第十三話。決定まであと二日。
なんだかすごくあったかい。ふわふわ…というよりギュッとされているような感じだ。
ぱちりと目を開けると、目の前にヒューガさんの寝顔があった。
「…。…っ!!??」
起こさないようになんとか声を小さくする。動こうとしたら背中とお腹に何かが当たった。
「うぉう」
今度こそ本当に声が出る。腕の中で小さく(少年サイズに)なったフェーンさんがくうくう眠っていた。
作り物か何かですかと疑いたくなるようなかっこいい顔と、うるきゅるのかわいい愛らしい顔。そして後ろから包み込む安心感とあたたかさ。なんか布団の中でふわふわするしっぽ×3。
起きたらそれに囲まれていた俺の心情たるや半端ないものであった。これは俺なんかが息をしていいんだろうか。
「ぅん…。おはよう、修斗…」
もぞぞ、とふわふわした耳が首筋に当たって、ひゃんという声が出た。その声でみんなもそもそ動き出す。
「おはよぉ、しゅーと」
ひょこんと一番最初に起き上がったのはフェーンさんだった。続いて俺も身を起こし、ジュダさんも起きる。
「ヒューガ、起きてぇ」
いやだ〜……、と声が返ってきて、そのまま布団の中にヒューガさんが埋もれていく。フェーンさんが揺り起こしている間に、ジュダさんは髪をとかして俺をひょいっと抱き上げた。
「えっ、わ!?自分で歩ける…!」
二十八歳成人男性を軽々とお姫様抱っこできるとか、ジュダさんすごい。でも俺、重くないですかね。
「やだ。ぼくがしたいの〜」
そう言って意外とがっちりと俺を抱いて、ずんずんジュダさんは進んでいく。後ろから感じる非難の視線。
「あの、重くないですか!?」
「ないよ〜」
しれっと返されてしまった俺は、逃げられそうもないし、諦めてジュダさんに掴まらせてもらうことにした。
◇◇◇
とりあえず、お腹と腰がぼんやり怠い。あとちょっと痛い。でもまあ、初めてにしては上々の体調なのではないだろうか。
「しゅーと、痛くない?」
「ない…と思う。ありがとう」
昨日、敬語じゃなくていいと言われたのでやってみる。三人ともびっくりした顔をしたあと、ふわわっと笑顔になる。
「嬉しい!」
「ふは、そちらの方が良い」
フェーンさんとヒューガさんがぎゅぎゅっと抱きついてきた。むぎゅ、となって、でもすごく嬉しい。
「…本当に、誰かを選ぶ…とかはないんだよな」
「「「ない」」」
三人の答えがパキッと揃った。
そう。
昨日知ったことだけれど(というか薄々そうじゃないかと思ってはいた)、三人の誰かから選ぶ必要はないらしい。
体の相性はよかった(経験がないから判断は微妙だけど、すごいよかった)。だからもう、俺が何か拒む理由はない。ないんだよなぁ…。
元の世界に未練があるっちゃありはする。でも死んでるし、戻りようがないからしゃーなしです。
「今日はねー、なんと午後にサプライズがあります!」
ごちそーさまでしたと手を合わせたフェーンさんが、ヒューガさん口元を拭われながら言う。サプライズですと?
「サプライズ?」
「そう!まだ秘密だよぉ」
ふへへー、と嬉しそうに笑ってフェーンさんがお皿を下げる。楽しみにしておれ、とヒューガさんにも言われた。
…なんだろ?
◇◇◇
「修斗」
部屋で本を読んでいると、ドアがノックされる。開けると、髪を低めのポニーテールにしたジュダさんが立っている。
「みんなで『お出かけ』に行きませんか」
最初に領地観光した時の、細かな金糸の刺繍の入った白シャツに赤いベスト、足の長さが際立つ黒の長いズボン。綺麗な服に負けない美麗な顔が、笑顔で俺を外へと誘ってくれた。
…ホントに誘う相手間違ってない??
昨日あんなことやこんなことをしたとは言え、まだこの国宝級イケメン×3が俺を好いてくれているという実感が湧かない。ちょっと釣り合って無さすぎる気がして不安なのだ。なのだが、そんなことは問答無用でジュダさんに抱き上げられ連れてかれる。意外と強いんだよな、ジュダさん。
「あの、重くないすか」
「ないよぉ」
周りから、ほやほやとあったかオーラと花が出てきてる気がする。俺のことを軽々と抱き上げてるとは思えないくらい。
「む、よく来た!」
「ちょっと髪やってるんですけど!?」
ヒューガさんが着ているのは、濃いグリーンの服に白い上着、すらっと長い足に沿うグレーのズボン。褐色肌に、金と黒の目が良く映えている。
きりりっと歓迎してくれたヒューガさんだが、急に動かないでよとフェーンさんに頭を叩かれていた。髪を結んでる途中だったみたい。
フェーンさんは、いつものマリン服(?)だ。濃いめの青のセーラー襟の服に淡い黄色のネクタイ、白い脚が際立つ水色の半ズボン。ふわふわ元気な髪の毛は、ハイポニーテールになっていた。
「…ほら、できた。ごめんねー、お待たせ!」
ヒューガさんの髪をきゅっとハーフアップにして、フェーンさんが駆け寄ってくる。いつもにも増してイケメン度が高くキラキラしているのは、俺が好きだと自覚してしまったからだろう。
「しゅーと?真っ赤だよ?」
どうしたの?とあどけない顔で見上げられる。…うぅ、反則の可愛さ。
「我らの花嫁は可愛いな」
「本当にね」
笑って、ヒューガさんが手を差し出した。
「今日は我が先導したい気分なのだが、良いだろうか?」
ふわ、と想像もしていなかった(失礼)優雅な仕草で、ヒューガさんが俺の手を取る。俺より大きい、ちょっとゴツゴツしてざらざらしてる、男の人の手だ。
「へぁ、はぃ…」
意識しないようにと思っても無駄で、心臓がバクバク言う。俺、こんな意識するタイプだったのか…。
がこん、と音がしてドアが開く。太陽の眩しさに少し目を細め、でも入ってきた光景に瞬いた。
大通りに所狭しと並ぶ屋台。楽しげにはしゃいでいる獣人たち。通りに溢れている笑顔、楽しくて仕方がないという声。
「これって…!」
「うむ。そちらの世界にもあるであろう?」
にっと笑ってヒューガさんが返してくる。そのイタズラっぽい笑顔にまたキュンとしてしまった。
この楽しさと賑やかさ。おそらくあっちの世界からきたらしい文化。つまりこれは。
「お祭りだ…!」




