第35話 実技演習が、演習にならない
最初に異変に気づいたのは、生徒だった。
「……あれ?」
詠唱を終えたはずなのに、
魔力が余っている。
「いつもなら、ここで息切れするのに……」
隣でも、似た声が上がる。
「剣、重くないぞ?」
「魔力、まだ回ってる……?」
ざわ、と小さな波が広がった。
教官の指示
「落ち着け」
教官が声を張る。
「今日は、通常の実技演習だ。
変わったことは、何も――」
そこで、言葉が詰まった。
制御盤の数値が、静かに安定している。
良すぎるくらいに。
主人公の立ち位置
俺は、壁際に立っていた。
号令も出さない。
説明もしない。
ただ、状況を見ているだけだ。
「……先生?」
一人の生徒が、恐る恐る声をかけてくる。
「何か、変えたんですか?」
俺は、首を振った。
「いいや」
一拍。
「やり方は、いつも通りでいい」
生徒たちが、困惑する。
それが、一番効く。
演習開始
「では、開始!」
号令と同時に、魔物が出現する。
低級。
数も、いつも通り。
「行くぞ!」
前衛が走り、後衛が詠唱に入る。
――が。
「……速い」
誰かが呟いた。
詠唱が、自然に短くなる。
剣の踏み込みが、深くなる。
「え、ちょっと待って」
「私、こんなに動けたっけ?」
魔物は、あっさり倒れた。
いつもより、ずっと早く。
教官の混乱
「……もう一体、出せ」
教官が、声を低くする。
二体目。
三体目。
結果は、同じだった。
「損耗率、ゼロ?」
「詠唱失敗、無し……?」
教官たちが、制御盤と現場を交互に見る。
どこにも、異常はない。
――異常なのは、結果だけだ。
生徒視点
「……これ」
一年生の一人が、ぽつりと言う。
「俺たち、強くなった?」
隣の生徒が、首を振る。
「違う。
ちゃんと、使えてる」
その言葉が、妙にしっくりきた。
一言だけの指示
俺は、ようやく口を開いた。
「いいか」
全員が、こちらを見る。
「無理に出力を上げるな」
「……え?」
「通せ」
それだけだ。
説明は、しない。
結果
次の演習。
生徒たちは、半信半疑で動いた。
魔力を溜めすぎない。
力を押し込まない。
――流す。
「……あ」
魔法が、綺麗に決まる。
剣が、止まらない。
誰も、倒れない。
静かな確信
「……演習、終了」
教官の声が、少し震えていた。
誰も、歓声を上げない。
代わりに、
静かな理解が広がっている。
今まで、自分たちは。
「出来ない」のではなく、
「邪魔されていた」のだと。
教官の一言
「……これは」
教官が、俺を見る。
「教え方の問題、ですね」
「そうだ」
俺は、即答した。
「才能の問題じゃない」
一拍。
「環境の問題だ」
生徒の視線
視線が、変わった。
尊敬でも、憧れでもない。
もっと近い。
基準が変わった時の目だ。
実技演習は、終わった。
だが、この日。
学園の中で、
「普通」の定義が、書き換えられた。
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