第9話 水属性は、財布を握る
結論から言うと――
回復役は、財布も握る。
これは世界の真理だと思う。
冒険者ギルドの中は、昼でも騒がしい。
依頼板。
酒場。
受付。
人の流れと、金の匂い。
(……情報、多いな)
「リクスさん、次はどうします?」
セレナが、依頼板を見上げながら聞いてくる。
「効率がいいのがいいです」
(ぶれない)
そのとき。
受付の奥から、ちょっとした騒ぎ声が聞こえた。
「……だから、足りないんです!」
「回復薬の在庫が、もう――」
(在庫切れ、は危険)
声の主は、青髪の少女だった。
落ち着いた声。
でも、目が忙しい。
服装は軽装のローブ。
胸元に、水属性の紋。
(……水)
直感が言う。
(財布だ)
「すみません!」
青髪の少女が、こちらに気づいて駆け寄ってくる。
「冒険者の方ですよね?」
「はい」
(即答)
「回復薬の補充依頼、受けていただけませんか?」
「報酬は、通常より上乗せします」
(……交渉が早い)
話を聞くとこうだ。
近郊ダンジョンで薬草不足
魔物の活動が活発化
回復役が足りない
薬師が現場に出られない
(現場が詰んでる)
「……その依頼」
セレナが、小声で言う。
「危険度、上がってません?」
「上がってます!」
青髪の少女が、即答した。
(正直)
「でも」
彼女は、真っ直ぐこちらを見る。
「このままだと、怪我人が増えます」
(責任感タイプ)
胸の奥が、軽く反応した。
(合理的だ)
魔石も落ちる
需要がある
回復役が来れば、安定する
(……仲間としても、優秀)
「条件があります」
僕は、言った。
「はい!」
(また即答)
条件は、二つ。
金銭管理は任せる
無茶はしない
「……え?」
青髪の少女は、少しだけ目を丸くした。
「お金、ですか?」
「はい」
(僕は数字が苦手)
彼女は、少し考えてから、微笑んだ。
「……得意分野です」
(やっぱり)
名前は、アクア。
水属性の回復術士。
同時に、ギルドの補給管理補佐。
(肩書き、強い)
三人で向かう、薬草地帯。
魔物は多い。
でも――
(……問題ない)
戦闘。
セレナが風で牽制。
僕が通す。
魔物、消える。
アクアは――
「……え?」
回復、不要。
(仕事、消えた)
「……あの」
アクアが、遠慮がちに聞く。
「私、何をすれば……」
(デジャヴ)
「……在庫確認、お願いします」
「はい!」
(切り替え早い)
結果。
薬草、大量確保
魔石、大量
怪我人、ゼロ
(完璧)
帰還後。
アクアは、即座に帳簿を作った。
収入
支出
次回補充
予備金
(……有能)
「リクスさん」
アクアが、帳簿を差し出す。
「このペースなら、拠点を持った方が安定します」
(来た)
「倉庫があれば、補給が楽です」
「回復拠点があれば、依頼単価が上がります」
「人が集まります」
(……街の種)
胸の奥が、はっきり肯定した。
(次の段階だ)
その夜。
地下観測室。
水晶に、新しい文字が浮かぶ。
《異常記録》
連結個体:水属性
機能拡張:回復・資源循環
経済影響:高
「……財布、来たな」
僕は、三人分の登録証を並べて見た。
風。
水。
(僕)
(……次は、土か火)
拠点を作るなら、
土地と建設が要る。
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