第十話、ウェードリグールには海がある ②
「お忍びだよっ、しゅーと!」
馬車からてんてんっとリズムよく降りたフェーンさんが、俺を振り返ってニッと笑う。黒いフード(ポンチョ?)をかぶっていて、なんか小学生みたいでかわいい。
「じゃあフェーン、先に行ってるね」
「はーい!お土産何がいい?」
「魚!」
「貝が食べたいなぁ」
「しょーちしました!」
じゃ〜ね、とジュダさんとヒューガさんは馬車で先に王城へと向かう。さすがに目立ちすぎてお忍びにならないためだ。
「あのねぇ、ボクこういうの好きなんだ!だってほら、みんなと近いもん!」
ぱてぱてと俺の手を引きながら駆けていく。白い壁が綺麗な家からは人のいる気配がしない。謎に思って聞いてみたら、みんな海にいるからだそうだ。
海沿いの通りからは浜焼きのいい匂いがする。くんくんしていると、フェーンさんも一緒に風の匂いを嗅ぎ出した。
「…美味しそうな匂いがするね!」
「だな」
ぐうぅ〜っと二人同時にお腹を鳴らしてから、海岸に向かって俺らは歩き出した。
◇◇◇
「へい、らっしゃいらっしゃい…あ、フェーン様じゃないか!」
「あらあらぁ、帰ってきたのかい?」
「ふぇーんさま?」
「えぇーっ、バレるの早すぎでしょー」
海岸に行って牡蠣焼きを買おうとした瞬間、売り手のおじいちゃんにバレている。小さい子もトテトテと出てきた。
「なんでみんなボクだってわかるのさー…。もういいもん、お忍び終了!」
てしっとフードを脱ぎ捨てるフェーンさん。…お忍びの意味とは。
まあ黒フードは暑いからね。俺も脱ぐ。その間にわらわらと人が集まってきてた。
「だーっ、もう!みんななんでこっち来るのさ!お店やろうよ!」
「火は消してきたからのう!」
「観光客をほっぽるなぁ!基本ボクはこの国内にいるでしょーが」
おじいちゃんおばあちゃんの包囲網から抜け出してきたフェーンさんの手には、大量のご飯とお菓子。
「しゅーと、お昼ご飯めっちゃゲットした」
「おう、お疲れ」
「あらやだわぁ、別嬪さんねえ」
「おお、格好良いお方じゃのう」
「だめぇっ、しゅーとはボクのー!」
…うん、とりあえず賑やかだ。
◇◇◇
「ん、おいひ…」
「でしょっ!ボクの自慢の領地ですから」
ふふん、とばかりに胸を張りドヤ顔を決めるフェーンさん。もらった牛串…じゃなくてポム串?はがっつり塩味で肉汁がたっぷりだ。
「んむ…。昔ね、ここは『へきち』だったんだよ。海のせいで作物は育たないし、山は多いし。あんまり人もいなかったんだぁ」
もむもむと食べ進めながら、フェーンさんが言う。
「それをね、『あっち』から来た花嫁さんが解決してくれたの。ポムを作ったり、海産物を獲ったり、あと柑橘類を栽培したり。その方のことは皇后様、って呼んでる。今は確かルーグルルドにいらっしゃるんだけど」
「…!」
花嫁、の言葉に少し反応する。そうか、俺の前にも人はいたのか。
「花嫁さんが来るとね、みんな子供を生むようになるの。作物もいっぱいできるの。ちょっと危ないかなー、みたいなところで花嫁さんは毎回来るんだって。今回もね、実はちょっと収穫量が少なめだったんだよ。だからしゅーとが来てくれて助かった」
「え…。俺、なんもしてないぞ」
「そういうものなんだよ、きっと。ここは獣人しかいないでしょ?だから、たぶん異世界から来た花嫁さんがいることで、何かがハマるんだと思う」
きっとだけど、と言ってフェーンさんがもう一回笑う。
こんな小さい子が、なぜ、王なのか。その理由を垣間、見ることができた気がした。
こんばんは。
本当はもう少し前に投稿する予定だったんですけど、ちょっとゴタゴタしてて…。遅くなってすみません。
ちなみに現実世界では雪が降るお正月なのですが、あちら(こちら?)の世界は涼しめの夏です。季節感バグりますね。
遅くなりましたが今年もよろしくです。
追記:ごめんなさいめっちゃ投稿ミスりました




