第55話 置いていかれる側
王都への帰路は、重かった。
馬車の揺れは穏やかだ。
舗装も良い。
警護も万全。
それでも、
空気だけが張りつめていた。
帰路の報告
「……以上が、本日の接触報告です」
年配の官僚が、
書類を揃えながら淡々と告げる。
「通界は、国家ではありません」
「しかし」
「国家機能の一部を、複数満たしています」
誰も、反論しなかった。
問題は、
そこから先だった。
王都・非公式会議
帰還後すぐ、
非公式の会議が招集された。
参加者は、最小限。
王。
軍務担当。
財務官。
文官局代表。
そして――
リディア。
表向きの議題は存在しない。
結論を探るための会議だった。
割れる意見
「危険だ」
軍務担当が、即断する。
「軍を持たず」
「法も持たず」
「それでいて、国家規模の資源を握っている」
拳が、机を叩く。
「管理できないものは、脅威だ」
「だが」
財務官が、渋い顔で続けた。
「通界を切れば——」
一拍。
「食料と資源の“保険”が消える」
沈黙。
誰も、それを否定できなかった。
王の一言
「……つまり」
王が、低く、ゆっくり言う。
「攻められない」
「従わせられない」
「だが」
視線が一巡する。
「無視も、できない」
自然と、
リディアに視線が集まった。
リディアの報告
「通界は」
彼女は、感情を挟まない。
「交渉の場ではありません」
「条件提示も」
「要求も」
「してきません」
軍務担当が、眉を寄せる。
「それは、ただの無責任では?」
「いいえ」
即答だった。
「選択を、こちらに委ねているのです」
空気が、変わった。
一番怖い点
「通界は」
リディアは、言葉を選ぶ。
「人を縛りません」
「属国にも」
「同盟にも」
「組み込みません」
それでも――
「人が、集まります」
財務官が、低く唸る。
「逃げ道があるから、か」
「はい」
リディアは、頷いた。
「責任を取らされない場所に」
「人は、集まる」
それは、
王都が最も恐れる性質だった。
王都の恐怖
「……では」
軍務担当が、言葉を探す。
「我々は」
「どうすればいい?」
すぐには、答えが出なかった。
沈黙の中で、
リディアが口を開く。
「遅れないことです」
「遅れる?」
「通界は」
「こちらを待ってくれません」
「理解する前に」
「世界が、通界基準で動きます」
誰も、反論できなかった。
リディアの個人的判断
会議の終盤。
王が、ふと問いかける。
「リディア」
「はい」
「お前は」
「どう思った?」
少しだけ、間が空く。
「……正直に申し上げます」
王は、静かに頷いた。
「通界は」
一拍。
「支配できない場所です」
だが――
「信頼する価値は、あります」
目を伏せ、
そして、上げる。
室内が、
完全に静まり返った。
非公式の決定
「分かった」
王は、短く言った。
「通界との関係は」
「お前に一任する」
軍務担当が、息を呑む。
「陛下、それは——」
「責任は」
「私が取る」
声は、揺れなかった。
「リディア」
「はい」
「通界に、もう一度行け」
それは、
命令ではない。
期待だった。
リディアの夜
自室に戻り、
リディアは窓を開けた。
夜風が、
王都の匂いを運ぶ。
「……戻る、か」
通界の空気を思い出す。
肩書きを外して話せた場所。
役職を忘れられた時間。
「……危険だな」
小さく、笑う。
「人として扱われるのは」
小さなドーン(確定)
この日。
王都は、
結論を出せなかった。
だが。
一人だけ、
通界へ踏み込む役を決めた。
それが、
後に世界を変える判断だった。
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