第36話 教師会議が、ざわついている
学園の会議室は、久しぶりに満席だった。
理由は一つ。
「……本日の実技演習の結果について」
主任教官が、重い声で切り出す。
誰も、すぐに口を開かなかった。
言葉にすると、
自分たちが間違っていたと認めることになるからだ。
数字が語る
「まず、数値です」
事務局が、資料を配る。
演習成功率:九割超
詠唱失敗:ゼロ
魔力枯渇:ゼロ
負傷者:ゼロ
しばらく、紙の音しかしなかった。
「……訓練用とはいえ」
若い教官が、声を絞り出す。
「これは、あり得ません」
「ええ」
主任教官が、頷く。
「昨日までは」
その一言が、刺さった。
何を変えたのか
「彼は、何をした?」
学園長が、低く問いかける。
「結界を……調整しました」
「解除ではなく?」
「流れを変えただけです」
「教え方は?」
「……変えていません」
沈黙。
それはつまり。
「我々の教え方が、邪魔をしていた」
誰かが、言葉にした。
反論が出ない理由
「だが、危険では?」
別の教官が、弱く反論する。
「安全を削っていないか?」
主任教官が、首を振った。
「逆です。
危険因子が減っています」
「なぜ?」
「生徒が、無理をしなくなった」
それは、皮肉だった。
安全のために作った仕組みが、
生徒に無理をさせていたのだから。
学園長の決断
学園長は、しばらく目を閉じていた。
やがて、静かに言う。
「……我々は」
一拍。
「教える側ではなくなった」
ざわ、と空気が動く。
「今日から、だ」
学園長は、続けた。
「彼の指示を“特例”ではなく、
基準として扱う」
「それは……」
「屈辱か?」
学園長は、教官たちを見回す。
「それとも、成長か?」
誰も、答えなかった。
だが、誰も反対しなかった。
教官の本音
会議の終わり際。
老教官が、ぽつりと言った。
「……昔は、私たちも
“通せ”と言われていました」
空気が、少しだけ和らぐ。
「いつからでしょうな。
“抑えろ”に変わったのは」
答えは、出ない。
だが、必要もなかった。
学園の更新
「正式に要請する」
学園長が、結論を告げる。
「ダンジョン管理、
実技指導、
教官向け研修」
「期間は?」
「限定」
それは、学園の最後の矜持だった。
――常設にはしない。
だが。
「学ばせてほしい」
その一言で、十分だった。
会議室の外
会議が終わり、廊下に出る。
窓の外では、生徒たちが話していた。
「今日の演習、楽しかったな」
「魔法、怖くなかった」
その声に、誰かが小さく笑った。
「……負けましたな」
老教官が言う。
主任教官は、静かに答えた。
「ええ。
良い負けです」
学園は、壊れなかった。
だがこの日、
一度、終わった。
そして同時に。
新しく、始まった。
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