第25話 都市は、人で回す
「……で」
俺は、円卓を見渡した。
「この中で、俺の代わりに“決める役”をやってくれる人?」
沈黙。
重い沈黙。
誰も、目を合わせない。
「え、ちょっと待って」
セレナが慌てて手を振る。
「それ、責任重いやつだよね? 失敗したら怒られるやつだよね?」
「怒らない」
「嘘だ」
即ツッコミが入った。
「失敗したら、静かに理由を聞くだけだ」
「それが一番怖いんだよ!」
分かってるな。
「まずは分野ごとに分けよう」
俺は紙を出した。
「全部を一人で見るのは無理。
だから、“決めていいこと”を限定する」
アクアが即反応する。
「判断権限の階層化ですね」
「そう。
俺がやるのは“最後の確認”だけ」
「つまり、普段は出てこない主」
「うん。幽霊議長」
「言い方!」
財政担当
「じゃあまず、金の話」
全員の視線が、自然とアクアに集まる。
「……私しかいませんよね?」
「うん」
「ですよね」
アクアは深く息を吸った。
「税率変更は不可。
予算の再配分は可。
非常時支出は、上限付きで可」
すらすら出てくる。
もう考えてたな、これ。
「条件は一つ」
アクアが俺を見る。
「帳簿、全部見せますよ?」
「どうぞ」
「夜も呼びますよ?」
「覚悟してる」
フレイが、ぽつり。
「……夫婦か?」
「違う!」
即否定した。
治安担当
「次、治安」
これはもう決まっている。
「フレイ」
「了解した」
即答。
「ただし」
フレイは続ける。
「私が前に出るのは“最悪の場合”だけにしたい」
「同意」
「部隊長を立てる。
判断基準も決める」
その横顔は、完全に指揮官だった。
――もう、この街は“個人武力”じゃない。
医療・福祉担当
「ルミナ」
「はい」
「判断、できる?」
ルミナは少し考えてから、微笑んだ。
「命に関わることなら」
「それで十分」
「ただし」
ルミナは、優しく言った。
「“救えない”判断も、私がします」
場の空気が、少しだけ締まる。
でも、それが必要だった。
交易担当
「交易は……」
俺が言いかけた瞬間。
「商会側と、港管理官の合議制で」
ノクスが即答した。
「どっちかが暴走したら?」
「止める。裏から」
「だよな」
頼もしすぎる。
情報担当
「で、ノクス」
「はいはい。裏方ですね」
「問題起きたら?」
「主に届く前に消します」
軽い口調。
内容は重い。
全員、役割が決まった。
……はず、なのに。
「なあ」
セレナが手を挙げた。
「私、何やるの?」
一瞬、全員が止まる。
「……」
「……」
「……あ」
完全に忘れてた。
「え、私いらない?」
目が潤む。
「違う違う違う!」
俺は慌てた。
「セレナは――」
考える。
速い。柔軟。現場慣れ。
「現場判断役だ」
「なにそれ?」
「現地で迷ったら、セレナの判断を優先する」
一拍。
「……それ、自由裁量多すぎない?」
「多い」
「楽しい?」
「楽しい」
セレナが、にやっと笑った。
「じゃあやる!」
会議が終わった後。
アクアが書類を抱えながら言った。
「……主」
「ん?」
「これ、もう“都市”ですね」
俺は、窓の外を見る。
人が動いている。
金が回っている。
誰かが判断している。
「うん」
静かに答えた。
「だからさ」
俺は、少しだけ笑った。
「置いて行ける」
この街は、もう。
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