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レスバの相手は君だった。

掲載日:2026/03/24

初短編です

まだ厨房なので稚拙な文章はお許しください><

「うっし!!」


俺、山田ケイスケは独り言を部屋で呟きながらガッツポーズを決めた。

何を隠そう、1時間前からレックスのレスバでずっと粘られてた相手をついに言い負かすことができたのだ。


@ tensai_ desu

《納豆のタレがジェルだとなんか不衛生だろ》


@ Seiron_kun

《どこが不衛生??情報(ソース)は?》


@ tensai_ desu

《感覚的にあるじゃん、そういうの》

《お前脳味噌ジェルでできてる??》


ここで情報を求めて突っかかってきた"正論クン"っていうのが俺のアカウントだ。

議題は『納豆のジェル状のタレが不衛生か不衛生ではないか』についてだ。

これ以上はまぁ自分で言うのもなんだが不毛な言い合いだから省くけど、正論で相手を言い負かすっていうのは非常に気持ちが良い。

でも、ある程度常識がある人が相手じゃないとダメだ。じゃないと頑固なヤツが相手のとき、何言っても一点張りで返してくるから埒があかない。


え?なんで俺がこんなことしてるかって?

答えはただ一つ、暇だからだ。


俺は自分がやってることがめっちゃしょうもないは理解している。

理解した上で道化を演じているのだ。

なんせ、自慢のつもりではないが俺はクラスでも最上位の成績保持者でおまけに要領もいいから課題なんてものはすぐ終わってしまう。

しかも俺は高校一年生の頃にテニス部を退部してしまった。

なぜなら俺はあの日を境に選手生命を断たれてしまったからだ…


寝る前に()()()()思い出したくない。とりあえず暗いし、今日はもう寝よう!

カーテンを閉めて、と。ベッドにinだ!




寝坊した。

朝ぼらけの中俺は支度を始めた。親は出張でいないので、こういう時の朝ご飯はカロリーメイト数本で済ませなくてはいけない。


ひっへひはーふ(いってきまーす)


カロリーメイトを数本口に咥えたまま、虚空に向かって声を出して、扉を閉める。

いつもより12分は遅れてる。早歩きで行こう


前述した通り、俺は要領がいい。でも一ヶ月に一度くらいはこんな日もある。人間だもの。

寂しさを紛らわしたくて、突然何もいない場所に向かって挨拶もする。

あれだけテニスに打ち込んでいた好青年も1年経てばレックスでレスバに明け暮れる陰気臭いヤツにもなる。人間だもの。


そうやって自分に言い訳していると、背後からこちらに向かって走ってくる足音が徐々に大きく聞こえてきた。


「おっはよーう!」

「やまだー!ねぇねぇ、今日ディベート授業だね!」

「ウチらの班にはケイスケがいるから余裕っしょ!」


馴れ馴れしく話しかけてきたこの小顔な女の名前は"宮部 薫(みやべかおる)"。俺の中学からの幼馴染である。

全体的に小柄で、前髪をヘアピンで留めた茶髪のショートヘアだ。


「ディベート…そういやそんなのも言ってたな」


「そんなのも言ってたな、じゃないでしょ!」

「ウチ今回本気で勝ちに行くから、ケイスケもウチの言う事フォローしてね」


目の中に煮えたぎる炎が垣間見える。

この小娘、本気か?冷笑するつもりはないけど、ディベート授業なんてこんなの本気でやる方が馬鹿らしくないか…?

何より俺は目立ちたくない。嫌だ。


「あと今日の課題、一緒に図書館でやろ!」

「物理基礎わからなくてさぁ…」


「えっ、あ…」

「うぃ」


「ウィって何?!wまじウブすぎ」


「い、いや」


まぁいい。今日は運良く残っているレスバ相手もいない。

女子と図書館で勉強、幼馴染とはいえ気まずい予感しかしないが断るのは野暮ってもんだろう。


考えているうちに駅に着いた。


「ねぇ、めっちゃオモロい動画見つけた」


「ウチの好きなKPOPアイドルが来日したねん!」


「嘘、カナコちゃんの投稿…近所の祭りにフカガワくんと行ってる」


そこからは簡単だ。優先席に座り、(かおる)の振ってくるしょうもない話を適当にあしらいながらスマホを右手にネットサーフィンをする。

ふと、スクロールしているとタイムラインにそこまで伸びてない投稿が表示される。


@ usain_man

《優先席に座ってるクソガキ2人。#曽部線#森閑学園》


…は?

ポストの画像に写っていたのはなんと優先席に座っている俺と(かおる)

これ、俺たちじゃねえか。こんな偶然あんのか?

咄嗟に周りを見回してみる。それらしくスマホを向けてくる人はいない。

もう一度画像を見てみる。連結部の方から撮ってるのか?これ…

右の車両の方を見やると、連結部のドア越しにこちらにカメラを向ける中年の男がいた。

軽蔑の目を向けているのがわかる。


撮ってんじゃねえよ…俺らはここないんだから口で直接言えよ!

心の中ではそう言っているが、実際冷や汗をかくくらいに焦っているのは確かだ。

いつもならこんなやつ俺からレスバをふっかけるカモのような存在なのに。

さんざん訴訟だ開示だ言われても、全然ビビらなかったのに。

その相手が現実にいる。

俺は怖くなって、すぐさま反対側の(かおる)の方に逃げるように視線を向けてしまった。


いない。隣に座ってたはずの(かおる)が消えている!



「今、私達のこと撮ってましたよね」


再び焦って連結部に視線を戻すと、彼女が中年の男に対して強い語気で話しかけていた。

真剣な眼差しで男を見つめている。

こんな(かおる)は中学の頃から通して今まで見たことがない。

学力の違いや身長差も相まって、今までは薫のことを心の底では下に見ていた。

それが、今になって彼女に"勇気"と言う分野で負けたのだ。痛感してもしきれない。


「…」


「消してください。」

「あと、消すところも見せてください」


彼女の凛とした覇気に俺は圧倒されると同時に、女として惚れてしまった。


「す、すみません…」

「こちらの投稿も、あなたのもので間違いないでしょうか…?」


作り笑いを浮かべ、(かおる)とは対照的な弱々しい声で俺は男にスマホへ指を差してポストを見せつける。

俺には便乗しかできないのか。惨めだ…

よりにもよって、自分レックスの中でも一番嫌いな人種と同じことを自分がしてしまうとは。


「…消すよ。」

「消せばいいんだろ」

「チッ…」


男は不服そうに操作して、その工程を俺たちに見せたあと車両を移動していった。

気づけば周りに野次馬が群がっていた。


「あ、そろそろ着くよ!早く行かなきゃ!」


切り替え早すぎだろ…

俺は彼女にペースを乱されながらも、やっとこさ学校に着いた。

なんだろう、いつもの10倍は時間が流れる感覚が遅い。まだ心臓がバクバクしてやがる。


「じゃ、ウチ朝練あるからー!」


朝練?!


「遅刻したから100%怒られちゃう…!」


当たり前すぎる。確か、彼女は女バスだったな。


その後の授業は退屈なものだった。

例の盗撮ポストは消されており、アカウントも消えていた。

そして、いつも通り昼食の時間がやってきた。

まぁ、いつも通り便所飯すっか…


「おい、山田。」


「ん?あぁ…」


「…たまには顔出せよ。」


クールな雰囲気を全身から醸し出すこの青髪ロングヘアの彼女は"桑原 美奈(くわはらみな)

硬式テニス部の頃の仲間だ。


「ん」

「返事…」


美奈(みな)が並んできた。


「あ、あぁ…今度時間があったら行くよ」


「…膝、治らないのか?」


「くっつきはしたけど…曲がんなくなった」


「はぁ〜〜……」

「今更だけど、なんでアンタそんなにどんくさいの?」


横長の机に肘をつき、もう片方の手で髪の毛をぐるぐるしている。

そんな溜息つかなくても…ん?


「?…何?」

「私の弁当がそんなに珍しい?アンタは学食でしょ」


目を丸くしてキョトンとしている。


…なんだ?これは。

美奈(みな)の弁当箱の中に…写真が入ってる?

プリクラの写真だ。美奈がセンターで、周りを4人の女子生徒が囲んでいる。

原型ないほど加工されてるな。クールな美奈すら負ける魅惑を放つプリクラって怖え…

いや、ただ単純に人付き合いの一環でプリクラを撮ってるだけか。

この女のことだから他人を踏み台にしてでも目立とうとするのは不自然ではない。

ダブルスでペアだった頃も、俺の動きに合わせようとしてくれたことは一度もなかった。

てかなんで写真を弁当箱に入れてるんだ?頭おかしいんじゃないのか?

確かめるように二度見してみる。


「…何、さっきからジロジロ見て…」

「私のキャラ弁にケチつけようっての?」


キャラ弁????????

…確かに、横から見ると細かな具材が乗った米粒が目の錯覚みたいになってるのに気付いてしまった。

まずい、ずっと見てると集合体恐怖症になりそうだ。


「え…これ、誰が作ったの?」


「私のママよ」


ママ呼び…ダブルスやってても気付かなかった


「美大出身だし、これくらいやってもらわなくちゃ」


そう言って美奈(みな)は鼻を高くした。

美大のレベルをこれは遥かに超えている。

それを聞いてなぜか、俺は親の愛情をこのところ受けてない気がした。


「ごっごめんちょっとトイレ…」


「?…はぁ」

「相変わらず変なヤツ…」


人の親が作った弁当に難癖をつけるつもりはないが流石に一瞬吐くかと思った。

うし、大きい方でも出すか。

俺は流れるように軽やかな動作でスマホを取り出した。

トイレでスマホをするのが汚いわけがない。そこら辺のアンモニアよりもスマホの方が100倍汚い。

排便と共にするネットサーフィンは背徳感がえげつねぇな。


ん…?


@ hyonsama_love

《男は生理痛の痛みを全く分かってない。鼻からスイカのレベルじゃないから。》

《その点、男に産まれたら女の100倍イージーモードだから。》


出たよ、男女論。懲りないねえ!

フン。この手の話題の攻略法は既に履修済だ。

俺はレスバ研修を主催できるレベルには到達している。

既に頭の中にも"レスバ対応のすヽめ"というマニュアルが掲載されている。

例えば今朝のレスバだったら《効いてて草》とでもカキコしておけば勝手に自滅してくれる。

才能の無駄遣いと言われるかもしれないが、これは正当進化だ。なぜなら…


@ Seiron_kun

《いやそれ全部貴女(あなた)の主観ですよね》

《具体的な統計結果がない限りそれを証明できないじゃないですか。》


某パーカーの人のように、統計を求めれば相手は確実に感情論での話題にシフトしてくる。

これは今朝のレスバでも同じ。情報(ソース)証拠(エビデンス)を求めることで確実に相手をこちら側の土俵に引き込むのだ。

あ、ここで《金的の方が痛い》とか言って反論するのはナンセンス。

あれは金的の話題をしたいだけのマゾが提唱してる詭弁にすぎない。


@ hyonsama_love

《は?今私そういう話してないんだけど》

《引用元見た?男よりも女性の方が結婚後の幸福度が低いってあんじゃん》


@ Seiron_kun

《いや、これ地区別調査じゃないですか。もっと信憑性の高いデータをくださいよ》


@ hyonsama_love

《御免なさい。地区別調査が何なの??ちょっとさっきから何を言ってるかわからなかったです》

《ブロックしようか迷っています》


@ Seiron_kun

《いや、ゲイタウンであなたは同性愛者ですか?って地区別調査してその国の人は皆同性愛者ってなったらおかしいでしょって話ですよ》


あえてここで的外れな発言をする。


@lol_tttddd

《女さんイライラで草》


おっと、ここで挑戦者か。

これは面白くなってきましたね〜…


@ hyonsama_love

五月蝿(うるさ)い山田圭介》


???!!!!!

何で俺の名前を知ってるんだ?特定班でも雇ったか??何をした???

電車の一件で感じた身バレの恐怖が一気に蘇る。今度は相手は画面の奥だ。

相手がわからない。誰なのか。なぜ俺の本名を知っている?

身内か…?確かに、たまに日常に関する投稿はしているが身内に教えたことは一切ない。

一度は(かおる)のおかげで晒される危機から逃れられたのに。飛んで火に入る夏の虫だ。

今度こそ俺の顔がネット中に晒されるかもしれない。

俺は、何も学べない。

眉唾(まゆつば)であってくれぇ…!嘘であってくれ…

とりあえず、これ以上言及するのはやめよう。また俺の個人情報を漏らされたら困る。

トイレから出よう。今の自分にはこの場所さえ息苦しく感じる。トラウマになりそうだ。


「…何でそんなにゲッソリしてるんだ?」


「いや…なんでもない」


何とも情けない。まさか、誰がトイレに行ってる間に

少なくとも俺は言えないね。まぁ、因果応報…自業自得というヤツだろう


「…なんでそんな悟ったみたいな顔してんの?」


彼女は怪訝な表情を浮かべた。

対して俺は俺は全てを達観したような表情を浮かべる。

通知が止まない…今頃、他の野次馬アカウントが《おーい?逃げたか?w》とか言って手のひらを返して俺を攻撃してるんだろうな。

なんせ、俺が攻撃したポストはかなり話題になっていたポストだ。俗にいう“バズ"状態だった。


「ふ、ふふ…何でだろうな?俺もわかんないや…」


「えっ気持ち悪っ」



「ねぇ!」

「この食券機壊れたのかな?動かないよ!」


「み、宮部さん…?」


ふと振り返ると、(かおる)が食券機をしばいていた。

食券が出てこないのだろう。ただやり方があまりにも前時代的すぎる。

周りの生徒も引き気味だ。いくら天然キャラでやってるとはいえ、あそこまでいくともはや尊敬に値する。

とはいえ今日の恩もあるので悪くは言えない。最も、俺は一難去ってまた一難という状況下なわけだが。

さて、どうする…?

誰だ?俺のアカウントを知っている身内がいるとしたら…


「何回叩いても出てこないよー」


「宮部さん普通にそれ以上は壊れますって…!」


裏の顔がありそうな(かおる)…実はああいう女ほど裏垢がえげつないというのはよく聞く話だ。

俺にも思うところがあったのか…?いや、仮に彼女があのアカウントだとしても俺の名前を出すか?


電車の中での偶然も相まって、今なら何でもありな気がしてきた。(かおる)(かおる)なのか?

レスバに負けかけて俺の本名を晒したのは(かおる)、お前だったのか?


第二候補。今俺の真横にいる女。

こいつなら納得できそうだ。確かにテニス部の頃から感じ悪かった。だが他に見当たる節もない。

だが、そうなるとしてもやっぱり確率的におかしい…そんなことあるか?

やっぱ、仮面被ったアノニマスみたいな集団が俺をターゲットにしてなんかDMとかで俺の個人情報を流したりしてるのか??


そんなはずはない。全部悪い想像だ。自意識過剰にも程があるぞ、俺。

大体、死ぬこと以外は擦り傷だ。例え開示請求されて賠償金を払う羽目になってもこの命あれば無問題(モーマンタイ)だ。

適当に名前を書いたら当たってただけの可能性もある。そうだ、人生楽観的に行こうぜ。

躁状態に陥った俺は失われた食欲を取り戻す。


「うっし!!カツ丼3杯食うか!」


「えっ…キャラ変わりすぎでしょ」



「今回のホームルームはディベート対決です」

「なんかすごい偉い人も視察に来てるから心して取り組むように」


「「「はい!!」」」


「お題は〜?!制服廃止して私服にするべきか!!」

「ドンドンパフパフ」

「勝手に班は私が事前で振り分けた。このクラスを大きく2つに分けまーす!」

「では時間も押しているのでディベート開始!」

「かませ!」


ディベートと何かを履き違えているであろう先公の語尾を合図に、勢いよく(かおる)が手を挙げた。


「はい!先攻はカオル!」


「気候に合わせた服選びを細かく行えることから、私服の方が標準服に相応しいと思いまーす!」


当たり前のように下の名前で呼び捨てをする先公は置いといて、


それに続いて反対側から美奈が空を裂く勢いで鋭く手を挙げる。


「ポロシャツやカーディガン等を着こなすことで解決できます。」

「制服を廃止し、生徒としての主体性の一部を欠いてまで対処するほど危惧される問題かどうかは疑問ですね。」


そう言ってわざとらしく首を傾げた。

流石美奈(みな)、粗探しがお上手だ。流石俺の元相棒、俺といい勝負できるかもしれない。

嫌味という分野だけなら京都人を遥かに凌駕できる可能性を秘めている。


対する(かおる)の方には、笑顔に綻びが見られた。

まずい。美奈がひょっとしたら先程の食券機のようにサンドバッグになってしまうかもしれない。


「しゅーりょーーーう!!」


薫はアンサーを返そうと口を開きかけたその刹那に終了を告げるゴングは鳴った。


「ちょっとみんな、2人しか発言してなかったよ?!もう罰として400字詰め原稿用紙20枚キッチリ書いてもらうからね。」


終わりである。


「余った30分は感想書いてもらいまーす」


時間配分のじの字もない。

(かおる)達はというと、ディベートはもう終わっているのにまだ睨み合いを続けている。


「あ、そうだ。ごめん忘れてた、私服派が勝ったと思う人ー!」

「に、し、ろ、や…」


「制服派が勝ったと思う人ー!」

「ひい、ふう、みい…」


なんと結果は12対12。同数なのにわざわざ使い分ける数え方のクセが強い。

自チームではなく相手チームに投票した生徒がいてこの結果である。

ここまで拮抗しているとは…

心なしか、2人の睨み合いが苛烈さを増しているように見える。


敵視する理由が他にもあるような雰囲気だ。


とは言え、退屈な授業がやっと終わったぜ。

図書館で勉強を教えなくちゃな。

俺は帰路につきながら鼻歌を歌い、スマホをおもむろに取り出した。


「あ」


地下鉄。

電車の中で俺は絶望した。すっかり忘れていたあのレスバの件だ。


@ senpai_beast

《君の“負け“やね》


@abcdef_mart

《諦めたのでここで試合終了とさせていただきます。解散》


@tt_brothers

《逃げ乙》


畜生、さっきまで俺の味方だったくせに。

最悪だ…スマホを閉じて俯いても、レックスの通知が鳴り止まない。

俺が気づいてそれに示し合わせたように通知が鳴り続けている。

俺はなんなんだ??この場所がもう怖い。いやだ。誰かが俺を見てる気がする。いや見てる。

被害妄想が鳴り止まない。まずい、だめだ…


「…誰なんだよぉ」




「やーまだ」


「え?」


顔を上げると、吊り革を掴んだ2人の女子高生がいた。

宮部薫(みやべかおる)桑原美奈(くわばらみな)だ。


「ずっと…今日一日中心配してたよ」

「特にあのおっさんの件からさ。」


「心配性が」

美奈(みな)が片方の口角を少しだけ上げてそっぽを向いて笑った。


「ミナちゃんも相当心配してたじゃん昼食の後〜」


「言うな」


「ウチバスケ休んでまで山田のこと追いかけてきたんだよ?」


「それはサボりたかっただけだろ」


「えへえー、バレた?」


あれ…?意外とこの2人仲良い?

なんだ。良かった…よくない。気持ちは嬉しいが今はそれどころじゃない。


「どうした。お前はそんなナーバスなやつじゃなかったろ。」

「またあの時みたいな好青年に戻れよ」


「そうそう!」

「また山田んちでテニプリとかよも!」


うっうう…

俺はバカだ。こんなに思ってくれる仲間がいて、それでレックスで散々喧嘩をふっかけて…

俺は変わろう。神様、俺は無宗教だけど今なら誓います。

これからは絶対にレックスで誹謗中傷はしません。真面目に生きていきます!




「膝…っ、治ったんだな」


「あー、医師からはさ」

「キーボードの入力操作とかでくっつくのが遅れたんだとよ」

「前診断してもらった所はヤブだった」


「えぇ…そんなことあるか?」


美奈(みな)はベンチコートに荷物を置きに行った。


「まぁでも、こうやって…っ、」

「またテニスできたし、スマホとも離れられたし俺は最高だな。」


「そうか。」

「何で悩んでたのかまだ知らないけれど、立ち直ったみたいで安心した。」


そうだ。2日前のこと。

母親がついに出張を終えてパリから帰ってきた。


「いやぁー、パリ楽しかったわ」

「お父さんもじきに帰ってくるわよ」


「うん」


もう自由な生活ができないという軽い喪失感を久しぶりに画面越しではなく実物の親に会えたという感動が掻き消していた。


「そういや、某パーカーの人もパリに住んでるんですっけ?」


「あ、あのさ…母ちゃん、相談が…」


アカウントの正体は母親だった。

ずっと前から俺のアカウントのことは気付いてたらしい。

相当まずい投稿もあったので恥ずかしいが、母によると俺のアカウントのリプライに気づいた時、最初は遊び半分で俺の喧嘩腰に付き合ってたわけだが途中でカッとなって俺の本名をリプライしてしまったらしい。

母は我に帰ってすぐその投稿を削除したが、俺は更新せずにその画面を見ていたから勘違いしてしまったようだ。

だから地下鉄のあの時も誰もネット民は俺の本名の件には触れずに俺がアンサーを返さなかったことだけを非難していたわけだ。


つまり、俺の母親はネットの俗に言う過激派フェミニストで俺の本名が公開されたというのはただの俺の勘違いだ。

まぁ親がそういう人なのはちょっとショックだけどしょうがない。割り切ろう。


なんとも無様。

だが俺は、こうやってスマホから離れてテニスを再開し、アウトドアな生活に返り咲くことができた。

ありがとう、レックス。ありがとう、お母さん。






@mina_secret

《やっと好きだった相棒が帰ってきた!今日のテニスも楽しかった!》

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