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人生をやり直すたび、誰かが消える — RE:TRY —

作者: 海狼ゆうき
掲載日:2026/03/21

 人生を、一度だけやり直せるアプリを  手に入れた。


 やり直せるなら、あの日だと思った。

 そう考えるまでに、時間はかからなかった。

 むしろ、ずっと決まっていたようなものだ。

 どこに戻りたいかなんて、考えるまでもない。


 答えは一つしかない。

 通知音が鳴ったのは、深夜二時過ぎだった。

 部屋の電気はつけっぱなしで、俺はソファに沈んでいた。

 テレビはついているが、音は聞いていない。

 視線はずっと、机の上に置かれたスマホに向いていた。

 画面は暗い。

 何も表示されていない。

 ただ、そこにあるだけの機械。

 それでも、目を逸らせなかった。

 鳴らないはずの通知を、ずっと待っていた。

 鳴るはずのない、メッセージを。

「……来るわけないか」

 自分で呟いて、乾いた笑いが漏れる。

 当たり前だ。

 あいつはもう、俺に連絡なんてしてこない。

 最後に交わした言葉は、たった一言。

 それが、終わりだった。

 ——「もういいよ」

 あのときの顔が、頭から離れない。

 怒っていたわけじゃない。

 泣いていたわけでもない。

 ただ、諦めていた。

 全部、終わった顔だった。

「……クソ」

 拳を握る。

 何度思い出しても、同じところで止まる。

 あの瞬間に戻れたら。

 違う言葉を選べたら。

 あんな終わり方にはならなかったはずだ。

 分かっている。

 もう遅いことも。

 どうしようもないことも。

 全部。

 それでも——

 考えてしまう。

 もし、やり直せるなら。

 そのとき、スマホが震えた。

 ブブッ、と短い振動。

 反射的に手が伸びる。

 画面をつける。

 通知。

 見覚えのないアプリ。

 表示された名前は、

 《RE:TRY》

「……は?」

 聞いたこともない。

 入れた覚えもない。

 いつの間にかインストールされていたらしい。

 怪しい。

 明らかに。

 それでも、なぜか指が止まらなかった。

 通知をタップする。

 画面が切り替わる。

 黒い背景。

 中央に、白い文字。

 《人生を一度だけ巻き戻せます》

 その下に、小さく注意書き。

 《使用回数:1》

「……なんだこれ」

 思わず声に出た。

 詐欺か、ウイルスか、悪質なジョークか。

 普通なら、すぐに削除する。

 考えるまでもなく。

 でも——

 指が動かなかった。

 離れない。

 画面から。

 その一文から。

 《人生を一度だけ巻き戻せます》

 ありえない。

 そんなこと、あるわけがない。

 分かっている。

 でも——

「……一度だけ、か」

 呟いていた。

 気づけば。

 頭の中に、あの光景が浮かぶ。

 最後の会話。

 最後の顔。

 最後の言葉。

 ——「もういいよ」

「……」

 喉が乾く。

 心臓が、少しだけ早くなる。

 試すだけなら、いいんじゃないか。

 どうせ、何も起きない。

 ただのアプリだ。

 バグか何かだ。

 それで終わる。

 そう思って、指を伸ばした。

 《開始しますか?》

 [YES] [NO]

 迷う時間は、ほとんどなかった。

 タップする。

 YESを。

 その瞬間、画面が白くなった。

 音が消える。

 光だけが、残る。

 視界が、塗りつぶされる。

 体の感覚が、なくなる。

 落ちる。

 どこかへ。

 深く。

 何もない場所へ。

 ——次に目を開けたとき、俺は立っていた。

 駅前のカフェ。

 見覚えのある場所。

 見覚えのある時間。

 夕方。

 窓際の席。

 そして——

 目の前に、あいつがいた。

「……え?」

 声が出る。

 目の前の現実に、理解が追いつかない。

 あいつは、普通にそこに座っていた。

 コーヒーを持って。

 いつものように。

「どうしたの?」

 不思議そうな顔。

 少しだけ首を傾げる。

 その仕草まで、全部同じだ。

「さっきからぼーっとしてるけど」

「……」

 言葉が出ない。

 喉が詰まる。

 頭の中が真っ白になる。

 これは、夢か?

 それとも——

「ねえ、聞いてる?」

 あいつが、少しだけ笑う。

 軽く呆れたように。

 でも、優しい。

 あのときと同じ。

 いや——

 あのときの、少し前だ。

 まだ、全部が壊れる前。

「……ああ」

 やっと声が出た。

「聞いてる」

「ほんと?」

「うん」

 嘘だった。

 何も聞いていない。

 ただ、見ているだけで精一杯だった。

 目の前の存在を。

 もう二度と会えないと思っていた相手を。

 スマホが震えた。

 ポケットの中。

 取り出す。

 画面を見る。

 あのアプリ。

 《RE:TRY》

 そして、その下に——

 《使用回数:0》

「……」

 理解した。

 これが、答えだ。

 本当に、巻き戻った。

 あの日に。

 あの時間に。

 あの場所に。

「ねえ」

 あいつが言う。

「さっきの話、どう思う?」

「……」

 ああ、そうだ。

 この後だ。

 問題は。

 ここから先で、全部が壊れた。

 俺の一言で。

 たった一つの選択で。

 ——「もういいよ」

「……」

 違う言葉を選べばいい。

 それだけだ。

 簡単だ。

 たったそれだけで、未来は変わる。

 やり直せる。

 今度こそ。

「俺は——」

 口を開く。

 言葉を選ぶ。

 慎重に。

 絶対に、間違えないように。

「まだ、続けたいと思ってる」

 あいつの目が、少しだけ見開かれた。

 驚いたように。

 そして——

 少しだけ、笑った。

「……そっか」

 小さく頷く。

「よかった」

 その一言で、胸の奥が軽くなった。

 救われた気がした。

 間違えなかった。

 今度は。

 外に出る。

 夕方の空気。

 少し冷たい。

 隣に、あいつがいる。

 歩幅を合わせて、歩く。

 それだけで、満たされる。

 もう失わない。

 今度こそ。

「ねえ」

「ん?」

「さっきさ」

 あいつが言う。

「なんか、ちょっと変だったよね」

「……そうか?」

「うん。なんか、違う感じ」

 笑いながら言う。

 冗談っぽく。

 でも、その言葉が——

 妙に引っかかった。

 スマホを確認する。

 アプリはそのまま。

 使用回数は0。

 もう、戻れない。

 これは、やり直しじゃない。

 “一度きりの新しい時間”だ。

「……」

 それでもいい。

 むしろ、それでいい。

 もう十分だ。

 やり直せた。

 あの最悪の結末を、回避できた。

 それだけで——

 そのとき、ふと気づいた。

 違和感に。

 小さな、ほんのわずかなズレ。

 あいつの仕草。

 声。

 表情。

 全部同じはずなのに、

 どこか、微妙に違う。

「……どうしたの?」

 あいつが首を傾げる。

 さっきと同じ仕草。

 でも——

 ほんの少しだけ、

 遅れている。

「いや……」

 俺は首を振った。

「なんでもない」

 その違和感が、何なのか。

 この時点では、まだ分かっていなかった。

 ただ一つだけ、

 はっきりしていたことがある。

 やり直したはずの世界は、完全に同じではない。


 違和感は、最初はほんの小さなものだった。

 気のせいで片付けられる程度の。

 いや、むしろそう思い込もうとしていたのかもしれない。

「ねえ、映画どうする?」

 帰り道、あいつがスマホを見ながら言う。

 駅前の大通り。

 夕方の人混み。

 見慣れた景色。

 やり直す前と、同じはずの時間。

「この前言ってたやつ、まだやってるみたい」

「……ああ、行こうか」

 俺は頷いた。

 記憶にある。

 この会話。

 この流れ。

 このあと、映画館に行って、軽く喧嘩して。

 それが積み重なって、最後に繋がった。

 だから今回は——

 同じ失敗はしない。

 映画館に入る。

 チケットを買う。

 ポップコーンを買う。

 席に座る。

 全部、同じ。

 同じはずなのに。

「……」

 上映が始まる。

 スクリーンに光が広がる。

 周囲が暗くなる。

 静寂。

 それでも、集中できなかった。

 隣を見る。

 あいつがいる。

 普通に。

 映画を見ている。

 でも——

 ほんのわずかに、

 タイミングがズレている。

 笑う場所。

 反応する場所。

 全部、俺の記憶より、

 半拍遅れている。

「……」

 気のせいか?

 そう思おうとする。

 でも、どうしても引っかかる。

 違う。

 これは、ただの記憶違いじゃない。

 世界がズレている。

 映画が終わる。

 明るくなる。

 周囲がざわつく。

「どうだった?」

 あいつが聞く。

「……面白かったよ」

「だよね」

 笑う。

 でも、その笑顔も、

 ほんの少しだけ、遅れている。

 外に出る。

 夜の空気。

 少し冷たい。

「ご飯、どうする?」

「……適当に入るか」

 そう言って、近くの店に入る。

 これも、同じ流れ。

 同じ店。

 同じ席。

 同じメニュー。

 全部、再現できている。

 はずなのに——

「ねえ」

 あいつが言う。

「今日のあなた、ちょっと変じゃない?」

「……そうか?」

「うん。なんか、先に知ってるみたいな感じ」

「……」

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 図星だった。

 でも、それを言えるわけがない。

「気のせいだろ」

 俺は笑ってごまかす。

「そうかなあ」

 あいつは首を傾げる。

 その仕草も、

 やっぱり、わずかにズレている。

 食事を終えて、店を出る。

 このあと、別れる流れだ。

 そして、そのまま——

 あの結末へ繋がる。

 だから今回は、

 変える。

 未来を。

「なあ」

「ん?」

「もう少し、歩かないか」

「え?」

 あいつが少し驚いた顔をする。

 前の流れにはなかった提案。

「いいけど……どうしたの?」

「いや、なんとなく」

 本当は、なんとなくじゃない。

 未来を変えるためだ。

 少しでも、ズラす。

 流れを。

 分岐を。

 夜の街を歩く。

 人は少ない。

 静かだ。

 街灯の光が、アスファルトを照らす。

「こういうの、久しぶりだね」

 あいつが言う。

「……そうだな」

「前はよくしてたのに」

 その言葉に、胸が少しだけ痛む。

 前は。

 過去は。

 もう失った時間。

 でも、今は違う。

 取り戻せる。

 そう思っていた。

 そのときだった。

 前方から、男が歩いてくる。

 酔っているのか、ふらついている。

 危なっかしい。

 すれ違う瞬間、

 その男がバランスを崩した。

 ぶつかる。

 あいつに。

「きゃっ」

 小さく声を上げる。

 体がよろける。

 俺は咄嗟に支えた。

「大丈夫か?」

「うん……ありがとう」

 何もなかった。

 ただ、それだけの出来事。

 のはずだった。

 でも——

 なぜか、強い違和感が残った。

「……」

 振り返る。

 さっきの男。

 もう遠ざかっている。

 その背中を見て、

 妙に気になった。

 何かが、ズレた。

 そんな感覚。

「どうしたの?」

「いや……」

 首を振る。

 気にしすぎだ。

 そう思おうとする。

 その夜、別れ際。

 あいつが言った。

「今日は、ありがとう」

「……ああ」

「なんか、ちょっと嬉しかった」

 そう言って、笑う。

 その笑顔は、

 やっと、ズレていなかった。

 部屋に戻る。

 電気をつける。

 静かな空間。

 スマホを取り出す。

 あのアプリ。

 《RE:TRY》

 変わらない表示。

 《使用回数:0》

「……」

 ソファに座る。

 頭を抱える。

 違和感が消えない。

 小さなズレ。

 でも、それが積み重なっている。

 そして、もう一つ。

 気づいてしまったことがある。

「……時間」

 時計を見る。

 午前一時。

 ふと、思う。

 やり直す前のこの時間、

 何をしていたか。

 思い出す。

 同じ夜。

 同じ時間。

 確か——

 あいつから、メッセージが来ていた。

 スマホを開く。

 トーク履歴。

 スクロールする。

 ……ない。

「……は?」

 何度見ても、ない。

 あるはずのメッセージが。

 存在していたはずの会話が。

 丸ごと、消えている。

「……なんでだよ」

 息が荒くなる。

 おかしい。

 明らかに。

 やり直しただけじゃない。

 何かが、削られている。

 そのとき、通知が鳴った。

 ブブッ、と短く。

 画面を見る。

 あいつからのメッセージ。

 《今日は楽しかった。おやすみ》

 普通の内容。

 いつものやり取り。

 でも——

 送信時刻が、おかしかった。

 《23:12》

「……」

 そんな時間じゃない。

 今は、午前一時だ。

 それなのに、

 過去の時刻で送られている。

 背筋が冷える。

 理解が追いつかない。

 いや——

 追いついてしまう。

「……削られてるのか」

 呟く。

 時間が。

 どこかで。

 何かの形で。

 その瞬間、

 昼間の出来事がフラッシュバックした。

 ぶつかった男。

 あの違和感。

「……まさか」

 急いで外に出る。

 夜の街。

 さっきの場所へ向かう。

 走る。

 息が上がる。

 それでも止まらない。

 現場に着く。

 人だかり。

 ざわめき。

 嫌な予感が、確信に変わる。

「すみません」

 人をかき分ける。

 中を見る。

 そこには——

 倒れている男がいた。

 さっきの、あの男だ。

「……」

 動かない。

 救急車。

 警察。

 現実が、そこにある。

 そして、気づく。

 周囲の会話。

「急に倒れたらしいよ」

「心臓か何かかな……」

 事故じゃない。

 病気。

 突然死。

「……」

 その瞬間、

 すべてが繋がった。

 俺がズラした。

 流れを。

 時間を。

 未来を。

 その結果——

 別の誰かが、死んだ。

「……嘘だろ」

 声が震える。

 否定したい。

 でも、否定できない。

 やり直した。

 未来を変えた。

 その代わりに、

 何かが消えた。

 そしてそれは——

 誰かの命だった。


 それから、俺は確かめるようになった。

 偶然じゃない。

 思い込みでもない。

 ちゃんとした“歪み”が、この世界に生まれている。

 最初は、小さなことだった。

 コンビニで買ったはずの飲み物が、レシートから消えている。

 昨日話したはずの会話を、相手が覚えていない。

 送ったメッセージが、履歴ごと消えている。

 どれも、よくある“勘違い”で片付けられるレベル。

 でも——

 回数が、異常だった。

「……」

 スマホを握る。

 トーク履歴。

 スクロールする。

 あいつとの会話。

 確実に、減っている。

「……なんでだよ」

 呟く。

 昨日のやり取りが、半分になっている。

 いや、違う。

 最初から、なかったことになっている。

 繋がらない。

 文脈が飛んでいる。

 意味が成立していない。

 それなのに、

 俺の記憶の中では、ちゃんと存在している。

「……削られてる」

 その言葉が、妙にしっくりきた。

 時間が。

 出来事が。

 存在していたはずの何かが、

 丸ごと消えている。

 そして、それは——

 必ず、“俺が選択を変えたあと”に起きている。

 やり直した。

 未来を変えた。

 その結果、

 世界のどこかで、辻褄が合わなくなる。

 だから——

 何かが消される。

 帳尻を合わせるために。

「……じゃあ」

 思考が、そこに辿り着く。

 避けようとしても、無理だった。

 あいつはどうなんだ。

 最も近くにいる存在。

 最も影響を受ける可能性がある存在。

「……」

 スマホを握ったまま、外に出る。

 夜の空気。

 冷たい。

 待ち合わせ場所へ向かう。

 足が重い。

 でも、止まれない。

 あいつは、いつも通りそこにいた。

 街灯の下。

 少しだけ不安そうな顔。

「遅いよ」

 軽く笑う。

「ごめん」

 その声。

 その表情。

 全部、いつも通り。

 でも——

 違和感がある。

「……どうしたの?」

 あいつが聞く。

「なんか、また変な顔してる」

「……いや」

 首を振る。

 でも、目が離せない。

 何かが違う。

 決定的に。

 会話をする。

 歩く。

 いつも通りの時間。

 なのに——

「ねえ」

 あいつが言う。

「昨日の話、覚えてる?」

「……昨日?」

「ほら、映画のあと」

「……」

 言葉が出ない。

 その“昨日”は、

 俺の中にはある。

 でも——

「……してないだろ」

 口から出た言葉に、自分でも驚く。

「え?」

 あいつが、困った顔をする。

「何言ってるの? したじゃん」

「……」

 噛み合わない。

 どちらかが間違っている。

 でも、それは単なる記憶違いじゃない。

 どちらかの“時間”が、

 消えている。

「……ごめん」

 あいつが小さく言う。

「私の勘違いかも」

 その一言で、確信した。

 違う。

 消されているのは——

 あいつの方だ。

「……」

 喉が詰まる。

 息が苦しい。

 気づいてしまった。

 完全に。

 やり直した。

 未来を変えた。

 その結果、

 どこかの時間が消える。

 そしてそれは、

 最も近い場所から削られていく。

 つまり——

「……俺のせいだ」

 声に出ていた。

「え?」

「……なんでもない」

 笑う。

 無理やり。

 でも、もう分かっている。

 このまま続ければ、

 あいつの時間は、

 少しずつ、

 確実に、

 消えていく。

 出会った時間。

 話した時間。

 一緒に過ごした時間。

 全部が、

 最初からなかったことになる。

「……」

 スマホを取り出す。

 あのアプリ。

 《RE:TRY》

 変わらない表示。

 でも、分かっている。

 もう一度使えば、

 もっと前に戻れるかもしれない。

 全部をやり直せるかもしれない。

 でも——

「……」

 分かっている。

 やり直すたびに、

 何かが消える。

 そして今度は——

 あいつが、完全に消える。

「……」

 指が震える。

 選べる。

 まだ。

 やり直すか。

 終わらせるか。

 頭の中に、あいつの顔が浮かぶ。

 今の笑顔。

 少しズレた仕草。

 それでも、ここにいる存在。

 守りたかった。

 本当に。

 でも——

「……違う」

 小さく呟く。

 これは、守ることじゃない。

 削っているだけだ。

 自分のために。

 後悔を消すために。

 誰かの時間を。

「……」

 ゆっくりと、スマホを閉じる。

 もう、使わない。

 これ以上、

 何も消さない。

 たとえ——

 この先に、

 あの結末が待っていたとしても。

「ねえ」

 あいつが言う。

「やっぱりさ、ちゃんと話したい」

「……ああ」

 頷く。

 ここからだ。

 あの日と同じ時間。

 同じ流れ。

 でも——

 今回は、

 逃げない。


 やり直さない。

 そのまま進む。

 どんな結末でも。


 それが——

 消えない唯一の時間だから。

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