第8話 助けたら、仲間が増えました
結論から言うと――
見なかったことには、できなかった。
ダンジョンの通路は、少しだけ広い。
逃げ場は、ほぼない。
壁際に追い詰められているのは、
銀髪の少女。軽装。息が荒い。
囲んでいるのは、三人。
装備は冒険者風だけど、
視線が――嫌な種類だ。
「観念しろ」
「風術士だろ? 希少なんだよ」
「売れば――」
(あ、駄目だこれ)
台詞が出揃った時点で、
“イベント確定”である。
少女と、目が合った。
一瞬だけ、迷いが走る。
(助けたら、絶対面倒が増える)
(助けなかったら、寝覚めが悪い)
――通す。
迷いは、通過して消えた。
僕は、何の前触れもなく前に出た。
「……その人、放した方がいいと思います」
三人が、同時に振り向く。
「は?」
「誰だ、お前」
「ガキが首突っ込むな」
(テンプレだ)
一人が、剣を抜いた。
「消えろ」
(了解)
押さない。
溜めない。
繋ぐ。
剣を振るう“前”と、
振り終わった“後”。
その間を、繋いで外した。
――次の瞬間。
剣は、床に刺さっていた。
「……?」
本人が、何が起きたか理解する前に。
――通す。
空気が、刃になる。
風属性の“彼女”じゃない。
僕の方だ。
三人は、同時に倒れた。
気絶。
生存。
必要十分。
静寂。
少女が、目をぱちぱちさせている。
「……え?」
(うん、その反応が普通)
「大丈夫ですか」
僕は、距離を保って声をかけた。
(近づくと、警戒される)
「……は、はい」
「怪我は?」
「……少しだけ」
(致命傷じゃない)
彼女は、深く頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございます」
「……どういたしまして」
(礼儀正しい。育ちがいい)
名前は、セレナ。
風属性の術士。
ソロで潜っていたら、絡まれたらしい。
(希少職、狙われがち問題)
「……あの」
セレナが、遠慮がちに聞いてきた。
「あなたは……」
(名乗る場面、来た)
「リクスです」
「……冒険者、ですか?」
「一応」
(仮だけど)
沈黙。
彼女は、さっき倒れた三人を見る。
「……強い、ですね」
(基準が分からない)
「……普通です」
(僕基準)
しばらく歩く。
一人より、二人の方が静かだ。
(気まずさ、分散)
「……あの」
セレナが、再び口を開く。
「もし、よければ……」
(来た)
「一緒に、潜りませんか」
(来ちゃった)
理由は、分かる。
ソロは危険
僕が異常
安全そう
合理的。
(でも、パーティ……)
(責任、増える)
胸の奥が、少し反応する。
(拒否は、合理的じゃない)
(この子、役に立つ)
(……いや、それ言い方)
「条件があります」
「はい!」
(即答)
条件は、三つ。
無理はしない
僕のやり方に口出ししない
面倒事は、基本避ける
「……はい!」
(全部、飲んだ)
その瞬間。
“繋がった”。
魔力じゃない。
役割。
前衛:不要
中衛:不要
後衛:風術士
(……構成、歪んでる)
最初の連携。
魔物出現。
セレナが、風刃を放つ――前。
(待つ必要、ない)
僕が通す。
魔物、消失。
「……?」
セレナ、詠唱途中で止まる。
「……あれ?」
(慣れてください)
数分後。
セレナが、ぽつりと言った。
「……あの」
「はい」
「私、何をすればいいんでしょう」
(それ、僕も思ってた)
少し考えて、答えた。
「……周囲警戒、で」
「はい!」
(元気)
ダンジョン浅層、制圧。
魔石、山。
収納。
(……効率、悪くない)
出口。
セレナが、深く頭を下げた。
「今日は、本当にありがとうございました」
「こちらこそ」
(実質、何もしてないけど)
少し間を置いて。
「……これからも、ご一緒しても?」
(やっぱり来た)
胸の奥が、軽くなる。
(……まあ、いいか)
「はい」
その一言で。
パーティが、成立した。
その夜。
地下観測室。
水晶が、新しい項目を吐き出す。
《異常記録》
外部連結:個体増加
同調率:高
影響:拡張中
「……一人じゃ、済まなくなったな」
僕は、まだ知らない。
この“風”が、
後に物流・通信・軍制改革の中核になることを。
ただ分かるのは。
(……仲間、増えるな)
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