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幸福ホイホイ―今日も変わらず招くネコ―

作者: 武ナガト
掲載日:2026/04/05

とある教会に置かれた招き猫の話です

その教会には、一体の招き猫が飾られていた。


森の木々に囲まれた静かな土地。

教会はその奥にひっそりと建っており、(いの)りの間にその猫は置かれていた。


実のところ、この招き猫は、さまざまなものを招き寄せる。


狐や鹿、狼といった野生動物はもちろん、(ちょう)やバッタのような虫たちも引き寄せられる。

森で迷った子どもが導かれてくることもあれば、酔っぱらいの老人がふらふらと現れることもある。


彼らは口を(そろ)えてこう言う。

――突然、頭の中で猫の鳴き声が聞こえる。

そして誰かに呼ばれた気がして、その正体を探しているうちに、この場所へたどり着くのだと。


渡り鳥や獣たちも、同じ理由でここへ来るのだろう。


西洋式の教会に、東洋の招き猫。

その組み合わせはどうにも不釣り合いで、異様な光景だった。

そこへ動物や虫たちまで集まるのだから、なおさらである。


この招き猫には持ち主がいた。神父である。


神父は森の中で小さな教会を(いとな)み、布教を続けていた。

動物や虫が入り込むたびに追い返し、手を焼いていたが、それでも猫を捨てようとはしなかった。


迷子が助かることもある。

それに、森の奥にある教会にもかかわらず、信者が訪れてくれる。寄附(きふ)も集まる。


――捨てる理由がなかった。


ある日、神父のもとへ悪霊が現れた。


教会の中で暴れ回るそれを見て、神父は思わず叫んだ。


「なんてものを招いたのだ!」


にらみつけられても、招き猫は動かない。

手招きの姿勢も、にんまりとした表情も、そのままだった。


神父はため息をつき、悪霊退治を始めた。


聖水と経典を手に、(はら)いの儀式を行う。

やがて戦いは終盤に差しかかる。


そのとき、悪霊は招き猫をにらみつけ、叫んだ。


「なんてところへ招いたのだ!」


それが最後の言葉だった。


除霊を終え、神父は安堵(あんど)した。

危険な相手ではあったが、どうにか退けることができた。


戦いの最中、椅子(いす)につまずいて転倒したときは肝を冷やした。

だが、結果的にはそれが幸運だった。

倒れた直後、頭上すれすれを悪霊の牙が通り過ぎたのだ。


――神のご加護に違いない。


神父はそう信じ、その日の無事に感謝した。


だが、翌朝、祈りの間に入ると、再び異変が起きていた。

新たな悪霊が現れたのだ。


昨日とは違う、どろりとした質感のそれに、神父は思わず身を引いた。

だが逃げることはしない。覚悟を決め、再び立ち向かう。


この日も、どうにか祓うことに成功した。

燭台(しょくだい)が倒れてくれたおかげだった。


ねずみが押したのか、燭台が突然倒れ、悪霊にぶつかる。

聖火を浴びた悪霊は大きく(ひる)んだ。


さらに、散らばっていた聖歌の紙に火が燃え移り、炎が広がる。

悪霊は聖歌の炎に耐えかねて最後まで苦しんでいた。


――これも神のご加護だ。


神父はそう信じ、この日も祈りを(ささ)げた。


翌日もまた悪霊は現れた。次もその次もである。次々と毎日やってきた。


固い岩のようなもの。

煙のように揺らぐもの。

さまざまな悪霊が、毎日のように教会へ押しよせる。


そのたびに神父は悪霊たちとの戦いに明け暮れる羽目になった。


「なんなのだ、これは。ここは教会だぞ」


このままでは、この教会は悪霊が名物になってしまう。

悪霊が出没する教会、不名誉きわまりない。


それでも、逃げることはできない。

神父は招き猫を恨めしく思いながらも、それを試練として受け入れた。


しかし――神父に危険はなかった。

教会という場所そのものが、強い力を持っていたからである。


やがてこれらの戦いは、人を呼ぶようになった。


悪霊と神父の攻防は「除霊ショー」として広まり、見物客が訪れる。

客が訪れると近くの村には金が落ち、教会には寄附が集まった。

村は小さな町になり、それはやがて教会を中心に大きく発展していった。


気づけば教会も、そのままではなくなった。小さな教会は、荘厳(そうごん)な大聖堂へと変わっていったのである。


発展とともに招き猫は、幸福の象徴として人々に(あが)められていった。


たしかに――幸福はもたらされていた。


悪霊は不幸のもとである。

その悪霊を祓うことは幸福へとつながるわけだ。


悪霊を教会に引き寄せる招き猫。

招き猫は幸せにつながるチャンスをお与えくださる。


だから今日も、神父は悪霊を祓う。


思わぬ幸運に救われ続ける神父を見守りながら、今日も祈りの間で、招き猫は笑っていた。

手招きしながら、こう言いたげに。


「さあ来い、来い。

 悪霊なんか教会に入れば袋のネズミ」


もっと来い。もっと来い。

悪霊よ、たくさんやってこい。

悪霊ホイホイ(教会)

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