第37話 風は、もう学園に収まらない
(セレナ視点)
正直に言うと。
――暇だった。
「……ねえ」
私は、校舎の中庭でベンチに座りながら言った。
「今日、私たち何もしてなくない?」
「してるだろ」
彼(通界の人)が、あっさり返す。
「存在してるだけで、空気変わってる」
「それ、仕事じゃないよ」
「仕事だ」
即答だった。
むかつくくらい自然に言う。
学園の日常(でも違う)
中庭を見渡す。
生徒たちが、普通に歩いている。
普通に話している。
普通に魔法の練習をしている。
でも――
「視線、多くない?」
「多いな」
「見てるよね?」
「見てる」
しかも、遠慮がち。
前は、違った。
もっと露骨で、
もっと刺々しくて、
もっと「比べてくる」感じだった。
「ねえ」
私は、少しだけ声を落とす。
「この学園、変わったよね」
「……いや」
彼は、少し考えてから言った。
「変わったのは、俺たちだ」
それが、地味に刺さった。
生徒との距離
「セレナさん!」
声をかけられて振り向くと、
見覚えのない一年生が立っていた。
「はい?」
「さっきの演習……すごかったです!」
「え、私、何もしてないけど」
「立ってただけなのに、
安心感が違いました!」
なにそれ。
どう返せばいいのか分からず、
とりあえず笑っておく。
「……ありがとう?」
生徒は、満足そうに走っていった。
私は、隣を見る。
「ねえ」
「ん?」
「私、学園に向いてない気がする」
「今さら?」
「今さら!」
屋上にて
気づいたら、屋上にいた。
風が強い。
高い。
広い。
学園の外まで、よく見える。
「……狭かったんだな、ここ」
ぽつりと呟くと、彼が隣に来た。
「前は、十分だった」
「うん」
「でも今は?」
「……ちょっと、窮屈」
言葉にしたら、すごくしっくりきた。
セレナの本音
「ねえ」
私は、風に髪をなびかせながら言う。
「私さ」
一瞬、言葉を選ぶ。
「“強くなりたい”って思ってたけど」
「うん」
「今は」
一拍。
「“一緒に遠くに行きたい”って思ってる」
彼は、少しだけ目を細めた。
「それは、強欲だな」
「冒険者だから」
「納得」
それで終わり。
告白でもない。
約束でもない。
でも。
私は、それでよかった。
風は、どこへ行く
遠くで鐘が鳴る。
授業の合図。
でも、誰も急がない。
「……ねえ」
「ん?」
「学園、終わったらさ」
「通界に戻る」
「だよね」
私は、笑った。
「やっぱり、あっちの方が広い」
風が、強く吹いた。
学園の塔を越えて、
外へ、外へ。
まるで。
もう戻らないと、分かっているみたいに。
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