第31話 呼ばれる側になった
川港の拡張が一段落した、その日の夕方だった。
「……また、来てますね」
アクアが、机の端に置かれた封書を指さす。
封蝋は三つ。
どれも、見覚えのある紋章だった。
「一気に?」
「はい」
彼女は淡々と読み上げる。
商業都市連合
冒険者ギルド中央
そして――学園
最後の名前に、場の空気が少し変わる。
立場の変化
「……懐かしいな」
セレナが軽く言う。
「前は、呼ばれたら怒られる場所だった」
「今は?」
フレイが短く聞く。
「“来ていただけませんか”だね」
俺は、封書を手に取った。
文面は丁寧だった。
妙に丁寧すぎるくらいに。
貴殿の知見を、
学園運営および実技教育において
一時的にお借りしたく――
「借りる、か」
ノクスが鼻で笑う。
「ずいぶん低く出ましたね」
なぜ、今なのか
アクアが、別の書類を重ねる。
「時期が一致しています」
「何と?」
「川港拡張の情報。
それから、都市運営の噂」
つまり。
「街を見て、呼んだ」
「はい」
ルミナが、静かに言う。
「魔法や戦力ではなく……
“仕組み”を、ですね」
「そうだろうな」
学園は、教える場所だ。
だが同時に、
世界の常識を保存する場所でもある。
その常識が、今――揺れている。
行ける理由
「……で」
セレナが、俺を見る。
「行くの?」
少し前なら、答えは違った。
だが今は。
俺は、窓の外を一度見てから言った。
「行ける」
「即答?」
「都市が回ってる」
フレイが、静かに頷く。
「守りも問題ない」
「判断も、止まらない」
アクアが続ける。
「金も、増え続けています」
つまり。
「俺たちが張り付く理由が、もうない」
条件
「ただし」
俺は、指を一本立てた。
「条件付きだ」
「在籍しない?」
セレナが即座に言う。
「それ」
「命令も受けない?」
「当然」
ノクスが笑う。
「向こうが“学ぶ側”ですね」
「そう」
俺は、封書を畳んだ。
「俺たちは、戻るんじゃない」
一呼吸。
「通るだけだ」
夜、都市は静かだった
その夜。
通界は、いつも通り回っていた。
港は灯りを落とさず、
市場は明日の準備をし、
守備隊は定刻で交代する。
誰も、俺たちを待っていない。
それが、何よりの証明だった。
学園は、過去だ。
だが、無視できない過去でもある。
そして今。
過去の方から、頭を下げてきた。
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