銀河
銀河の冒険 銀河は、おじいさんと別れて、ひとりで旅に出た。
「さあ、行くぞ!」
銀河は大きな声を出した。
「うん」
と、ポックが言った。
ふたりは、歩き続けた。どこまでも歩いて行った。そして、ある町についた。その町で、ふたりは泊めてもらえる家を見つけた。その家の持ち主は親切で、ふたりのことをとても歓迎してくれた。銀河は、ポック
「ポック、これからどうする?」
「銀河、この町で、しばらくゆっくりしようよ」
と、ポックが言った。
銀河は、うなずいた。
ふたりは町の中を散歩した。公園があった。その公園のベンチに銀河が腰をおろすと、となりにポックが座った。
「ねえ、銀河」
と、ポックが言った。
「なんだ?」
「ぼくたちのおじいさんは、ぼくたちをとても愛していてくれたんだね」
「ああ、そうだよ」
「ぼくたちも、おじいさんを愛していたよ」
「ああ、そうだよ」
銀河はポックにそう言ってもらって、とてもうれしかった。銀河は、ちょっと考えごとをした。それから、銀河が言った。
「おじいさんが亡くなってから、もうずいぶんになるなあ」
「うん」
「でも、ずいぶんといっても、ほんのわずかの時間だったんだね」
「うん」
ふたりはしばらくだまっていた。公園の時計が二時を打った。銀河が言った。
「……この町へ来てよかったね。それに、とても親切な家が見つかったし、公園もあって、静かでいいところだ。これからゆっくりできそうだね」
「そうだね」
銀河は心の中で思った。
(でも、いつまでもここにいるわけにはいかないんだ)
(ぼくたちが大人になっておじいさんになるまでには、ずいぶん長い年月がかかるだろう)
「銀河」
とポックが言った。
「なんだ?」
「ぼくはね、ときどき考えることがあるんだよ。ぼくたちは大人になったとき、どうなっているのだろうかってね」
「うん」
「ぼくはね、大人になったら、おじいさんのような天文学者になるのが夢なんだ」
「うん」
銀河はだまってうなずいた。それからポックの顔を見て言った。
「きみの夢がかなうといいね」
ふたりは町の中を散歩した。デパートがあった。店があった。レストランもあった。病院もあった。どこを歩いても静かだった。夜になると、とても暗くなったけれど、そのかわり星がとてもきれいに見えた。ふたりは126階建ての高いビルを見つけた。そのビルの屋上には、
「望遠鏡・プラネタリウム」
と書いたネオンが輝いていた。銀河は、そのビルの屋上にのぼってみたいと思った。ポックを誘ってみた。
「のぼってみようか?」
「うん、のぼってみよう」
ふたりはエレベーターに乗って上にあがって行った。エレベーターにはいろいろなボタンがついていて、そのボタンを押すたびにエレベーターが上ったり下りたりしていた。ずいぶん時間がかかるので、耳が変になった。やっと屋上についた。そこにも低いビルが建っていて、その屋上からも同じくらいの高さの山
「あの山には天文台があって、天文学者ががんばっているんだ」
とポックが言った。ふたりは屋上のはじに建っているビルの中へと入って行った。ビルの屋上から望遠鏡で星を見せてくれるのだった。ふたりは望遠鏡をのぞいて星を見た。そして、床に敷きつめてある緑色のビニール・タイルの上に横になった。とても気持ちがいいながめだった。銀河はポックに言った。
「大人になったときかあ……」
「ぼくたちが大人になるころには、宇宙へ行けるような乗りものができているかなあ」
「うん、できるといいね。それにはお金がかかるから、ぼくたちも働いてお金をためなくちゃいけないね」
「うん」
銀河は大人になったときのことを考えた。そして言った。
「でも、ぼくは天文学者にはなりたくないな」
ポックはだまってうなずいた。ふたりは床に敷きつめてある緑色のビニール・タイルの上に横になって、星をながめながら話を続けた。やがて夜がふけた。ふたりはビルの屋上を出て階段を下りて行った。ビルの玄関には
「当ビルには、いろいろな仕掛けや工夫がしてあり、楽しいひとときを過ごしていただけます」
と書いてあった。
ふたりはまた町の中を散歩した。夜になるととても静かになった。そして、空には星がきれいに輝いていた。銀河は心の中で思った。
(ぼくたちは大人になったら、どんな仕事をするのだろう)
(天文学者になるのかな。それとも、ほかの仕事につくのかな)
ポックが言った。
「ぼくは天文学者になりたいな」
「うん」
「でも、天文学者になるには、ほかの人よりも勉強しなければならないだろうね」
「うん、そうだろうな」
銀河は大人になったときのことを考えた。そして言った。
「ぼくたちは天文学者になる勉強をして、それからほかの人よりも早く働けばいいさ」
ポックがだまってうなずいた。ふたりは町の中を歩き回ったあと、公園のベンチにこしかけて休んだ。そして銀河が言った。
「ああ、ぼくは天文学者になるよりほかの仕事につきたくないな」
ポックがちょっと悲しそうな声で言った。
「でも、ほかにどんなものに……」
「まだわからない。でもぼくは天文学者になるのがいやなんだ」
と銀河は言った。
ふたりはまた町の中を歩き回った。そして公園に行ってベンチにこしかけた。ポックが言った。
「ああ、ぼくは天文学者になるよりほかの仕事につきたくないな」
「うん」
銀河はだまってうなずいた。そして心の中で考えた。
(大人になったときかあ……)
(天文学者になるのがいやだなんて……)
ふたりが町の中を散歩していると
「あら、こんにちは」
と声をかけられた。声のしたほうを見ると、そこには三十歳くらいの女の人が立っていた。ふたりはちょっとびっくりした。その女の人はにこにこ笑いながら近づいてきた。そして銀河たちの前に立つと、もう一度言った。
「こんにちは」
銀河がちょっとはずかしそうに答えた。
「あ、こんにちは……」
(知らない人と話をしてはいけません)
といつもおじいさんに言われているのだ。でも銀河はその女の人がいやではなかったし、とてもやさしそうな人に見えたので、つい言ってしまったのだ。
「ぼくたちになにかご用ですか」
「ええ。あなたがたがこの町にはじめて来た人でしょう。だから、あいさつしようと思って」
「そうですか」
とポックが答えた。その女の人は話を続けた。
「わたしはね、この町に住んでいるの。天文学者なの」
銀河はだまってうなずいた。そして心の中で考えた。
(この人は天文学者なんだ)
ポックはその女の人にだまっていないで言った。
「ぼくは、天文学者にはなりたくないんです」