第5話 お金、軽くならないかなと思ったら
魔石が、増えすぎた。
正確には――
一晩で増えた。
(いや、倒してないよ?)
ベッドの横に置いた袋。
昨日の校外実習で回収した分だけのはずなのに、
なぜか中身が倍くらいある。
(……あれ?)
取り出して数えてみる。
一個。
二個。
三個――
(増えてる)
減ってない。
増えてる。
(え、これ、繁殖するの?)
一瞬、本気でそう思った。
冷静になろう。
(たぶん……)
昨日、収納したまま、
仕分けされてなかった分が表に出てきてる。
そう考えると辻褄が合う。
(合うけど、怖い)
「フェルド!」
朝食の席で、実技主任が僕を呼んだ。
「今日、街へ行く。魔石の換金だ」
(来た)
「君の分もな」
(来ちゃった)
学園指定の換金所。
冒険者ギルドと提携している、
いかにも“お金扱ってます”って建物だ。
受付のお姉さんが、にこやかに言った。
「魔石の種類をこちらへ」
僕は、袋を差し出した。
「……全部です」
「はい、では確認を――」
次の瞬間。
お姉さんの表情が、止まった。
「……?」
袋を覗いて、
もう一度僕を見る。
袋を見る。
僕を見る。
「……数、合ってます?」
(その顔、やめてほしい)
「合ってると思います」
「……では、計測しますね」
魔石を台に出す。
カラカラ、カラカラ、カラ――
(あ、止まらない)
主任が、横で咳払いした。
「……フェルド、昨日は何体倒した?」
「……正確には覚えてません」
(通しただけなので)
計測が終わる。
お姉さんが、深呼吸した。
「合計……銀貨、三十七枚分です」
「……?」
主任が固まった。
「低危険地帯だぞ?」
「はい」
「新人実習だぞ?」
「はい」
「……おかしいだろ」
(僕もそう思う)
支払われた銀貨は、ずっしり重かった。
(……重い)
正直な感想、それだけ。
(これ、全部持ち歩くの?)
(魔石は軽いのに、なんでお金は重いんだ)
その瞬間。
頭に、はっきりした思考が浮かぶ。
(……お金も、軽くならないかな)
消えた。
「……え?」
主任が、目を見開いた。
「今……」
銀貨が、僕の手から消えた。
(あ、これ)
(収納だ)
でも、昨日より明確だ。
(魔石だけじゃない)
(“価値あるもの”をしまえてる)
「フェルド!」
主任が声を荒げる。
「今、どこにやった!」
「……しまいました」
「どこに!」
(説明、難しいな)
「……僕の中、です」
主任は、頭を抱えた。
宿舎に戻って、試す。
銀貨を出す。
金貨に替えて、出す。
まとめて、出す。
(……重さ、ゼロ)
(触ってるのに、重くない)
(これ、反則では?)
その夜。
収納の“感覚”が、はっきりしてきた。
種類ごとに分かれる
価値が高い順に並ぶ
破損しない
数が分かる
(……在庫管理が完璧)
(商人泣くでしょ、これ)
地下観測室。
水晶が、もう諦めたように光っている。
《異常記録》
収納:対象拡張
判定基準:価値・所有権
重量影響:無効化
「……盗難対策が完璧すぎる」
「経済が壊れるな」
僕は、布団に潜り込みながら思った。
(これ、冒険者向きすぎない?)
倒す
魔石が落ちる
収納する
重さゼロ
換金しても重さゼロ
(……歩くのが一番のコストでは?)
その考えが浮かんだ瞬間、
胸の奥が、じわっと反応した。
(あ)
(また、来る)
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