第48話 戻る者と、動かす者
港湾都市の朝は、変わらない。
魚は生で並び、
船は定刻に出て、
市場はいつも通り賑わっている。
昨日、通界へ向けて“生の魚”が初めて出荷されたことを、
街のほとんどはまだ知らない。
知る必要がないからだ。
変わったのは、街の外
「……数、増えてますね」
通界の執務室で、ミレイが帳簿を見ながら言った。
「エルディア発の流通量、
予想の一・五倍」
「食い物は強い」
リクスは、あっさり言う。
「生だと、
人が集まる」
事実だった。
滞在者が増え、
冒険者の回復が早まり、
結果として、通界の回転が上がる。
街を落とさずに、影響だけが届いている。
ミレイの違和感
ミレイは、しばらく黙ってから言った。
「……ここ、
誰も“変われ”って言ってない」
「言ってないな」
リクスは頷く。
「必要ないから」
「でも」
ミレイは、資料を閉じる。
「外は、変わらざるを得ない」
エルディアは完成している。
だが、その完成度が、
他の都市との差を浮き彫りにしてしまう。
「……私、戻ります」
唐突だが、迷いのない声だった。
戻る理由
「学園?」
フレイが確認する。
「ええ」
「嫌われるぞ」
「知ってます」
即答。
「でも、
今のままだと“知らないまま取り残される”」
それが、ミレイの一番嫌う状況だった。
「通界式を広めたい?」
「いいえ」
首を振る。
「選択肢を増やしたい」
それだけだった。
リクスの反応
「止めないの?」
アクアが、リクスに聞く。
「止める理由がない」
「危ないよ」
「危ないことは、
起きてから止める」
いつも通りの答えだった。
だが、少しだけ付け加える。
「……戻るなら」
「?」
「一人で背負うな」
ミレイは、小さく笑った。
「努力します」
努力でどうにもならないと、
お互い分かっていながら。
動く者、残る者
数日後。
ミレイは、学園へ向かった。
通界には、
・フレイ(現場統括)
・アクア(経済・流通)
・セレナ(制御・調整)
・研修生たち(運用)
が残る。
誰も欠けていないようで、
確実に一人、欠けた。
「……静かになったな」
カイルが言う。
「その分、
外がうるさくなる」
フレイの言葉は、予感だった。
学園の門前で
一方。
学園の門をくぐりながら、
ミレイは深く息を吸った。
「……変わってない」
だからこそ、変える必要がある。
彼女は知っている。
外ではもう、
・生の魚が届き
・判断で街が回り
・名前のない圏域が広がっている
それを知らない場所に、
言葉を持ち込む役目。
それが、自分だ。
通界は、待たない
その夜。
通界では、いつも通り食堂が賑わっていた。
「今日の魚、エルディア産だって」
「刺身?」
「刺身」
そんな会話が、当たり前になる。
誰も、
これが“変化の始まり”だとは思っていない。
だが。
変化は、もう戻らない。
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