第38話 学ぶ場所は、選べる
最初に動いたのは、三年生だった。
「……通界って、研修先として選べますか?」
進路相談室で、その質問が出た瞬間、
教官の手が止まった。
「理由は?」
「学園で学べることは、学びました」
言い切りだった。
反抗でも、虚勢でもない。
事実を整理しただけの声だった。
波紋
その日のうちに、話は広がった。
「外部研修って、冒険者ギルドだけじゃないんだ」
「通界、実績あるらしいぞ」
「ダンジョンも、街も、回してるって」
噂は、盛られていない。
むしろ控えめだった。
通界という名前よりも、
そこにいる人物の名前が先に出る。
「……リクス、だろ?」
「うん。あの人」
それだけで、通じる。
教官たちの葛藤
「止めるべきでしょうか」
職員室で、若い教官が言う。
「学園の権威が揺らぎます」
「揺らいでいるのは、権威じゃない」
老教官が、静かに返した。
「基準だ」
若い教官が黙る。
「今の生徒は、言葉より結果を見る。
そして結果は……」
誰も、続きを言わなかった。
全員が、知っている。
面談
リクスは、学園長に呼ばれていた。
「……勧誘は、していないな?」
学園長の問いに、リクスは即答した。
「していません」
「だが、集まり始めている」
「彼らが選んでいるだけです」
一拍。
「学ぶ場所を」
学園長は、ゆっくりと息を吐いた。
「昔は、学園が“与える側”だった」
「今も、そうです」
「……“唯一”ではなくなった」
それが、問題の本質だった。
生徒とリクス
中庭で、一年生が声をかけてきた。
「リクスさん」
「どうした?」
「通界って……怖くないんですか?」
少しだけ考えてから、リクスは答える。
「怖いよ」
「それでも、行く人がいるのは?」
「戻れるからだ」
生徒は、首をかしげる。
「逃げ、ですか?」
「違う」
リクスは、首を振った。
「失敗しても、終わらない場所だ」
その言葉に、生徒の表情が変わった。
不安から、希望へ。
学園の決断
学園長は、正式に告げた。
「通界研修を、
選択制として認める」
小さなざわめき。
「強制はしない」
「評価にも直結させない」
それは、学園が
“手放す”決断だった。
責任の所在
「……責任は、どこが持つ?」
教官の問いに、リクスが答える。
「通界側です」
「学園には?」
「持たせません」
即答だった。
「学ぶ機会を奪わない代わりに、
守る責任はこちらが持つ」
それ以上、言葉はいらなかった。
選択の始まり
夕方。
掲示板の前に、生徒が集まる。
「研修希望者、名前を書くんだって」
「期間限定らしい」
「……行ってみたい」
誰も、煽らない。
誰も、否定しない。
ただ、選ぶ。
リクスの視線
リクスは、学園の外を見る。
通界の方角。
「……来るな、とは言えないな」
隣で、セレナが肩をすくめる。
「言ったら怒るよ」
「だろうな」
リクスは、静かに続けた。
「でも」
一拍。
「来たなら、守る」
それは、約束ではない。
役割だった。
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