第41話 鉱山都市《グラド》、最初の仕事
都市は、灰色だった。
岩肌を削ったような城壁。
空気に混じる金属の匂い。
行き交う人々の表情は、硬い。
「……鉱山都市って、もっと活気があると思ってた」
エナが、思わず呟く。
「出ていく一方だからな」
フレイが短く答えた。
今回の派遣メンバーは五人。
フレイ(現地責任者)
カイル(前線・現場補助)
ロウ(物流・観察)
エナ(支援)
ミレイ(理論・記録)
リクスはいない。
それが、この派遣の前提だった。
問題は、もう起きている
「魔石の採掘量が、落ちています」
グラドの監督官が、渋い顔で説明する。
「理由は?」
「分からん」
即答だった。
「魔物の数は変わらない。
坑道も同じ。
だが、事故だけが増えている」
ミレイが、即座にメモを取る。
「……魔力濃度の偏り?」
「何度も調べた」
「数値は?」
「正常だ」
フレイは、一度坑道の入口を見た。
「……中、案内してもらえる?」
坑道の違和感
中は、息苦しかった。
魔力が、淀んでいる。
「……重い」
カイルが、剣を握り直す。
「敵が強いわけじゃない」
ミレイが言う。
「環境が、疲れさせてる」
その言葉に、全員が頷いた。
学園ダンジョンと同じだ。
抑え込みすぎて、壊れかけている。
フレイの判断
「掘削、止める」
フレイが言った。
「は?」
監督官が声を荒げる。
「止めたら、街が回らん!」
「今も、回ってない」
即答。
「事故が増えている時点で、
もう止まっている」
監督官は、歯噛みする。
「……責任は?」
「通界が持つ」
フレイは、迷わなかった。
「私が、持つ」
研修生たちの仕事
「カイル」
「はい」
「魔物の動線を洗い出せ」
「了解」
「ロウ」
「はい」
「魔石の仕分けルートを全部見直せ」
「分かりました」
「エナ」
「……私も、何か」
「支援だ」
フレイは、きっぱり言う。
「人だ。
坑夫を見ろ」
エナは、はっとした。
何も派手なことはしない
結界を張り替えたわけでもない。
魔法で地形を変えたわけでもない。
やったことは、三つだけ。
魔力の逃げ道を作る
掘削の順番を変える
休憩と交代を入れる
ミレイが、呆然と呟く。
「……理論、合ってる」
「でも、学園じゃ誰もやらなかった」
フレイは、淡々と言う。
「やる理由がなかったからだ」
小さなドーン
三日後。
坑道の空気は、明らかに変わっていた。
「……事故、ゼロです」
監督官の声は、信じられないものを見るようだった。
「採掘量は?」
ロウが即座に答える。
「戻っています。
いえ……以前より、安定して増えています」
魔石の品質も揃っている。
無理な掘削は減り、
人の顔色も良くなった。
ミレイは、坑道の壁に手を当てながら呟く。
「……理論通りです」
「でも」
小さく息を吐く。
「ここに“私たち”がいなくても、回ります」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
フレイの判断
「……よし」
フレイが、短く言った。
「通界に戻る」
監督官が、思わず身を乗り出す。
「え?
もう、ですか?」
「ええ」
フレイは迷わない。
「この街は、もう“現場対応”の段階じゃない」
視線を研修生たちに向ける。
「運用フェーズに入ってる」
残る者
「……誰か、残る必要がありますね」
ミレイが言う。
「記録と調整を続けないと、
元に戻る可能性がある」
フレイは頷いた。
「残るのは、二人までだ」
一瞬の沈黙。
最初に口を開いたのは、ロウだった。
「俺、残ります」
「理由は?」
「商流が見えた」
即答だった。
「ここは、通界と繋がって初めて意味が出る。
その“窓口”が必要です」
監督官が、驚いた顔をする。
「……本当に、研修生か?」
ロウは、軽く笑った。
「元・研修生です」
もう一人
「……私も」
次に手を挙げたのは、エナだった。
フレイが、少しだけ意外そうな顔をする。
「理由は?」
エナは、俯きながら答える。
「ここ、支援が足りません」
「魔法じゃない」
一拍。
「人を支える役です」
坑夫たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
フレイは、静かに言った。
「……分かった」
帰還組
残るのは、
フレイ
カイル
ミレイ
カイルは、悔しそうに拳を握る。
「……俺、残った方がいい気が」
「違う」
フレイが即座に切る。
「次は、別の街だ」
視線が鋭くなる。
「同じ問題が、別の形で起きている」
カイルは、ゆっくり頷いた。
「……行きます」
通界への報告
夜。
通信結晶が光る。
『グラド、安定化完了』
『ロウ、エナを現地常駐に』
『次、動ける』
少し間を置いて、返事が来る。
『了解』
リクスからの短い一文。
『次は、金の街だ』
別れ際
翌朝。
フレイは、ロウとエナに言った。
「判断に迷ったら、通界基準を使え」
「はい」
「それでも分からなければ?」
エナが、少し考えて答える。
「……無理をしない」
フレイは、わずかに笑った。
「正解だ」
都市には、
通界の旗も、命令書も残らなかった。
残ったのは――
仕組み
判断できる人間
繋がった流通
それだけだ。
だが、それで十分だった。
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