第44話 数字が先に、答えを出す
最初に異変に気づいたのは、商人だった。
「……おかしい」
彼は、帳簿を何度も見返した。
交易都市を経由した魔石取引。
数量は増えている。
品質も安定している。
――だが。
「利益率が、上がっている?」
理由が、分からない。
税率は変わっていない。
港湾使用料も同じだ。
人件費も、むしろ増えている。
それでも、数字が合う。
「……流れが、短い」
彼は、ようやく気づいた。
無駄が、消えている。
冒険者ギルド中央
「報告です」
書類が、机に積まれる。
ダンジョン事故率:低下
魔石供給量:安定増加
冒険者離脱率:減少
「……原因は?」
幹部が、眉をひそめる。
「特定できません」
「ふざけるな」
「ただし」
一枚、別の紙が差し出される。
「全ての報告に、
同じ地名が出ています」
そこに書かれていたのは。
――通界。
室内が、静まり返った。
学園の資料室
学園長は、報告書を閉じた。
ミレイの名前が、そこにある。
「……理論ではなく、運用」
呟く。
「教えていないことを、
向こうは“やっている”」
学園長は、窓の外を見る。
学園の塔の向こう。
遠く、通界の方角。
「……遅れたな」
それが、正直な感想だった。
小国家の財務局
「これは……」
役人が、資料をめくる手を止める。
「一都市の数字ではありません」
並んだ数値。
魔石流通量:三都市合算以上
交易回転率:国家平均の一・五倍
治安関連支出:減少
「国境を越えている?」
「いえ」
補佐官が答える。
「国境を使っていません」
沈黙。
「……つまり」
「はい」
補佐官は、言葉を選ぶ。
「国境が、意味を失っています」
数字が示すもの
どの資料にも、共通点があった。
命令がない
統治者がいない
だが、止まらない
人は、増えている。
金も、動いている。
事故は、減っている。
理由が、見当たらない。
だが、数字は嘘をつかない。
会議室の結論
「……呼ぶべきか?」
誰かが言う。
「誰を?」
答えが、出ない。
王はいない。
長もいない。
代表も、いない。
それでも。
「中心は、ある」
別の者が、低く言った。
「通界だ」
誰も、否定しなかった。
通界の外
港は、今日も動いている。
帳簿を付ける者。
荷を運ぶ者。
判断する者。
誰も、国を作っているつもりはない。
だが。
数字は、もう結論を出していた。
これは、一都市ではない。
これは、同盟でもない。
名前がないだけで、
機能は揃っている。
静かなドーン
翌朝。
各所に、同じ言葉が並んだ。
「通界圏」
誰が言い出したのかは、分からない。
だが、その呼び名は、
あっという間に広がった。
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