第13話 光属性は、争いを終わらせる
街が、落ち着きすぎていた。
夜の巡回は静かで、裏の流れは整理済み、物資は回り、冒険者同士の小競り合いも減った。
(……逆に、不自然)
ノクスが、静かに言った。
「“火種”が、溜まってる」
(来た)
原因は二つ。一つは境界で、街が育ちすぎて周辺領主の利権に触れ始めた。もう一つは宗教――「魔力の流れを乱す異端の街」という噂だ。
(……どっちも、通せないな)
殴れば終わる相手じゃない。
かといって、放っておくと膨らむ。
(僕、こういうの、いちばん苦手だ)
その朝。
街の中央で、公開口論が起きた。
「ここは、神の祝福を受けていない!」
「異端が人を集め、魔を招いている!」
白衣の一団。
聖印。
典型的な教会使節。
(予想通り)
フレイが、前に出ようとする。
(火は、最後)
セレナが、風を張る。
(抑止)
ノクスは、すでに裏を回している。
(準備、完璧)
そのとき。
群衆が、ざわめいた。
光が――
柔らかく、降りた。
誰も、熱を感じない。
眩しさも、ない。
ただ、安心だけが広がる。
「……なに?」
「落ち着く……」
(あ、これ)
光の中から、女性が歩いてきた。
白銀の髪。
簡素な装束。
飾り気はない。
でも――場が、静まる。
「争う必要は、ありません」
声は、強くない。
でも、逃げ場がない。
「ここは、人が生きる場所です」
教会使節が、顔をしかめる。
「何者だ」
「……名は、ルミナ」
光属性の術士。
同時に――調停官。
(来た)
「神の名を使うなら」
ルミナは、穏やかに続けた。
「神の望まない争いを、なぜ続けるのですか?」
(正論パンチ)
使節の一人が、言葉に詰まる。
「……だが、この街は!」
「秩序があります」
ルミナは、街を一望した。
「怪我人は?」
「飢えた者は?」
「盗みは?」
(……全部、低い)
アクアが、帳簿を差し出す。
「数値、出せます」
(容赦ない)
沈黙。
群衆の空気が、変わる。
怒りが、困惑に変わる。
ルミナは、最後に言った。
「裁くなら、後で」
「今は――」
「争いを、終わらせましょう」
その瞬間。
光が、街全体を包んだ。
誰も倒れない。
誰も支配されない。
ただ――
剣を抜く理由を、忘れた。
教会使節は、引いた。
「……上に、報告する」
(勝ち)
夜。
拠点の会議室。
全員が揃う。
風。
水。
土。
火。
闇。
光。
(……揃ったな)
ルミナが、静かに言った。
「ここは、もう街じゃありません」
「国家未満の、国家です」
(言われた)
フレイが、笑う。
「戦争の匂いが、減った」
ノクスが、頷く。
「代わりに、交渉が増える」
アクアが、帳簿を閉じる。
「維持できます」
全員の視線が、僕に集まる。
(来るよね)
「……僕は」
少し考えて、言った。
「面倒な争いは、嫌いです」
「だから――」
「最初から、起きないようにします」
言ってから、ルミナが少しだけ首をかしげたのが見えた。
「リクスさん」
「はい」
「争いが起きないことと、誰も怒っていないことは、別です」
(……え)
「今日の使節は、引きました。納得はしていません」
穏やかな声のまま、彼女は続けた。
「終わらせるのは、消すことではありません。
どこかへ置いておくことです」
(……置き場所)
「私は、それを預かる役です」
(重い仕事だ)
地下観測室。
水晶は、もう警告を出さない。
《状態更新》
構造:国家原型
要素:七属性(中核完成)
危険度:安定化
「……観測、終了か」
記録係の椅子は、とうに空いていた。
夜の街。灯りが揺れる。
風が通り、水が循環し、地が支え、火が守り、闇が裏を整え、光が争いを止める。
そして――中心に、僕がいる。
(……これ)
(学園、戻る意味ある?)
これで七属性そろいました。
そろった瞬間に「街」ではなくなるので、ここからが面倒です。




