私の可哀想な異母妹
母が死んで、喪服の注文中に、父が再婚した。慶事だから、喪服は不吉だと言われたが、注文はキャンセルしなかった。
父の昔からの恋人である継母とその愛娘の異母妹。
この展開に、私は「ああ、web小説みたい」と思った。
よくある真実の愛の物語。
自分は身分を捨てる勇気もなく、真実の愛の相手を日陰の者にしても、我が子が貴族として結婚できる緩いなーろっぱの制度に甘えたクズ男の話が。
しかし、異母妹の髪を見た瞬間、私は思い至った。彼女を守らないと、と。
◆◇◇◇
「いい? リンジー。あなたは知的な黒髪でも、美人の金髪でもなく、情熱的な赤毛でもない。身の程を弁えておかないといけないのよ」
「酷いわ、お姉様! いくら、私がお父様に愛されているからって、酷いことを言うなんて!」
「お父様に愛されているかどうかなんて、関係ないの。これは殿方に好かれる髪色かどうかの問題なの」
「お姉様、私の髪の色が好かれないって言うの?!」
「人気はないわ。人気者はその年の流行の色の髪の色じゃないといけないけど、それは大概、金髪で、茶髪の流行る年はほぼないの」
「酷いわ、酷いわ! 私が嫌いだからって――」
「リンジーに酷いことを言わないで!」
継母まで参戦してきた。
「いいえ、お義母様! リンジーが人気者になるには流行を作り出す側にならないと駄目なのです!」
「「え?」」
「髪の色は手入れの仕方で多少は明るくできるので、金茶色に見えるように頑張りましょう。それが無理だった時の為に流行を作り出す人気者にしなければ!」
「お、お姉様?」
「人気者の道は簡単じゃないわよ! でも、あなたが雀と馬鹿にされたいなら、私の言ったことはしなくていいわ」
「!!」
ショックを受ける異母妹。
「馬鹿にされるって、そんな・・・」
直撃を食らっていない継母は反論しようとする。
「お義母様。あなたの存在が父の癒しだったことは受け入れます。でも、リンジーにまで癒し担当にして、日陰の身にしてもいいのですか?!」
「!!」
継母はショックを受けた。
茶髪は確かに癒される。金髪や赤毛の多い貴族の中で、平民に多い茶髪は癒しの色だ。
だから、父は継母に癒しを求めたのだろう。
その継母と同じ色の髪を持つ異母妹もまた、個性を出さなかったら埋没して、庶子を理由に日陰の身に落とされやすい。
「脱日陰の身! 脱都合の良い女! 身分の高い者にも茶髪はいるもの。リンジーをそんじょそこらの茶髪と一緒に埋没させるわけにはいかないわ!」
「ラナ、そこまでリンジーのことを考えてくれるの?」
「当たり前ですわ! リンジーが茶髪だからと蔑まれるのは我慢できませんわ!」
フンスとばかりに言ったら、継母がしみじみと言った。
「・・・貴族の子どもって、11歳でこんなことを考えるのね」
ギクッ。
◇◆◇◇
「髪をビールで洗うの?」
「ビールで洗うと、髪色が明るくなるのよ。脱地味な茶髪!」
◇◇◆◇
「お姉様、まだ勉強しなければいけないの?!」
「ラナ、頭でっかちの女は嫌われるわよ」
継母が援護射撃をする。
「いいえ、リンジー! これはあなたの為なの。完璧なマナーはあなたを守る鎧になるわ。それに高度な教養があれば、生活水準が落ちるかどうかわかるわ。折角、貴族になったんだから、死ぬまで上流階級を楽しみたいでしょ?」
「それは、まあ、そうだけど」
「教養のない男はね、出世も領地経営もできずに家を傾けてしまうの」
「でも、教養があると、小賢しいと思われるんじゃ・・・」
異母妹と継母は視線を交わす。
「別に知識をひけらかさなくてもいいのよ。そーなんだー、って頷いていれば、良いんだから。寧ろ、知識を隠して噂話や話の裏を読んで伝えれば夫に感謝されるわよ」
「そういうものなの?」
異母妹だけでなく、継母も初耳とばかりに見てくる。
「そういうものよ、貴族の女性の社交は。夫が喜ばないなら、父に言えば喜ぶわよ」
「お父様に?」
「夫は離婚して仕舞えば他人だけど、結婚しても、父は父でしょ。離婚しても受け入れてくれるし」
「ああ、確かに」
納得してくれて何より。
「貴族の子どもって、11歳でこんなことまで考えているのね」
しみじみと継母に言われ、私は開き直ってアルカイックスマイルを浮かべた。
◇◇◇◆
「お姉様! 私は結婚なんかできそうにないわ!」
何度も途中で止めようとしては、宥めすかしてマナーと教養を身に付けたリンジーが、デビュタントが成功して人気者になったにもかかわらず、その日の夜会から帰宅したと同時に泣きついてきた。
「どうしたの、リンジー?」
「どいつもこいつも、性格の悪い家庭教師みたいな男ばかりなのよ! 偉そうに教えてきて! そんなこと知ってるっつーの!」
「それは、話した相手が悪かったのよ」
「何人もいて、みんなそうなのよ」
「それがわかるようになったってことは、あなたが成長したからなのよ、リンジー。教養がなかったら、殿方の化けの皮も気付かないままだったんだからね」
「ああ、だから教養を身に付けろって言ったのね」
異母妹の後からやって来た継母は納得したようだ。
「わかってもらって嬉しいわ。――そんな二人に、私からも報告があります」
「報告?」
「私、自由の身になりました」
「「ええ?!?!」」
少し早く驚いたショックから立ち直った継母が言う。
「あなた、この家の跡継ぎだから、結婚相手がいるでしょ?」
「他の女を孕ませたお家乗っ取り野郎はいりません」
「「ええ?!?!」」
今度は継母も驚いたショックから復活しない。
よくある家を継ぐ為に頑張る姉と、庶出で甘やかされた妹の毒牙にかかる婿候補。
その公式を、異母妹を立派な淑女に育て上げることで回避。
ついでに、浮気するような男も回避。
異母妹を育てるついでに、浮気男の自滅を狙う策が成功!
「ということで、前の婚約者より上の爵位狙って、公爵家の庶子を婿にしようと思います」
「すごっ」
「決め台詞は『当家でも庶出の妹がいますが、仲良くやっているので、有能な庶子をお願いします』かな」
「//////」
照れる異母妹。
「だから、あなたは気に入る相手が見付かるまで、じっくり探していていいわよ」




