その肩にはともしびを模した炎をエンブレムが煌めいている。それは隣国のバーナステージ国の国章のものだった。
「全く手間をかけさせてくれましたね。スズ・シスフォー隊長。」
「ルイ、貴様・・・」
バーナステージ国の兵士の中から一際目立った男、ルイがスズと呼ばれた隊長と対峙する。
「私たちをハメましたね…?」
「別にハメちゃあいないさ。これは前々から決定していた我が国の意思さ。」
「和平交渉と称して我々を呼び出して侵略することがですか?」
スズの顔は怒りに満ちていた。すでにスズ以外の部隊は壊滅した。唯一生き残っていた二人もさっきこの目の前にいる敵兵士達によって殺された。怒りに満ちるのは当然だろう。
「我々としては危険な芽は早めに潰すのに限るのですよ・・・でわお喋りはこのくらいにして、グッバイミセス・スズ。永久に良い夢を…」
[無念です・・・]
スズは目をつぶる。しかし次の瞬間バーナステージ国の兵士が一瞬で吹き飛んだ。ルイは現状を把握できずにスズへの攻撃を一旦中止する。
「どうしたっ!?」
「分かりません。突然後方から攻撃を受けました!?」
「馬鹿なッ…後方は我々が占領したはずだぞ!?」
それから矢や魔術がバーナステージ国の兵士へと降り注ぐ。ルイ達は一転して混乱状態に陥った。その混乱の最中に十字型の大剣を背負った一人の筋肉質の男がスズへと近付く。
「今の内に逃げましょう。」
「あなたは・・・?」
「私はあなた達を助けに来た者です。さっ、今のうちに…」
「きゃっ!?」
筋肉質の男はスズを軽々と持ち上げるとすぐにその場を去った。そしてその場には攻撃を受けているバーナステージ国の兵士だけが残った。
「くそぅっあと少しで…全員撤退するぞ!」
そしてスズが逃げた?のを見たルイは苦々しげに呟きながらその場を急いで離脱したのだった。
「いや~危ない所でしたねぇ。」
「あの…そろそろ降ろしてほしいんですが…」
「おっと失礼。」
あの場から逃げた後、男は笑いながらスズをその場に降ろす。スズ達が今いる場所はPIECE MAKER国。最近勢力を広げてきた国である。
「あなたは…「任務は完了しましたか~?」」
スズが男の正体を聞こうとするとまた違う大きな声にかき消された。男はそれに反応して後ろを向く。スズもそっちの方を見ると若い金髪の男が笑顔でこちらに走ってきた。
「あぁウィデン隊長。任務完了しました。」
「ダンさんナイスです。スズさんご無事で何よりです。」
「ウィデン隊長、心配をおかけしました。」
スズはこっちに歩いてきた若い男に向かって礼をする。この金髪の男はウィデン・ブルー。国の部隊の一つであり、国の主力の一つでもある部隊。無限の軌道の隊長である。
「ウィデン隊長がこの人を送ってくれたんですね。」
「えぇバツさんがスズさんを見つけたという報告をされたものですから。スズさんなら大丈夫だとは思いましたが一応自分の部隊からこの人を送らせていただきました。」
そう言ってウィデンはダンの肩を叩く。そういえばお礼をしていなかった…
「ダンさんありがとうございます。おかげで助かりました。私、スズ・シスフォーって言います。これからよろしくお願いします。」
「自分は無限の軌道部隊副隊長をしていますハテナ・ダンと申します。スズさんにお礼を言われるなんて恐縮です。」
「いえいえ私なんて普通の一般兵士ですので…」
「何を言いますか。旋律を奏でる楽器者のスズさんといえば知らない人はいませんよ。」
その言葉を聞いた瞬間私は目を見開いた。どうしてこの男が私の過去を・・・?
「ダン、失礼な事を言うな。スズさんに謝れ。」
「これは失礼しました。自分は少し考古学に興味がありまして特に戦争をメインに調べているのですよ。」
なるほど考古学者…それで私の過去を…
「ご安心を、これは私の趣味ですので誰にも喋ったりしませんよ。でわ・・・」
ダンは変わらない笑顔でその場から去っていった。なにかよく分からない人だな…
「すみませんねぇ。ダンも悪気があるわけじゃないんですよ。」
「分かっています。それより今すぐ国王様とお話できませんか?早急に耳に入れたい事があるんです。」
「ですよね。和平交渉に行ったはずのスズさんの部隊が壊滅なんてそう考えても穏やかな話じゃないです。すぐに王の間へ行きましょう。」
そしてスズとウェデンはすぐに移動を開始した。ウェデンは一つの扉の前へ足を止めると二、三回ドアをノックした。
「どうぞ。」
「国王様、入ります。」
スズが部屋に入るとそこには青い髪の三十代くらいだろうか?若い男が椅子に座っていた。体は細いその鍛え抜かれた体に威厳とただものではないという雰囲気がある事をハッキリと感じた。男が口を開く。すると・・・
「スズさん久しぶりですねぇ~!待ってくださいねぇ今お茶と菓子を出しますから。」
男は笑顔になるとそこらへんにいる子供のような軽い口調で話しだした。相変わらずこの人は・・・
この人のこんな姿を見るたびにスズは頭を抱えたくなった。威厳はあるのにそれが性格と結び付かなさすぎるのだ、この人は・・・
「どうしましたか~?疲れたような顔してますねぇ・・・?」
「あなたのせいですっ!」
そう、この男がPIECE MAKER国の建国者であり、また現国王でもあるハマー・ガンスである。
「ハマー様、今はそんな暇はありません。お話を聞いてください。」
「そんな急かさなくても時間はたっぷりありますよ。」
「バーナステージ国が我が国に宣戦布告してきました。」
お茶を入れるハマーの動きがピタッと止まる。そしてまた同じようにお茶を入れだした。だが明らかに先ほどまでと雰囲気が違うのがスズにはよく分かった。
「数は?」
「およそ二万から三万ほどで練度も高いです。どうやら前々から我が国に侵略する準備をしていたようです。」
「現在どこまで進軍している?」
「すでに国境を超えて我が国の領土に侵入しています。すでにいくつかの街が占拠されました。」
「…分かった。これから会議を開く。後は集められる兵力をかき集めて戦いの用意を。」
「了解しました。」
話は終わったといったようにハマーは椅子に座ったままお茶を飲む。それを確認したスズは静かに部屋を去った。
「モタモタするな!急げ急げ!」
「この武器はどの部隊のだ!?」
「お前それはオレの飯だっつの!」
国から緊急警戒態勢が発令してからPIECE MAKER要塞の中は一気に騒がしくなった。各々の部隊の兵士が戦いの準備をし、かつ隊長や将軍達が一斉に会議室へと呼び出される。
「何か大事になってますねぇ。」
「仕方ないですよ。敵の大軍がこっちに向かってきてるっていうんですから。」
そう言いながらウェデンとダンも会議室へと向かう。会議室にはすでに国王であるハマーを始め魔術部隊を率いている将軍であるヒバリ・ピーチ、歩兵部隊を率いているツキカゲ・ハナ、そしてトリ・ハンゾウやスイ・グランマールなどPIECE MAKER国を率いる者達がすでに集合していた。その中にはスズの姿もあった。ハマーは全員が来たことを確認すると口を開く。
「全員揃いましたね?でわ会議を始めます。みなさんも知っての通りバーナステージ国が我が国に宣戦布告をしてきました。現在の状況をカデル・シュルーム軍師から説明していただきます。」
「了解しました。」
そう言ってハマーの代わりにカデルと呼ばれた白髪のローブをまとった若い男が会議の先頭に立った。彼は頭が切れ、PIECE MAKER国の軍師を育成する部隊のトップに立っている有能な将軍だ。
性格は自分にも人にも厳しく敵になる者には容赦しない厳格な将軍でも知られている。なんでも昔は大国の司令官をしておりほぼ狂いもない戦争計画と指揮、与えられた任務を確実にこなし必要とあれば自分が前線に出て圧倒的な力で敵を倒す。戦略と戦闘を両方こなす事から戦神カデルという異名で各国を恐れさせていた事もあるらしい。
「・・・って何であなたが横にいるんですか。」
「失礼。いえ何か説明をしなきゃいけないような気がしたので。」
私は横にいるダンさんをジト目で見た。さっきまで入り口付近の椅子に座っていたのにいつの間に私の近くに来たのだろう・・・
「そこ、会議中だぞ。静かにしろ。」
「「すいません。」」
カデルに注意されて二人は黙る。ダンさんのせいで怒られた・・・
「では話を続ける。知っての通りバーナステージ国が我が国に宣戦布告してきた。それと同時にほぼ奇襲に近い形で国境上の街を占拠、その後我々の本拠地であるこの要塞に向かっている。今回の作戦は要塞でバーナステージ軍を要塞守備真ん中まで誘い込み、後ろと前から挟み撃ちにする。以上何か意見のあるやつはいるか?」
「誘い出すってどうやってですか?」
一人の黒髪の男が手をあげた。彼の名前はラク・アマイという最近PIECE MAKER国に士官し、小隊長まで上り詰めた有能な戦士だ。そのラクの質問にカデルが答える。
「まず第一と第二の城門を開けて敵を誘い込みます。そして敵が第二城門まで中に入ってきた所で第一城門を閉めて後ろに回り込み、挟み撃ちします。」
「それは危険すぎやしませんか?」
そう口にしたのはカデルの近くに座っていた副軍師のキリト・オマールだ。確かに…とスズも思った。要塞の構造としては第一~三城門までありそこを通った先に今自分たちがいる本城がある。この三つの城門は本城を守るいわゆる防衛の要ともいえる存在である。その内の二つを開けるは危険すぎるのではないのだろうか?
「確かにそうですがこれが一番余計な被害を出さなくてすみます。それにただ誘い込むだけではなく敵の兵力を削りながら撤退し、敵の疲労を誘います。それにラブパレードの守備を任していたフィズ・グレース将軍に援軍を頼みましたからリスクは減るでしょう。」
「・・・了解しました。」
キリトは少し納得しかねるような表情だがそう言って席に座る。そしてこの後は質問はないまま会議は終わった。
「しかしカデルさんも大胆な作戦とりますねぇ。」
「でも効率が良いのは確かです。」
「副隊長…ちょっと良いですか?」
会議が終わり、数日が経った。いよいよバーナステージ国との迫って城内が忙しくなっている。かく言うダンとスズも挟み撃ちをするまでの時間稼ぎをする任を受けて準備を進めていた。二人が話していると体を黒の鎧で覆ったダンより少し若い男が話しかけてきた。
「知り合いですか?」
「えぇこの方は無限の軌道部隊の隊員のバツ・シッコクさんです。」
「バツと言います。この部隊で主に夜戦や隠密作戦を専門に活動しています。」
どうぞよろしくとバツがスズに握手をもとめる。無限の軌道部隊の人は隊長以外変な人が多いなぁと思いながらもスズは笑顔でその手を握った。
「それで何か用があるんじゃないのか?」
「あぁそうでした。用というのは「敵襲だーーーっ!?」…遅かったようですね。」
「行きますよっ!」
三人が城壁の前に来るとすでに第一城壁は破られ、味方の兵士と武装した敵との乱戦になっていた。ダンはすかさず背中にある大剣を手に持って近くの敵に切りつけた。
「ぎぁっ!?」
「このともしびのエンブレム…バーナステージ国の兵士だな。」
「そんな…攻撃は二日後のハズ!?」
「どうやら少し相手が上手だったようですね。」
ダンと同じように近くの敵を切り伏せながらバツが会話に入る。
「どういう事ですか!?」
「やつらの後方にいる軍隊は囮です。どうやら練度の高い少数精鋭で隠密に進軍していたみたいです。」
「やっぱりな…油断するなよ?こいつら並の兵士より強いぞ。」
味方の兵士は突然の戦闘に入ってしまったせいで準備ができていないまま苦戦を強いられていた。スズは周りを見渡すとある一点に目がいった。それは一人の少年兵士に敵兵が剣を振りおろそうとしている所だった。
スズは持っていた剣を投げた。その剣はまっすぐに進み、その敵兵士へと刺さった。そして駆け足で尻もちをついていた兵士の元へと向かう。
「大丈夫?」
「えっ…あっ…?」
その兵士は何が起きたかわからないようだ。まぁいきなり敵が倒れたのだから仕方ないといえば仕方ないが・・・ようやくその兵士は状況を理解できたのか急いで立ち上がった。
「その…ありがとうございます!」
「油断は禁物ですよ。敵はまだいるのですから。」
「はいっ!あの・・・できればお名前を…」
「私ですか?スズ・シスフォーですよ。」
「スズ大臣!?じ、自分はスイ・グランマールと言います。会えて光栄です!」
スイと呼ばれた少年兵士は真っ赤な顔で敬礼した。言い忘れていたが私はPIECE MAKER国で大臣という役職についている。別になりたくてなったわけではないのだがまぁなりゆきでなってしまったのだ。
「そんな、私はそんな敬礼されるような大層な人ではありませんよ。」
「いえ、スズ・シスフォーさんといえばこの国では知らないぐらい有名ですから。」
「のんびりと会話している暇はないぞ!作戦通り第二城門まで撤退する。」
スイさんと会話していると後ろからダンさんが大声で怒鳴った。見るとまわりの味方は敵と剣を交わしながらも次々と第二城門へと入っていっていた。
「スイさん私たちもいきましょう。」
「了解っ!」
その頃のカデルやキリト達軍師組も指揮を執りながら本城内を走り回っていた。指揮所の中心には国王であるハマーが立っている。
「現在の状況は?」
「はっ、最初は予想外に早い攻撃で混乱していましたが現在は作戦通り第二城壁まで撤退。そこで戦闘が行われています。」
「ラブパレードにいるフィズ将軍は後どれぐらいで到着する?」
「現在の距離から考えますと遅くとも後二時間といった所です。」
「よしフィズが到着するまで持ちこたえるぞ!」
「「「はっ!」」」
命令を伝えにいった兵士たちが部屋を出ると部屋にはカデルとキリトだけが残った。カデルは息を吐いて近くの椅子へと座る。
「作戦通りにきてますね。」
「あぁ、後一息だ。」
「後一息、ねぇ…まぁ確かにあなた達が死ねば終わりですが。」
「誰だ!?」
いつの間にか金髪の少年が部屋に入ってきた。キリトはそれに気付いて剣を抜く。
「バーナステージ国三番隊隊長、サボ・スリーと言えば分かりますか?」
「バーナステージ国の者か!」
「三番隊…確か暗殺と奇襲専門の部隊だったか?」
「ご名答!さすが戦神とよばれたカデルさん。いや…元スター連合総司令官のカデシュ・スターと言った方が正しいかな?」
「御託は良い。用件があるんだろう?」
「そうですねぇ…」
サボは少し考えるように手を顎に当てた。キリトはいつ攻撃が来ても良いように武器を構える。
「用件はですねぇ…死んでくれませんか?」
そう言うとサボは炎を模した剣で切りかかってきた。カデルではなくキリトに向かって。
「なっ!?」
「遅いですよ。」
「キリトっ!」
サボの剣がキリト…ではなくキリトを庇ったカデルに刺さった。腹から出る大量の血が床を濡らす。それと同時に異変に気付いたのであろう味方の兵士達が部屋に入ってきた。
「カデル将軍!?」
「将軍どうしましたか!?」
「チッ…少し時間をかけすぎましたか。まぁカデルに深手を負わしただけよしとしましょう。」
サボはそう呟くと窓から身を投げて飛び出した。味方が窓をのぞくがすでにその姿は見えなくなっていた。キリトは腹から血を流して倒れたカデルに駆け寄る。
「将軍、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ…それより今から命令を下す。負傷したオレの代わりにキリト…お前が指揮を執れ。」
「オレがっ!?そんなの無理です。」
「やれるさ。お前はこの国の軍師なのだから・・・」
「この出血量は危険です。早く医務室に!」
カデルは両脇を兵士に抱えられて部屋を出ていく。そして後には血にまみれた姿のキリトだけが残った。
「軍師…私が…?この国の?」
キリトは数分間その場を動かなかったがやがて顔をあげて部屋を飛び出した。その瞳にはさっきまでにはなかった強い力が宿っていた。
「ハンゾウ部隊は右へ、ソープ部隊は城門付近の味方を援護てください。」
「スズ将軍、もう第三城門が持ちません!?」
「頑張ってください。すぐに援軍がきますから!」
「といってもそろそろ本気できついぞ!第一城門に向かうはずの部隊は何してんだ!?」
近くの敵を切り捨てたダンがスズに向かって叫ぶ。確かに遅すぎる…何かあったのだろうか?
そう考えていたせいか後ろから敵兵が来ている事にスズは気付かなかった。
「スズさん危ないっ!?」
「っつ・・・くっ!?」
避け…間に合わない!?スズは思わず目をつむった。しかしいつまでたっても痛みはこなかった。アレ・・・?
「どうにか間に合いましたね。」
目の前には先ほど助けたスイが立っていた。彼の足もとには先ほど私を斬ろうとした敵兵士が倒れている。
「ありがとうございます。今度は私が助けられてしまいましたね。」
「いえいえお互い様です。」
「スズ将軍、ご無事で!ここはもう無理です。撤退しましょう!?」
伝令役の兵士がスズの姿を見て叫ぶ。確かにいくらなんでも遅すぎる。これでは持たない。スズが撤退を宣言しようとしたその時、城門の前に群がっていた敵兵がいきなり吹っ飛んだ。その光景に敵味方共に一瞬動きが止まった。
「ハハハハッ国王様参上!」
青い髪に細く、それでも鍛え抜かれた体に満面の笑顔。そして手には黒い刀。PIECE MAKER国の国王ハマー・ガンスその人が城を飛び出して戦いの最前線に出ていた。スズは国王が出てきた当初はポカンとしたがすぐに復活してハマーの元へと駆け寄った。
「国王様何でこんな所にっ!?危険です。本城へお戻りください!」
「大丈夫ですよ。それに…国民が戦っているのに国王が戦わない訳にはいかないでしょう。」
最後の言葉を言った後、ハマーの目が変わった。その目はさっきまでの笑った目から戦士の目となっていた。ハマーに敵兵が押し寄せる。
「PIECE MAKER国国王、ハマー・ガンス…参ります。」
ハマーは手に持つ妖刀ムラマサを構えるとハマーに押し寄せた敵兵十数人が一瞬で地べたに顔をつかせた。そして城門前から動かずただひたすらに向かってくる敵を叩きのめす。
「すごい…」
「さすがですね・・・」
昔どこぞの偉い武将が動かざる事山の如く、攻撃すること火の如くと言ったらしいが今のハマーはまさにそれである。
「援軍だっ!フィズ将軍が戻ってきたぞ。」
「好機だ。全部隊敵を押し返せっ!」
外を見るとハートが描かれた軍旗が高々と上がっていた。それを見た味方の指揮が一気に上がる。逆にバーナステージ国の兵士はいきなり現れて鬼人のごとく強さを見せた国王と援軍の存在によって浮足立ちつつあった。
「遅れてすみません。敵のファルコン将軍を破るのに手間取りまして…」
城門から赤い髪の四十代くらいの男が城門から入ってきた。その後ろには茶髪の青年がついてきている。
「クッパっ、お前は敵の掃討を頼む。一人も逃すなよ。」
「了解しましたフィズ将軍、いきますよ!」
クッパと呼ばれた茶髪の青年は赤髪の男に言われて後ろの兵士を連れて戦闘へと加わった。スズはその赤髪の男へと話しかける。
「フィズ将軍助かりました。」
「いえいえ間に合ってよかったです。」
今や戦況は逆転していた。バーナステージ国の兵士はすでに戦意を喪失しており次々と城門付近から撤退している。そしてその後ろを味方の兵士が追いかけていた。追われる側が今度は追いかける側になったのだ。そしてスズはその中で戦い続ける見覚えのある敵を発見した。
「くそっ…せめて国王だけでも…」
「何がせめてなのですか?」
その敵兵…ルイはスズの姿を見て目を見開いた。その後に憤怒の表情を浮かべる。
「貴様…」
「お久しぶりです。あの時は世話になりましたね。」
「ぬかせっ!」
ルイはスズを見るなり剣を振りかざした。スズはそれをサッと避けると隙だらけのルイの背中に魔法をくらわせる。
「エンペラーマインド。」
「ぐぁっ!?・・・無念…」
「これで止め…っ魔法!?」
ルイが倒れる。止めを刺そうとしたスズに上から魔法が降り注いだ。敵兵士を追撃していた味方の何人かがそれに巻き込まれて吹き飛ばされる。
「すみませんが私の仲間を殺させるわけにはいきません。」
「これはこれは…バーナステージ国のトップがお見えですか。」
「バード・エンプレス・・・」
そこには雄々しき姿のツインテールの美しい女性がいた。手には死神が持つような大きな鎌を持っている。それをみたダンが感心したように言い、スズが女性の名を苦々しげに呟いた。
バード・エンプレス。
バードステージ国を作った張本人であり、また座長と呼ばれた国のトップでもある女性。その美貌もさることながら侮ることなかれ、その政治手腕は高く鳥王の異名を持つ実力者でもある。
「まさかあなたが出てくるなんて…ちょうど良いです。ここで討ちとってあげます。」
「あなたにそれができるかしらね?エンペラーマインド!」
バードは高くジャンプするとスズ達に向かって魔法を放った。スズ達は即座に散開する。するとフィズの前に一人の女性が現れた。
「久しぶりね…フィズ。」
「ドリムさんですか。まさか伝説の戦士までいるとは…」
ドリム・バムーン。数ある戦士の中で伝説と呼ばれる最強の戦士の一人であり、またフィズやカデルと幾度も激戦を繰り広げた猛者である。そこに城門から腹に包帯を巻いたカデルが出てきた。
「私を忘れてもらっては困るな。」
「あらカデル、サボに致命傷を負わされたって聞いたけど?」
「こんな怪我ぐらい朝飯前ですよ。」
「ふ~ん…その割には辛そうだけどね。」
そしてカデルとフィズVSドリム。そしてその先ではダンとスズVSバードの戦いが始まった。戦いは最初は互角だったが次第に怪我をしたカデル達が劣勢になっていた。それはスズ達の方も同じだった。
「ほらほらっどうしたの?そんなんじゃあ私には勝てないわよ!」
「強い…さすが鳥王って所かしら。」
「さすがにこの力の差は予想外ですね・・・」
ダンとスズは肩で息をしながら鳥のように動き回るバードの攻撃を防ぐ。ふと横を見ると女王の奮起に感化されたのかそれとも後がないと感じたのか城門を突破しようと決死の攻撃をかけてきていた。こうして戦いは守る側と攻める側、両軍入り乱れての総力戦となった。
「全員城門を超えさせるなっ!?何としてもここで食い止めろっ!」
「ここを突破すれば我々の勝利だ。全員続けっ!」
戦闘からすでに四時間が経過した。金属と金属がぶつかって甲高い音がいくつもおこる。それと同時に怒声と悲鳴がPIECE MAKER要塞を支配した。まわりをスイを始め、アマ、PIECE MAKER国の傭兵部隊を率いているセシル・キャンベル、そして先ほど応援にきたクッパに歴戦の猛者であるウィデンでさえ体を返り血に染め、顔から疲労が滲み出ていた。バードと戦っていたスズとダンも疲れから段々とバードの攻撃を避けれなくなってきていた。
「そろそろ諦めたらどうかしら?」
「ここで負けたら全てが終わりです!」
「同感ですね。」
「なら終わらせてあげるわっ!」
バードは業を煮やしたのか一気に決めようと手に魔力を集めた。そこをスズは見逃さなかった。スズはダンの耳元に顔をよせる。
「ダンさん、少し耳を貸してください。」
「何か策があるんですか?」
「実はですね・・・」
「・・・了解しました。上官の命令ですしね。」
スズの策にダンは険しい顔をした。当然だろう、私のこの策はいわば賭けのようなものなのだから・・・
だがダンは険しい顔をした後笑顔でその策を了承した。
「ありがとうございます。でも死んだらダメですよ?」
「無茶な事を…必ず成功させてくださいね。」
「当たり前です。」
「いまさら作戦なんて立てても無駄よ。エンペラーマインド!」
「バツ、セシルっ!」
ダンが近くにいたセシルとバツを呼んだ。二人はこちらに振り向くとダンが何をするか理解したのか目で頷いた。最上級魔法がスズに迫る。その前をセシルが立ちはだかった。
「ウグァッ!」
爆音と共にセシルが魔法を受けてスズの横を吹き飛んでいく。その影からバツが槍を前に出した。
「甘いのよっ!」
「チィッ、ガッ!?」
そのバツの槍をバードは剣で受け流すと回し蹴りで後ろに蹴り飛ばした。そしてその隙にダンが金色の大剣を掲げて前に進む。
「同じ手が通用すると思わないで。ブレイクハートっ!」
「グッ…ウオオォォオォオッ!!」
「なっ!?」
ダンはバードの魔法を金色の大剣で弾き、なおも前へと進む。さすがの彼女もこれを見て初めて驚愕の瞳を見せた。
レクイエム。
ある一人の男が持っていた事で有名になった持つ者の魔力耐性を高める伝説ともいえる金色の魔剣。まさかとは思ったが本物とは…だがこれで活路は見出せた。
「水術っ。」
「舐めるなぁっ!」
ダンが至近距離で水の術を発動する。しかしそこはさすが国のトップ、その水の塊をギリギリで剣で切り裂くと空いた手でダンの顔面を思い切り殴った。その後はダンの肩を使って思い切り高くジャンプする。
「ハハハッどうせまたその男に隠れてから攻撃するんでしょっ?そんなの見飽き・・・た・・・」
「どこを見ているんですか?」
バードが下を見るとそこには先ほど自分が殴ったダンしかいなかった。そして上を向く。そこには下にいるはずのスズが笑顔でこぶしを握り締めながら自分の上にいた。
「そんな…」
「落ちろ。」
スズはそのまま思い切りこぶしでバードの頬を殴った。バードはパンチの威力と重力にしたがって地面に叩き付けられた。
「座長っ!?」
「隙ありっ!エンペラーマインドッ!」
バードが地面に叩きつけられた瞬間今まで隙を見せなかったドリムにも隙が生まれた。そこを見逃さなかったカデルが自分の全魔力を込めてドリムに魔法を放った。
「キャアァァアアァッ!?」
「馬鹿な…あの座長が負けた?」
「ドリム様も…も、もうダメだっ!?」
「逃がすなっ!」
いくら伝説の戦士といえどカデルが全魔力を込めた魔法にたまらず悲鳴を上げてバードと同じところまで吹き飛んだ。まさか鳥王と伝説の戦士が負けるとは思っていなかったのだろう。バーナステージ国の兵士は二人が負けた瞬間今度こそ完全な敗走をはじめた。スズは地面に降り立つと倒れ伏したバードを見た。ヨロヨロとバードが体を起こす。
「あれをくらって立ち上がるとは大した根性ですね。」
「一応国王だからね。それよりどうやって私より高く跳んだの?これでもジャンプ力には自信があったんだけど…」
「上昇気流ってご存知ですか?」
上昇気流とは暖かい空気が急激に冷やされると急な温度変化でその部分の空気だけがまわりの空気より軽くなるという現象である。分かりやすくいえばその部分だけ空気抵抗を一切受けなくなるのだ。
「なるほどね。エンペラーマインドの爆炎とさっきの男の水術の温度差で起きた上昇気流に乗った…というわけね。これは一本取られたわ。」
「ご明察です。ではあなた達を捕虜にします。大丈夫です。悪いようにはしませんから。」
「あら~残念だけどそれは無理ね。」
口の端から血を流していても崩さないバードのその美貌と笑みにスズは不信と嫌な予感を抱いた。そしてその嫌な予感はこの後見事に的中することになる。
「どういう「敵の援軍だーっ!?」」
「こういう事よ。」
「座長、助けに参りました。」
突如掲げられた鷲の軍旗と同時にバードの横にダンと同じくらいの筋肉質の男が現れた。男は近くで気絶していたドリムを脇に抱える。
「遅れて申し訳ありません。」
「本当よ。まぁ主役は遅れて登場するものだしね。」
「ファルコン・スリーディング・・・」
スズが突然現れたその男の名を苦々しげに呟いた。フィズ将軍と長年争ってきたライバルともいえる男。
「撤退しましょう。これ以上の戦闘は無意味です。」
「分かってるわ。全軍退却するわよ。」
「待ちなさいっ!」
スズは追いかけるが助けに来たファルコンの兵士に行く手を阻まれる。スズがその兵士を倒した時にはすでにファルコンと気絶していたルイとドリム、そしてバードはいなくなっていた。
「逃げられた…」
「追うのは…無理だな。こっちも予想外の打撃を受けた。そんな余力はない。」
「くそぅやけに数が少ないと思ったらこの為に兵力を残していたのか。」
カデルとフィズが悔しそうに顔をゆがめる。そしてそれはスズも同様だった。自然と自分の手を握り締める。
「まぁそれでも勝てたのは良かったじゃないですか。確かに犠牲は大きかったですがまずは生き残れた事を感謝すべきです。」
城門前で戦っていた国王ハマーが笑顔でそう言って近づいてきた。ちなみに彼は城門を守り続けた事から壁マーン(欠片の王)と呼ばれ、後々偉大な王として歴史家達に語られていくことになる。
「そうですね…」
「それにこの結果は皆さんが力を合わせた結果です。パズルと同じですよ。一つでも欠片が合わないと完成しないでしょう?」
確かにそうだとスズは思った。バードとの戦いもダンさんやセシルさん、バツさんがいなければ勝てなかった。欠片が合わさったからこそ勝てたのだ。私はボロボロのダンさんを見る。ダンさんは体を地面に倒してはいたが笑顔で私に親指を立ててグーサインを出していた。それに私も笑顔でグーサインで答えた。
この戦い以後、バーナステージ国はPIECE MAKER国に停戦を申し込む。激しい戦いで国力を消費していたPIECE MAKER国はこれを受けいれ戦いは終結した。後に欠片戦線と呼ばれたこの戦争はPIECE MAKER国の歴史の一つであり、戦争は一人の武将だけでは勝てないと証明した戦いでもあった。
歴史は一つの物語がたくさん集まって歴史となる。どこかが抜けていればそれは完全な歴史ではない。そう、それは一つでも抜けていれば完成しないパズルなのだ。私はそのパズルの完成を目指してこれからも歴史を書き記そうと思う・・・
完
お久しぶりです。はいかなり短編としては長くなりました・・・ごめんなさい・・・(いや最初は5000字くらいにしようとしたんだよ?でもいつの間にかその二倍くらいに・・・)
さて今回のテーマはそのまま「欠片」でした。歴史も全ての欠片を探すのが楽しいのかもしれませんねぇ・・・では今日はこのへんで、また会いましょう。