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二話

「はあ、はあ、はあ……っ!」

無我夢中で走った。とにかく、あの場から逃げ出したかった。

先ほど見た“魔法”の光景が、頭から離れない。まるで、自分の努力を否定されたよう

で怖くてたまらなかった。

(どうしよう……)

今までの自分は、村の大人たちから褒められ、友達の二人にも尊敬される存在だっ

た。

それが唯一のモチベーションだったのに、たったひとつの“魔法”で全部がひっくり返り

そうな気がする。 ――カイルの傷を治したあの光が、まるで自分を嘲笑しているように見えたのだ。

「……あれ?」

気づくと、家の前まで戻っていた。必死に走り続けていたせいで息が切れている。

そこに母が顔を出す。

「ロク? そんなに息を切らしてどうしたの? 忘れ物でも?」

一瞬、「なんで僕は魔法を使っちゃいけないんですか!」と叫びそうになったが、ギリ

ギリこらえる。

「そ、そうです! ちょっと……忘れ物があって!!」

脳内は混乱しているが、とりあえず適当な言い訳を口にする。母はくすっと笑い、

「ふふふ、ロクにもそんなことがあるのね。」

「な、何ですかそれ! 僕だって忘れ物くらいしますよ!」

(そう……俺はできるやつで完璧だと思われたいんだ。だから毎日あんな“努力”をし

てる。褒められたい、認められたい――)

そう自分で思い至った瞬間、ふと気づく。父は朝食のときから姿を見ていない。

「そういえば父さんはどこか出かけたんですか? 朝しか見かけなかったので。」

母の反応はどこか曖昧。

「んー……どうして?」

「いや、別に……朝食のときしか見てないので。」

どこか話を逸らしたいような雰囲気を感じながら答える。

「お父さんはね、昔の知り合いに会いに行ってるわ。しばらく帰らないって。」

母の声には「これ以上聞かないで」という空気が混じっている。

ロクは戸惑いながらも、同時に内心“ラッキーだ”と思った。

(ちょうどいい。父さんがいないなら、例のアレを黙って借りられそうだ。)

母に簡単な別れを告げると、急いで“忘れ物”を取りに父の書斎へ向かう。めったに入

らないその部屋に緊張しつつ、目当てのものを探す。

「あ、あった!」

『魔法基礎 1 冒険者協会』と書かれた本。

それを包みに隠し、見つからないように家を出る。

(よし……)

今度は先ほど駆け抜けた道を、また全力で戻る。

さっきの出来事など忘れたように、ロクはワクワクが止まらない。

(あの二人に魔法が使えたんだ! 俺にできないはずがない!)

息を切らしながら人目のない森の奥へと分け入り、その場で本を開く。

「……うお……初めて見る内容ばっかだ……」

〈基礎魔法 1 冒険者協会:抜粋〉

……冒頭より抜粋……

はじめに

我々が「魔法」と呼ぶ力は、人々の体内に宿る“魔力”を代価として行使する術であ

る。2000 年前に、偉大なる先人――かの「英雄ギルド」によって体系化され、多くの者

が扱えるようになったと言われる。

魔力は人類の身体そのものに内在するエネルギー源であり、“まったく魔力がない”と

いう存在は理論上は確認されていない。すなわち、誰もが研鑽さえ重ねれば、ある程

度の魔法を行使し得る素質を持つことになる。

1. 魔力と“お告げの日”

五歳になると受ける「お告げの日」は、自身の魔力量や得意系統、使命ロールを見

極める大切な儀式である。もし才能が著しく高いと判明すれば、冒険者協会より“仮

資格”が与えられ、早期教育プログラムを受けられる栄誉を得る。

ただし、魔力が多くても技量が伴わぬまま強大な魔法を使えば、身体に大きな負担を

かけるため禁物である。また、魔力が少ないと判定された者であっても、日々の努力

で補える部分は大きく、絶望する必要はない。

2. 魔法行使の基本構造

① 術式の詠唱:魔術言語や先人の定めた“術式”によって魔力の流れを整え、意図

した効果を引き出す。

② 魔力の対価:自身の体内魔力を消費する。行使後は疲労感や空腹を覚える場合

が多い。大規模魔法ほど危険を伴う。

③ 行使と収束:目標に向けて魔法効果を発動させる。終了後、魔力の“揺り戻し”を

抑える技量が必要とされる。

3. 才能と技量、そして努力

人の魔力量や適性は個々人で異なるが、同じ魔法でも使い手によって威力や効率は

大きく変わる。冒険者を目指す者は、まずは基礎的な生活魔法の習熟から入り、自分

の素質を見極めることが推奨される。

また、いくら魔力量に恵まれていても、“正しい訓練”を怠れば効果的に魔法を行使で

きない。努力を重ね、実地経験を積むことが何より重要である。

4. 冒険者協会の役割

本書は、冒険者協会が長年の研究成果をもとに編集・発行している。協会は魔法の

普及や安全な指導の場を提供するだけでなく、“お告げの日”後の進路や教育支援に

関わっている。

帝国アルスを中心に、多くの王国・都市国家が協会と協力し合い、才能ある冒険者の

育成に力を注いでいる。

……以下、応用的な章に続く……

「応用魔法(攻撃・防御・補助)の具体的な術式一覧」や「自己管理の重要性」「仮資格

から正式冒険者への流れ」等が掲載されている。

「なるほど。“お告げの日”……」

ロクはその章を読み進めながら、自分も近々来るこの儀式で才能を示し、英雄になれ

ると確信する。毎日こんなに努力しているのだから、自分は絶対に“特別”な側に行け

るはずだ――そう信じている。

(そうだ、きっと俺は……俺なら英雄になれる。よし!)

彼は本の後半に書かれている「生活魔法」の項を見つける。

「生活魔法……ウシュー? あれがカイルの使ったやつかな? 純粋な魔力量に比

例するらしいけど……まあ俺なら森一つを水浸しにしちゃうかもな。」

期待に胸を膨らませ、ロクはコホンと気合を入れる。

「“ウシュー!”」

……静寂が訪れた。

なにも起こらない。

「……あれ? 術式が違うのか? う、ウシュー! ウシュ! 生活魔法ウシュー!」

懸命に唱え続けるが、一滴の水も出ない。徐々に焦りがこみ上げる。

「うそ、なんでだよ……ウシュー! うシュ!……うyす……ううっっ!」

ついに膝をつき、地面にへたり込んだロクは涙が溢れそうになる。

「そんな……あるわけない。俺、こんなに努力してるのに……!」

情けなくて恥ずかしくて、呼吸が苦しくなる。視界がぼんやりと揺らぎ、急激な眠気に

襲われる。――そのとき、

「パキッ」

後ろで小枝の折れる音がした。慌てて振り返ると、そこにはさっきのミナが気まずそう

に立っていた。

「あ、あの……ロク……」

二人の視線が交差する。ロクは動揺し、何も言えずに固まってしまう――。

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