第十一話、お茶をしよう
リシュートカさんが話してくれたことは、だいたい理解できた。要するに、なんかオメガの人たちは妊娠ができるらしいということだ。
犬系の獣人には、特にアルファが多いらしく、ヒューガさんもジュダさんも、フェーンドリヒさんもアルファだそうだ。
印は腕のアザらしく、それも見せてもらった。薄桃色の花がとても綺麗だった。
俺の立ち位置はこちらの世界で言うとベータ、まあ中間層だ。本当に俺でいいのか不安になるが、問題ないと一蹴してもらった。神様、俺もオメガになった方が良かったんじゃないですかね。
「…っはぁ〜、ムズカシイ…」
異世界での俺の役割って、結局なんだ?
なんかいると、オーラ!みたいなのが発されるってことだろうか。それでわーっと世界を実りあるものに!的な?
でもそれで愛されても、それは俺に向けられた愛じゃない気がするっていうか…。
「…どうしたの?お悩みごとかな」
「うっお、ジュダさん!」
ぼーっと街並みを眺めていたら、横にいつのまにかジュダさんが立っていた。はぁいジュダです〜、と柔らかく返事をされる。
金色の長い髪が決して派手じゃなくて、むしろ落ち着いた高貴さを纏っているような感じがするんだよなぁ。イケメンというより麗しいって言った方が正しそうだ。たぶん美男子、がしっくりくる。
「今日はもう帰ろうと思ってたんだけれど、少しのんびりしちゃおうか。そうだなあ、お茶でもどう?」
二人っきりで、ね。くすりと微笑んで言われた。二人は現在手合わせ中らしいので、秘密だそうだ。
◇◇◇
「どうぞ〜。ルーナのお茶だよ。確かそちらの言葉ではアールグレイティー…だったかな」
「わ、ありがとう…。詳しいんだな」
そう言えば、肉の解説をしてくれたのもジュダさんだった。三人の中でも飛び抜けて、俺のいた世界に詳しい気がする。
「まぁね〜。突然こんなことになって一番戸惑ってるのはきみだと思うから、少しでも力になれたらなぁって」
ぼくらの世代で花嫁さんが来るって知った時から、一応勉強はしてたの。
にこにこと言っているけれど、めちゃくちゃすごいしありがたい。だって、異国語を学ぶようなものだと思うんだ。あるものすら違う世界の。
「ふふふ、そんな大層なことじゃないよ」
照れたようにぱたぱたと耳を動かして笑うジュダさんに、ぽろっと言葉がこぼれ落ちた。
「…俺がここにいていい理由って、なんだ…?」
ふっと滑るように言葉が出てしまって、焦る。ジュダさんの丸い目が痛かった。軽く口を開けて戸惑っているのがわかり、居心地が悪くなる。
「ごめん、そういうつもりじゃなくてっ…!あの、えっと」
「…理由、と言われると…ね。花嫁っていうだけでもう、いてくれるのはありがたいけど」
「…っそれ、俺である必要ないじゃん!」
思わず叩きつけるような強い言葉になってしまって、後悔した。でもジュダさんはあまり動じないで、じっと見つめてくる。
「…そうだね、国にとってはそうかもしれない。異世界人ってだけで解決することもあるんだろうね」
き、と立ち上がってゆっくりジュダさんが近づいてくる。なぜか逃げられなくて、ただ、滑らかな手が俺の手を柔く握るのを感じていた。
「でもね、ぼくはきみで良かったと思っているよ。ここ数日しか過ごしていないぼくが言っても信じてもらえないかもしれないけれど、本当だ。ぼくらを怖がらないでいてくれるよね。それに、困惑しているだろうに馴染もうとしてくれている。きみがしようと思えば、ぼくらの提案を突き放すことだってできた。でも、ぼくらの言葉を聞いてくれた」
柔らかな笑顔が真剣な目に変わり、俺を映す。
「好きだよ、修斗。ぼくにとってのきみの代わりはいない。きみじゃなきゃだめなんだ。…選ぶのは強制したくないけれど、ぼくの思いを知ってくれると嬉しいな」
とん。中指と人差し指に、柔らかな唇が当たった。好きです、が頭に響く。
「…それとね、ぼく以外の二人も一緒だと思うんだ。これでは答えにならないかもしれないけれど、少なくてもきみがいなくていい、違う人で良かったという理由は僕らにとってないよ」
ね。
そっと微笑むジュダさんに、つっと涙が溢れた。あたたかく溶かしてくれる言葉が、何か、心の中での居場所を作ってくれた気がして。
ジュダさんが親指で涙を拭ってくれて、頭も優しく撫でられる。
ぼろぼろと子供みたいに泣く俺を、穏やかな力で抱きしめて。その温もりがなぜかただただ、心地よかった。
水曜日週一投稿に戻します!
前に投稿した物の後書きとかをいじる可能性大です。それと、あと少しで一旦完結します




