第47話 完成された港と、最高のごちそう
――港湾都市
港湾都市は、完成していた。
潮の流れを計算し尽くした防波堤。
海路と川路を無理なくつなぐ水門。
市場には、朝獲れの魚が当たり前の顔で並んでいる。
「……いいな、この街」
リクスは、心からそう言った。
「生臭くない。
うるさくない。
でも、ちゃんと海の匂いがする」
港湾長は、誇らしげに頷く。
「港町として、百点です」
それは社交辞令ではなかった。
エルディアでは美味しい魚介が並ぶ
昼。
市場の屋台で、リクスは普通に刺身を食べていた。
「……美味い」
「そりゃそうだ」
店主が笑う。
「港町だぞ?
生で食わない理由がない」
周囲を見れば、
刺身
軽く炙っただけの魚
浜焼の貝
が当たり前のように並んでいる。
ただ一つの“諦め”
「でも」
港湾長が、少しだけ声を落とす。
「通界まで出すとなると、
どうしても干物になります」
「距離か」
リクスが言う。
「ええ。
転移は高い。
街道は時間がかかる」
アクアが、静かに数字を弾く。
「生で運ぶと、
価値より損失が上回りますね」
「つまり」
フレイがまとめる。
「エルディアは悪くない」
「ええ」
港湾長は即答した。
「ただ、遠いだけです」
海が、答えを出す
その夜。
沖合が、騒いだ。
「……魔物です!」
「海魔獣が、港に近づいています!」
現れたのは、
巨大な深海魔物――
《アビサル・マロウ》。
脅威ではあるが、
港を壊すほどではない。
だが。
「……あれ」
リクスが、目を輝かせる。
「脂、のってそうだな」
フレイも、同感だった。
ドーン(でも、軽め)
戦闘は短かった。
セレナが動きを止め、
カイルが注意を引き、
リクスが一撃。
海は荒れず、
港も無傷。
「……倒しましたね」
「うん」
リクスは頷いた。
「最高の食材を獲ったぞ」
発想は、単純だった
翌朝。
港の一角で、
リクスは魔物の魔石を見ながら言った。
「生で運べない理由は?」
「劣化です」
港湾長が答える。
「じゃあ」
リクスは、あっさり言った。
「劣化を遅らせればいい」
一瞬の沈黙。
アクアが、ゆっくり理解する。
「完全保存ではなく、
“通界に届くまで”だけですね」
「そう」
ミレイが続ける。
「短時間の鮮度維持結界を
魔石に組み込めば……」
「コスト、合います」
アクアが、即答した。
生が、通界へ行く
試験輸送は、その日のうちだった。
氷ではない。
塩でもない。
鮮度だけを止める簡易魔法。
結果。
「……」
通界の食堂で、
誰も言葉を発しなかった。
そして。
「……これ、エルディアの?」
「今朝、泳いでました」
次の瞬間、歓声が上がる。
豊かになる、ということ
通界に変化が起きた。
食堂の質が上がる
冒険者の回復が早くなる
滞在者が増える
誰も「革命だ」とは言わない。
ただ。
「……ここ、住みやすくなったな」
その一言が、すべてだった。
エルディアは、何も失っていない
港湾長は、穏やかに言った。
「街は、変わりません」
「変えなくていい」
リクスが答える。
「いいものを、遠くに届けただけだ」
エルディアは完成した街のまま。
通界だけが、
一段、豊かになった。
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