第57話 通界では、それ要らない
通界に来て、三日目。
リディアは、
ある決定的な事実に気づいていた。
「……書類が、ない」
正確には――
存在は、する。
だが、
誰も重要視していなかった。
まず、受付が雑
港の管理所。
「入港申請を——」
と言いかけたところで。
「はいはい」
係の青年は、
書類を見る前に頷いた。
「船長は?」
「彼です」
「積み荷は?」
「魚と、魔物の殻と……」
「よく分からない石です」
「危険物?」
「多分」
「じゃあ」
「奥に停めて」
「……確認しないんですか?」
青年は、首を傾げる。
「沈まなきゃ、OK」
リディアの思考が、止まった。
市場でも同じ
露店で。
「この宝石は」
「どこから来たんですか?」
商人は、少し考え。
「ああ?」
首を傾げる。
「ダンジョン」
「……どの層ですか?」
「下の方」
「鑑定は?」
「光った」
「税の申告は?」
商人は、腕を組み。
「あー……」
一拍。
「儲かったら」
「酒、奢る」
それで、終わり。
我慢できず、聞く
リディアは、
ついに耐えきれなくなった。
「すみません」
近くにいたフレイに声をかける。
「通界には……」
「?」
「決まり事は」
「ないんですか?」
フレイは、真顔で答えた。
「あるよ」
「本当ですか!」
「死なない」
「……」
「街を燃やさない」
「……」
「仲間を売らない」
「…………」
「以上」
リディアは、
その場で、ゆっくりしゃがみ込んだ。
リクスの追撃
「困ってる?」
リクスが、
何食わぬ顔で聞いてくる。
「正直に言います」
「うん」
「通界は……」
一拍。
「行政が存在しない街です」
「あるよ」
「どこに!?」
リクスは、
周囲をぐるりと指した。
「人」
「……」
「困ったら」
「分かってる人が動く」
「問題が出たら」
「止める人が止める」
「それで?」
「大体、解決する」
リディアは、
両手で頭を抱えた。
王都基準で考えた結果
(もし、これを王都に導入したら……)
初日:混乱
二日目:会議
三日目:責任追及
四日目:制度化
五日目:破綻
(……無理だ)
冒険者の一言がトドメ
港で。
鎧姿の冒険者が、
当たり前のように言った。
「書類?」
「書いてる間に」
「魔物、来るだろ」
「だから?」
「倒してから、考える」
リディアは、
静かに天を仰いだ。
「……合理的」
「すぎます」
夜の結論
宿で。
リディアは、
小さなメモ帳を開いていた。
《通界覚書》
事後対応が異常に早い
権限が分散している
判断は常に現場基準
書類は信用されていない
「……怖い街ですね」
フレイが、楽しそうに笑う。
「でしょ?」
「でも」
リディアは、ペンを置いた。
「嫌いじゃない」
小さなオチ
翌朝。
港の掲示板に、
新しい貼り紙が出ていた。
【注意】
最近、
王都の人が
考え込みすぎています
見かけたら、
声をかけてあげてください
リディアは、
その前で立ち尽くし。
「……私ですね」
小さく、呟いた。
通界の人々は、
今日も変わらず、平和だった。
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