第7話 学生だけど、冒険者になります
結論から言うと――
止められた。
ものすごく、全力で。
「駄目だ」
実技主任は、即答だった。
「フェルド。君は学生だ。しかも――」
言葉を選んでいるのが、逆に怖い。
「……危険物だ」
(物扱い)
「いや、正確には“危険現象”だ」
(悪化してる)
場所は、学園の会議室。
主任、副主任、研究担当、護衛教官まで勢ぞろい。
完全に対・フェルド会議。
「冒険者登録など、前例がない」
「制御不能の能力を外に出すなど」
「国家案件になる可能性が――」
(もうなってません?)
僕は、黙って聞いていた。
反論は簡単だ。
でも、反論すると長引く。
(早く終わらせたい)
「質問、いいですか」
全員が、ぴたりと止まる。
(あ、しまった。目立った)
「冒険者って……」
僕は、純粋な疑問を口にした。
「自己責任ですよね?」
「……そうだが」
「危険地帯に行って、魔物を倒して、素材を持ち帰る」
「……そうだ」
「学園より、自由ですよね?」
沈黙。
(あ、刺さった)
「それに」
僕は、続けた。
「学園にいる方が、危険じゃないですか」
「……何?」
「結界が多くて、魔力が詰まってる」
「人も多い」
「僕が“通す”と、影響範囲が広がる」
全員が、顔をしかめた。
(ほら)
「外なら」
僕は、静かに言った。
「何か起きても、被害は少ない」
「……」
「冒険者なら、何が起きても“仕様”です」
(便利な言葉だよね、仕様)
長い沈黙の後。
副主任が、観念したように言った。
「……条件付きだ」
(来た)
条件は、三つ。
学園籍は残す(完全放逐はまずい)
指定ダンジョンのみ(当面)
定期報告(監視)
(思ったより、緩い)
たぶん、囲っておきたいんだと思う。
(逃げる気は、今のところないし)
冒険者ギルド。
木と石でできた、実務的な建物。
受付のお姉さんが、書類を見て首をかしげた。
「……学生?」
「はい」
「……推薦状、学園?」
「はい」
「……条件付き?」
「はい」
(説明が多い)
「魔力測定、しますね」
(またゼロだ)
水晶に手を置く。
――沈黙。
「……え?」
受付のお姉さんが、叩く。
(叩かないで)
「……反応、なし?」
「……はい」
(いつもの)
「職業希望は?」
「……冒険者で」
「戦闘職? 支援職?」
(どっちだろ)
「……効率重視で」
「……?」
(通じなかった)
結果。
職業欄は、仮登録・未分類。
(便利)
登録証が渡された。
木札に、名前。
リクス・フェルド
(……あ、今さらだけど)
(名乗る場面、増えそうだな)
初仕事は、
学園指定ダンジョンの浅層ソロ許可。
主任が、最後に言った。
「……絶対に、無茶をするな」
(無茶の基準が分からない)
ダンジョン入口。
一人。
静か。
(……落ち着く)
結界も、人も、ない。
(あ、楽)
魔物が出る。
分かる。
鑑定。
通す。
消える。
魔石、収納。
(……快適)
(これ、仕事だ)
そのとき。
奥から、人の気配。
(……?)
学生実習じゃない。
冒険者?
声が聞こえる。
「……囲め!」
「逃がすな!」
(あ、これ)
(トラブルの匂い)
僕は、少しだけ考えた。
(関わらない、が最適)
(でも……)
視界に入ったのは、
壁際に追い詰められた、銀髪の少女。
属性反応――風。
(きれいな人だ)
直感が、そう言った。
(……面倒だけど)
(通すか)
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